過激なXPS 730の過激なオーバークロック性能を試してみた(条件付)Alienwareに負けられない

» 2008年08月01日 16時30分 公開
[長浜和也,ITmedia]

数少ない「フルタワーPC」はいまだ健在なり

前傾姿勢はそのままに、フロントパネルのデザインが従来モデルより複雑になったXPS 730

 ユニークな前傾姿勢が特徴のXPS 700シリーズはデルの過激なゲーミングPCブランドとして日本のユーザーにも広く認知されている。PCゲームがいまひとつメジャーになりきれていない日本の市場で、長らくショップブランドが取り組んできた「ゲーミングPC」というハイパフォーマンスのフルタワーPCを、一般のユーザーに広めてくれた。デルの米国本社からは、ゲーミングPCとしてのXPSラインアップを買収したAlienwareに移行するというアナウンスもあって(このあたりの事情は「ついにAlienwareが日本上陸!?――Dellが考えるコンシューマーPCとノートPC」に詳しい)、“前向き”なXPS 700系の行く末は不透明であったりするが、少なくとも日本のデルは、2008年夏の最高峰PCがXPS 730であるとコメントしている。

 XPS 730のメカっぽくなった外観と一新された水冷空冷のハイブリッド冷却機構「H2C 冷却システム」については、すでに「Core 2 Extreme QX9770を3.8GHzで動かせっ──もっと過激になったデルXPS 730登場」で紹介しているが、その過激になったパフォーマンスを今回は紹介したい。

 XPS 730発表当時のリリースには、CPUのBTOでFSB1600MHzに対応したCore 2 Extreme QX9770が選択できただけでなく、定格の動作クロックが3.2GHzのところを3.8GHzまでオーバークロックしたモデルも用意するとアナウンスされていた。残念ながらこの評価作業を行っている2008年7月下旬までに、Core 2 Extreme QX9770はCPUの選択肢として用意されておらず、選択できるCPUの最高クロックはCore 2 Extreme QX9650の定格設定である3.0GHzとなっている。

 今回評価に用いる機材は、そのCore 2 Extreme QX9650を搭載しているほか、グラフィックスカードにはデュアルGPUを搭載したRadeon HD 3870 X2が組み込んである。冷却システムはいうまでもなく“前向き”なXPSの象徴ともいえる「H2C冷却システム」だ(BTOでは空冷のみ搭載する選択肢も用意されている。ちなみに、H2C冷却システムを選ぶと8万9250円の追加投資となる)。せっかくなので、「日本で入手できるXPS 730」の最高スペックが発揮するパフォーマンスを、定格設定の3.0GHzだけでなく「Core 2 Extreme QX9770なら3.8GHzで動作する」倍率11倍で設定される3.6GHzでかっ飛ばして測定した。

ワンボックスから分散型に進化したH2C冷却システム

 このような“非常識”なオーバークロックを可能にしてしまうH2C冷却システムを、もう少し詳しく見てみよう。XPS 720に搭載されていたH2C冷却システムが、フロントパネルからバックパネルまで達する細長いフードの中にすべてのユニットが組み込まれていたのに対して、XPS 730で導入された新しいH2C冷却システムは、ファンとラジエータ、タンクとポンプ、そしてジャケットが別ユニットになり、それらのユニットをパイプやチューブで連結している。

 水冷を導入した冷却ユニットというと「静音性能に優れている」というイメージを持つユーザーが多いが、H2C冷却システムはオーバークロック設定にも耐えうる高い冷却性能を優先したらしく、XPS 730の動作中、クーラーユニット(とくにフロントに配置された大口径ファン)が発する音は大きい。このファンはシステムの温度に合わせて回転数が変化するようになっているが、負荷の高い市販ゲームのベンチマークテストを走らせると、かなりの騒音となる。

 XPS 730のコンセプトからすれば、H2C冷却システムの方向性は正しいし、XPS 420ではなくXPS 730を選択する「パフォーマンス重視」のユーザーなら、騒音はそれほど気にならないだろう。一方で「水冷」という単語に「静寂」という言葉を期待するなら、H2C冷却システムを搭載したXPS 730は選択肢から外しておくべきだ。

従来モデルのXPS 720に搭載されていたH2C冷却システムは直方体のフードにすべてのユニットが収められていたが(写真=左)、XPS 730で導入された新型は、ファンを組み込んだラジエータ、タンクポンプを収納したコアユニット、そしてCPUを冷却するジャケットに分割され、それぞれのユニットをソリッドのパイプと柔軟なチューブで連結するようになった(写真=中、右)

