日本HPは、「現存の貴重な芸術文化財を保護するとともに、一般の人々の目に触れる機会の少ない作品を複製することにより、より多くの人々が文化財を理解する機会を持てるように」という趣旨のもと、同社が持つ最新テクノロジーを使って文化財の複製保護=デジタルアーカイブ事業をワールドワイドで手がけている。出力機器にHPのプリンタが使われている写真展や絵画展に足を運んだ人もいるのではないだろうか。
今回公開される「北野天神縁起絵巻(平成記録本)」は、数ある天神縁起絵巻の中において現存最古(13世紀初頭)のもので、秘蔵の「根本縁起」として尊ばれてきた、全9巻から成る国宝「北野天神縁起絵巻(承久本)」の複製版だ。2008年2月に京都の北野天満宮に奉納され、「承久本を平成20年に持ちうる最高の技術を使って記録した本」として「平成記録本」と名付けられた。複製作業では、3900万画素のハッセルブラッド製デジタルカメラ「H3D」で撮影し、原本に限りなく近い色調や明暗を再現するためカラーマッチングやカラープロファイリングを繰り返して同社の大判プリンタ「Designjet Z3100ps GP Photo」で出力した。
この北野天神縁起絵巻(平成記録本)が、10月21日から11月3日かけて(10月27日は休館)、福岡県太宰府市にある九州国立博物館で開催中の「国宝 北野天神縁起絵巻 平成記録本展」に展示される。具体的には、9月23日から始まっている(11月30日まで)「国宝 天神さま −菅原道真の時代と天満宮の至宝−」の関連イベントで、入場料は無料だ(国宝 天神さま −菅原道真の時代と天満宮の至宝−は有料)。
巻物の大きさは縦が52センチ、各巻の長さは最短で0.842メートル、最長12.11メートル、全9巻の総延長は80メートルにも及ぶという。これだけの規模に及ぶ全巻展示を実現するには、展示スペースの確保も難しく、非常に貴重な機会だという。
10月21日のオープンに先立ち、九州国立博物館 研究員の松川博一氏と日本HP 執行役員 イメージング・プリンティング事業統括 挽野元氏が作品説明を行った。
まず松川氏は、国宝の北野天神縁起絵巻について解説した。北野天神縁起絵巻(承久本)は、京都の北野天満宮が所蔵する絵巻物で、菅原道真の波乱の生涯から、天神となって広く信仰されるまでを詞(ことば)と絵で表したもので、序文に承久元年(1219年)とあることから承久本といわれている。「中世から伝わる天神縁起絵巻の中でも、現存する最古のものがこの承久本であり、根本縁起とも別称されています。一番の特徴は、紙の幅が52センチという大きなサイズにあります。通常、絵巻では紙を横使い(約30センチ)するのですが、承久本ではそれを縦使いにすることで大きな画面を獲得しています」とし、「大きなキャンバスに描かれている絵の迫力、極彩色で人々の表情が豊かな絵としての技術、そして伝来の古さで最高傑作ともいわれており、北野天満宮ではご神体に近い扱いを受けているそうです」と述べた。
「全9巻のうち、1〜6巻は菅原道真の一生と怨霊(おんりょう)になるまで、7〜8巻は日蔵というお坊さんが六道を巡る様子、9巻は7〜8巻の裏面に張り込まれていた白描の下絵をまとめたもので、承久本は未完の大作とも指摘されています」とまとめた。
続いて挽野氏が日本HPを紹介し、「HPでは、PCを使った画像処理やイメージング&プリンティング技術を使ってワールドワイドで芸術作品の保護や社会貢献に取り組んでいます。今回のデジタルアーカイブ事業だけでなく、欧米では絵画や写真などを手がけるデジタルファインアートとして普及しています」と同社の取り組みを説明。北野天神縁起絵巻「平成記録本」のプロジェクト自体は2007年にスタートし、作業自体は同年秋口から5カ月程度かかったという。1巻あたりのデータ量は4.5〜6Gバイト、出力解像度は300dpiで、出力する和紙も100年の耐久力を備えた特注品だそうだ。
「今回は、ご神体として尊ばれている国宝のデジタルアーカイブにかかわることができて非常に光栄です」としながら、「国宝を取り扱うので技術うんぬんよりも、まずはきっちりと出力しなければなりません。平成記録本だけに、現状に忠実なコピーが基本であり、カラーマッチングには時間をかけました」と苦労を語った。
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