「金融危機ってなに?」という中国地方都市の消費意欲山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2008年12月09日 11時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

大暴落した中国株が消費行動に与える影響とは?

 「このところの金融危機で中国の消費行動はどうなった」というのが今回のテーマだが、想像を絶する金持ちから年収数万円の農民まで、その国民の境遇が強烈に幅広いために、“統計的な平均所得”では中国経済の実態はさっぱり分からない。

 普通の人々が投資に手を出している米国では、多くの国民が金融危機で多かれ少なかれ損失を出し、それが消費意欲の減少に大きな影響を与えているかもしれないが(ただ、それ以上に企業の業績を大きく悪化させ、それが一般労働者の収入や就労に不安を与え、そのマインドが消費行動を低調にさせている)、中国では、投資できるほど金銭的に余裕のある人はごくごく限られている。自分の収入で生活を成り立たせ、かつ、投資にもお金を回すためには、中国公務員平均収入の数倍も稼いでいない限り不可能に近い。中国各地で話を聞くと、投資家は内陸部よりも沿岸部で確かに多いが、その沿岸部ですら「投資家はほとんどいない」(現地の消息筋)という。このように、ごく限られた少数の富裕層たちが中国の消費活動を支え、かつ、個人投資家として中国の金融を支えてきた。

 そういう人たちが現在どのような状況にあるのだろうか。筆者が取材した個人投資家の1人は「1年前まではどんな銘柄も儲かっていたので、株にまったく興味がない財産持ちも株や投機信託に手を出していました。株の取引が始まる9時半になると、みんな一斉に株式の画面を開いて、いくら儲かったかを“嬉しそう”に話していましたね。中国の株が下がりだしてからも、取引が始まればみんな一斉に株式の画面を開いていますが、ほとんどの人は無言で画面を閉じるようになりました」と語る。

 暴落したのは株だけでなく、北京、上海、深センなどでは住宅価格が急激に下落しており、これが土地の転売で膨大な収入を得ていた富裕層を直撃している。

 このように、これまでの中国消費を支えてきた富裕層の個人投資家は、消費どころではなくなってしまったのだ。

米国発金融危機が中国へ与える影響とは?

 中国株と不動産価格が暴落したところに、米国発の金融危機が起きた。中国のITベンチャー企業の多くは米国資本に依存していたため、その資金引き上げで少なからず影響を受けている。

 しかし、それ以上に深刻なのが日本でも報道されている中国の生産現場だ。とくに被害が深刻なのは、部品を生産している中小工場が集中する広東省の珠海デルタ地区で、多くの企業が倒産した(もっとも、この原因は金融危機以前に、広東省で展開する香港や台湾企業が撤収してしまったことでもあるのだが)。

 このように、事業が成り立たなくなった広東省の工場が多くの出稼ぎ労働者を解雇し、解雇された出稼ぎ労働者が内陸部へと戻っていく状況は日本でも報道されているが、購買層の多くが帰郷してしまった工場周辺の流通でも影響が出始めている。売れ行きが落ちてしまった高級ブランドや貴金属の売り場を生活用品にシフトしたデパートが出てきただけでなく、広州と深センの中間に位置し、工場が集中する東莞(ドンガン)という都市では、多くのメーカーが家電量販店の売り場から撤退したおかげで、国美電器をはじめとした大手の家電量販の現地店が閉店に追い込まれた。

 国美電器や蘇寧電器といった中国の家電流通では、金融危機以降に製品の値引きが目立つようになっている。これには、「消費意欲が下がった消費者を値引きで引きつけよう」という動機以上に、この連載でも紹介したような、中国の家電流通事情が影響している。中国の大型家電量販店では、量販店側がメーカーに販売場所を与えるだけで、そこではメーカー担当者が独自の判断で消費者に対応している。金融危機で現金回収が急務となったメーカー各社は、量販店に出向いている自分たちの社員に指示して、値引きして販売させているのが実情だ。

中国人が富の象徴としてとても好んでいた貴金属の装飾品もぱったりと売れなくなった(写真=左)。あからさまな値引きが目立つようになってきた大型家電量販店(写真=右)。

 中国発の金融危機関連のニュースを見ても、そこに住んでいる人に直接話を聞いても、工場が集中する広東省の珠海デルタ地域は、どうにも暗い話題ばかりが目立つ。中国株と住宅バブルの崩壊、そしてその直後に起こった金融危機で中小工場の責任者が自殺した話とか、資産家が自殺した話とかも、広東省周辺で多く聞かれる。

 暗い話は、外資系企業が多数あって外国と経済的な結びつきが強い上海や北京などでも聞く機会が増えている。上海では、富裕層相手の高級レストランで客が来なくなったとか、ナイトクラブのVIP席がガラガラになっているとか、いままで富裕層しか利用できなかったスポットに人が来なくなっているという。上海に住む何人かの富裕層のに話を聞いてみると、「金融危機の影響はもちろんある。家のホームシアターは買い換えを予定していたが今は待ち状態。MP3プレーヤーとか携帯電話なら気軽に買えるんだけど」(筆者注:1万〜2万円程度のデジタルガジェットなら気軽に買えるという意味)と語っている。広東省の深センに住む知人も現地の高級レストランで「普段よりも客の入りが少ないのが見て分かる」と証言している。

富裕層を相手としていない「ちょっとだけ高級」レストランは相変わらずにぎわっている。今回の金融危機で「富裕層だけ」が痛い目にあっていることを表しているといえる
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