XPS 730のオーバークロック設定の効果をベンチマークテストで確認する

 XPS 730のパフォーマンスと、オーバークロック設定の効果を知るために、ベンチマークテストとして、「PCMark05」、「CineBench 10」、「3DMark06」といった専用プログラムに加えて、市販ゲームのなかでGPUテストとCPUテストを用意してる「Unreal Tornament 3 Flyby」「Unreal Tornament 3 Bot」「Crysis SP 1.1 benchmark_GPU」「Crysis SP 1.1 benchmark_CPU」を用いて測定を行った。

 なお、デルのWebサイトでは、製品ごとに対象となるドライバやユーティリティが一覧で表示されるユーザーサポートメニューを用意している。ここからダウンロードできる以外のドライバをユーザーがインストールすると「サポート対象外」となってしまうが、必ずしも最新のバージョンが提供されているわけではない(デルの説明によると、社内の検証作業が必要になるため、どうしてもタイムラグが発生してしまうとのこと)。例えば、7月下旬でCatalystのパッケージングバージョンは8.471.6(Radeon HD 3870 X2用)で、AMDのWebサイトで公開されているのは8.512と異なっている。しかし、今回の評価作業では、Crysisの動作を安定させるためにAMDのサイトから入手した最新のCatalystを適用した。

PCMark05 PCMark
PCMark05 CPU

PCMark05 HDD - Virus Scan
PCMark05 Audio Compression

PCMark05 Video Encoding
PCMark05 Image Decompression

CINEBENCH Release 10 CPU Benchmark
3DMark06 3DMark

Unreal Tornament 3 (vCTF-Suspense FlyThrough-PC)
Unreal Tornament 3 (DM-ShangriLa-FPS-PC)

Crysis 1.1 GPU_Benchmark
Crysis 1.1 CPU_Benchmark

エンコード職人はオーバークロック版を待つべし

 さすが、XPS 730。定格動作でもPCMark05の総合スコアを示すPCmarkが1万ポイント寸前、オーバークロック設定では1万ポイントを軽く超えている。Radeon HD 3870 X2を組み合わせているだけあって、3DMark06の総合スコアを示す3DMarksでは、1600×1200ドットの低解像度条件で1万5000ポイントを超えるだけでなく、2560×1600ドットという超高解像度設定でも1万ポイントを超えるといった高いスコアを出している。

 グラフでは動作クロック3.0GHzの定格動作と3.6GHzのオーバークロック設定動作のそれぞれで測定した結果を比べているが、PCMark05やCINEBENCH Release 10といったCPUのパフォーマンスが大きく影響するベンチマークテストの結果でオーバークロックの効果がよく確認できる。3Dグラフィックスの性能を測定する3DMark06においても、総合スコアの3DMarksにCPUテストの結果も加味されているため、やはり、オーバークロックの効果がよく表れている。

 その一方で、グラフィックスカードの性能で結果が大きく左右される市販ゲームを用いたベンチマークテストでは、CPUの性能を主に測定するテスト(Unreal Tornament 3ではvCTF-Suspense FlyThrough-PC、CrysisではCPU_benchmark)でも、PCMark05の各テスト項目やCINEBENCH Release 10のCPU Benchmarkのマルチコアテストほどに定格動作とオーバークロック設定とで測定した値に違いが出ていない(もちろん、オーバークロック設定時における値が高いことに変わりないが)。

 機材調達の関係で、いまだにCore 2 Extreme QX9770とそのオーバークロック設定がBTOの選択肢として登場しないXPS 730だが(デルによると、時期は未定ながら、機材の調達ができ次第、選択できるようにするとのこと。なお、同じように先日発表されたノートPCのStudio 15もリリース資料で紹介されていた「解像度1920×1200ドットの15.4型ワイド液晶ディスプレイ」がBTOで選択できないようになっているが、こちらも機材が調達でき次第用意するとコメントしている)、ゲームをメインで考えているユーザーなら、現行で選択できる構成でもそれほど問題ではない。エンコード処理や編集処理などでCPUパワーがいくらあっても足りません、というユーザーならCore 2 Extreme QX9770のオーバークロック設定が用意されるまで待つというのもありだろう。

 先日発表された「Studio Hybrid」や、昨年大々的にデビューした「XPS One」などの、「生まれながらのハイセンス」なサブブランドだけでなく、同じXPSのデスクトップながら、XPS 420XPS 630など、デルの“遊び心”は「しゃれっ気」に大きくシフトしていく中、フロントパネルが変わったとはいえ、ハイパフォーマンスに特化しているXPS 730には、気持ちいい潔さを感じることさえできる。

 古参ユーザーの中には、「ゲーミングPCとしては後発でしょ」という意見もあるだろうが、ある意味、近寄りがたかったショップブランドが主流だったこの種のPCのハードルを思いっきり下げてくれたのはXPSから登場していた一連のフルタワーラインアップだった。ゆくゆくは日本でもAlienwareブランドに置き換わるのかもしれないが、それまで、XPS 730にはギラギラと輝きつづけてほしい。

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