ポスト・ネットブック時代のパソコン小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2009年01月19日 12時18分 公開
[小寺信良,ITmedia]

ネットブックではダメなところ

photo VAIO type P

 ポケットに入るPCとして話題になっているソニーの「VAIO type P」だが、先日アキバのヨドバシを通りかかったときに、この寒空の下、屋外で盛大にキャンペーンをやっていた。メディアへの露出量を見ても、大変なコストをかけてプロモーションしているのが分かる。

 ネットブックではないとするtype Pだが、ベーシック構成ならば8万円を切る価格で登場した。従来の超小型ノートは、軽い・小さいを理由に、スペックからすれば割高感があったものだが、久々に出た超小型で低価格に抑え込んだのが特徴だ。type P等身大のカタログを持って悩んでいる女の子も見かける。

 ネットブックに足りないものは何か。それを探すのが、今年のPCメーカーの課題となることは間違いない。以前なら答えの1つに、「デザイン」を挙げていたところだ。色が黒と銀しかないとか、塗装が安っぽいとか、安いなりの難点があったネットブックだが、今年はネットブック同士でもデザインによる差別化が行なわれるだろう。すでに多色展開や薄型化を実現したモデルも発表されているし、HPの「HP Mini 1000 Vivienne Tam Edition」のような、ファッションブランドとのコラボモデルも登場した。

 先進国の特徴として、例え不景気でも「カッコいい」や「綺麗(きれい)」に妥協できない人が大勢いるところがポイントだ。使っている、持っている姿を他人に見られがちなモバイル製品では、特にその傾向は強い。

 ほかに要因があるとすれば、「軽さ」はポイントになるだろう。1キロを切るというのはネットブックでも登場しているが、さらにそこから200グラム軽い、400グラム軽いとなると、ネットブックのようなコスト計算では難しくなる。

 単にバッテリを小さくすれば、簡単に軽くなるのは事実である。しかしモバイル機としての限度があり、今どき2〜3時間程度のモバイル使用時間では満足できない。オンラインへの依存度が、昔とは比較にならなくなってきている。

 省電力設計には、冒頭のムーアの法則が生きてくる。年々CPUは高性能化しているが、高速なCPUを搭載しながら、フルで利用されない状況が出てきている。普通Webのブラウジングやテキストを書くぐらいでは、今どきのCPUなら性能の半分も使わない。そこでCPUクロックを動的に切り替えることで、大幅な省電力設計が可能になる。必要なときだけ、ブン回せばいいという考え方である。

 これはPCを買うときにも、多くの人が悩んできた部分である。もし買ったらアレもするかもしれない、コレもやりたくなるかもしれないと考え出したら、最高モデルを買うしかなくなってしまう。しかしそんな「もしも」のために高速なCPUが必要か、とコストバランスで悩むわけである。しかし今後は高速なCPUを積んでいれば、長時間使える省電力モードでもそこそこストレスなく使える、というメリットを享受できることになる。

携帯電話から見えてくるもの

 軽量化とは逆の部分で、ネットブック、特に「EeePC 901シリーズ」で見えてきた部分もある。それは重くてもいいからバッテリをたくさん積んだらどうなるか、というところを見せてくれたところだ。WindowsXPのEeePCなら、最長約8.3時間。連続ではなく普通に休み休み使えば、ほぼ1日中外で使っていられるだけの持続時間を実現している。

 これが与えたインパクトは、ある意味パラダイムシフトの引き金となる可能性がある。例えばこれまでのノートPCの場合、今日は1日外回りだといったら、ACアダプタを持ち歩くのが普通だろう。そして先方の会議室で電源を拝借したり、充電スポットありのマクドナルドに緊急避難したりといった苦労が付きまとう。

 だがこのような一般的な外出では、自分の職場にいるようなヘヴィな作業をこなすわけではない。家に帰るまで充電せずに使える、場合によっては2日目もそのまま行けるぐらいの体力があるノートPCというのは、熱烈に欲しいというよりも、できてしかるべき道のような気がする。

 例えば携帯電話も、昔は1日充電を忘れると2日目は無理、という状況が当たり前だった。しかし今では2、3日ならなんとか行けるぐらいのことにはなってきている。PCでは不便ながら仕方がないとあきらめていた部分だが、携帯はあきらめない人が多かったから、そうなったのだ。

 なぜ携帯ではあきらめなかったかと言えば、PHSが長時間待ち受けを実現していたからである。つまり具現化したモノが存在し、それを便利に使っている人がいるという状況は、目標値として認識しやすい。特に全然違うジャンルの製品ではなく、類似・競合商品の場合はなおさらである。

 おそらくこの点でパラダイムシフトが起こるだろうと予測できる地点は、2012年である。昨年暮れにパナソニックが、ノートPC用小型燃料電池の実用化目標として、この年を挙げている。燃料電池は各メーカーとも研究を進めており、エコブームに乗って競争が激化すれば、もう少し実現が早まる可能性もある。

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