今回のdynabookは、インモールドデザイン(成型同時加飾転写工法工法)による大胆なフォルムに目を奪われがちだが、その細部に目をやるとさらに驚くようなデザインの技巧が見て取れる。例えば通常のタッチパッドは、本体ケースとは別パーツになっているモデルがほとんどだが、dynabookでは本体ケースと一体となっていて、そこにザラッとした質感の表面処理がなされている。また、キーボード奥に並ぶタッチセンサ式のメディアコントロールボタンは、白色LEDによるバックライトが本体ケースをそのまま透過する。
守田 インモールドデザインを使うことで、単に光沢感の表現だけでなく、限りなくシームレスでクリーンな表現をしていこうと思いました。通常の塗装だと細かい部分がどんどん別のパーツに分かれていきますし、タッチパッドも当然パームレストとは別のパーツになってしまう。しかしこの技術を使えばこうした別パーツになってしまうものもすべて一体化できるわけです。そういう点でもメリットは大きかったと思います。
黒川 タッチパッドは完全にパームレストとフラットにすることもできました。しかし、そこは見た目のデザインを優先することはせずに、あえて周囲とテクスチャーを変えているので、目で見なくても触っただけで分かります。このザラザラのテクスチャーも、指のすべりがいいようにさまざまなパターンを試しました。また、同時にタッチパッドの上部にはライトが入っています。一見するとタッチパッドの存在感を感じさせないのですが、光ることでそこがタッチパッドであることを自然に訴えてきます。
こういったdynabookのディテールは、デザイン上のためだけでなく、実はプロダクトとしての作り込みやユーザビリティへの配慮もなされている。例を挙げると、メディアコントロールボタンの白色LEDランプによるバックライトだ。最近のプロダクトではこの白色LEDランプを使ったものが増えてきているが、やはりコスト的には少し前に流行だった青色LEDランプに比べると高くつく。しかしそこは「青が増えてきたので、その中でも1歩抜け出ようと思い、開発当初からこのLEDは白と決めていた」(黒川氏)という。また、先に述べたExpressCardスロットのダミーカバーも、表に出る部分を上下に分けて、それぞれ上下ケースと同じ色で塗り分けているのである。
黒川 少しでもスキあらばこだわるということでしょうか(笑)。ダミーカバーは作り手の都合だったりするわけです。また、たぶん使い手は何も感じないと思いますが、ディスプレイの周りにあるゴムクッションも、当然、白と黒とピンクの本体色に合わせたものにしてあります。画面の周囲に邪魔なものはないほうがいいですからね。
守田 作り手の都合というのは、お客さんにとっては違和感となるだけです。「何でここは黒いのかしら」というようにね。そういうところをできるだけなくしたいですね。しかし、そのことを特にアピールするつもりはありません。ダミーカバーが塗ってあること自体は誰にも気づいてほしくありませんし、本体の柄に気が付いてもらえなくても、デザイナーとしては全然かまわないのです。
15.4型ワイド液晶ディスプレイを備えたdynabook TXとAXシリーズは、各社がしのぎを削る激戦区に属する。それだけにこのような作りのよさだけでなく、やはりユーザーとしては価格にも目が行ってしまうところ。すると、作り手側もどうしてもコストを意識した作りになってしまう。今回のdynabookも、コストをはじめとした“作り手の都合”を含んでいるのは当然だ。しかし、それを補って余りあるバリューが今回のdynabookにはあるのではないだろうか。
守田 前回のdynabookもそうでしたが、15型クラスのモデルは作りやすさを優先するあまり、PCらしい複雑な要素が見えやすい傾向のデザインになってしまいがちです。液晶ディスプレイを閉じると後ろ側にヒンジがポコッと出ていたりするわけです。それは後ろ側にポートを集中させたほうが作りやすいという作り手の都合なのでしょうね。でも、それって持ち運ぶときには引っかかるとか、閉じたときに美しくないと思います。そこを「13.3型のモデルは持ち運ぶけど、15.4型はあまりそこを気にしない」というような考えはやめて、徹底的にこだわりました。今回のdynabookのヒンジは閉じても天面側にヒンジの切れ目が見えたりしない構成が可能です。さらに開けると液晶がスッと下がってきて、きれいなシルエットに見えるメリットがあります。その分、後面にポートが置けないデメリットはありますが、今回はこうしたデザイン上のメリットにこだわりました。そういうところを真剣に突き詰めたせいか、できあがってみて正直なところホッとしました。
黒川 もちろん、これで100%完璧だとはいえないかもしれません。守田のコメントは、スマートに見せるために、その背景には多大な苦労があったことをふまえてのコメントでしょう(笑)。わたしとしては、次はさらに完成度を上げていかなければならないと思います。反省することがあるから次がある。もっともっと進化させていきたいですね。
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