求められたのは薄くて軽い“T”──開発者が語るThinkPad T400sの「メリハリ」(2/2 ページ)

» 2009年07月09日 15時00分 公開
[長浜和也,ITmedia]
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ThinkPad 600の開発者が自信を持って勧めるキーボード

 先ほど少し触れたように、磯田氏はThinkPad 600の開発に携わっている。歴代ThinkPadでキーボードの評価が最も高いモデルだ。その磯田氏が、ThinkPad T400sのキーボードを「歴代ThinkPadで最高」と紹介している。最近のThinkPadに搭載されるキーボードに不満を感じているThinkPadファンとしては、非常に気になる発言だったのではないだろうか。

 磯田氏は、ノートPCのキーボードについて「ボディだけでなく、キーボードそのものも薄く軽くするチャレンジをしていかなければなりません。しかし、ボディを薄くするとキーボードを支えるプレートも薄くなって“ペナペナ”感が出てしまいます。そこを機構設計でどう支えていくかが肝心なのです」と説明しているように、薄型ノートPCでは、プレートの下に用意した支柱でどのようにキーボードを支えるかが問題になるらしい。

 ThinkPad T400シリーズは、「最善を尽くしたが、ユーザーからは、これまでのモデルと比べると“へなっとしているよね”と指摘を受けました」(磯田氏)という結果になった。T400ではRollCageでキーボードを支え、足りないところは支柱を立てていたが、ThinkPad T400sでは、RollCageでキーボードパネルを支えるのではなく、ボディと一体になったキーボードベゼルでキーボードユニットを支える構造にすることで、キーボードパネル全体の堅牢性を確保している。

 ThinkPad T400sのキーボードで、さらに気になるのがレイアウトだ。縦方向に2段分取っている「ESCキー」と「Deleteキー」は、ほかに例を見ない。レノボ・ジャパンは、サイズ変更の理由を「特に多く使われる2つのキーを打ち間違えないようにするため」と説明している。それに加えて、磯田氏は、「従来のThinkPadシリーズのキーボードで重なっているESCキーとF1キー、DeleteキーとInsertキーの押し間違いをなくすため」という理由も示してくれた。ちなみに、磯田氏は自分でもThinkPad 600を所有しており、先日、久しぶりに電源を入れてキーボードをたたいてみたという。そのときにも「ThinkPad T400sのキーボードはThinkPad 600より使いやすい」と感じたそうだ。

ThinkPad T400sに搭載されたキーボード(写真=左)とThinkPad T400に搭載されたキーボード(写真=右)。英語配列だが、DeleteキーとEscキーの違いは日本語配列でも同じだ。打鍵感の改善も施され歴代ThinkPadで最高のキーボードになったと磯田氏は自信を見せる

ユーザービリティテストで最高の使い勝手を目指したタッチパッド

開発段階で試作されたタッチパッドのパターン。ドットの密度と配列、高さを変えて30種類程度作成された。右にあるのは、アイデアのベースとなった「印伝」を施した小物入れ

 キーボードとともに、タッチパッドの表面にも“一風変わった”改善が施された。ボディを薄くすると、液晶ディスプレイにはキーボードやパームレスト、タッチパッドなどにある「段差」からストレスがかかり、パネル面を破損するリスクが増す。

 このストレスを軽減するため、ThinkPad T400sはタッチパッドとパームレストの段差をなくしているが、そのため、パームレストとタッチパッドの境目が分かりにくくなってしまった。そこで、タッチパッド表面の感触をパームレストと変えることで、ブラインドタッチでもタッチパッドのエリアが認識できるようになっている。

 タッチパッド表面のテクスチャとして採用されたのが、日本に古くから伝わる「印伝」だ。印伝では、ドット状の突起を模様のように並べているが、ThinkPad T400sのタッチパッドの開発では、このドットパターンを変更した試作を10種類、ドットの質感や高さを変えた試作を20種類ほど用意し、ユーザービリティテストを行って最適なパターンとドット形状を決定したと磯田氏は述べている。(記事掲載当初、印伝の表記を間違えていました。おわびして訂正いたします)

「T」であることが重要だったThinkPad T400s

 すでに紹介したように、ThinkPad T400sは軽量薄型化を最も重要なテーマとして開発を進めたが、それでも、通常タイプのプラットフォームを搭載し、内蔵ドライブはウルトラベイに対応する厚さ9.5ミリのデバイスを採用した。薄型化という意味では不利になるコンポーネントを採用した。

 その理由について、市川氏は「ThinkPad Tシリーズは、パフォーマンスを犠牲にすることが許されません。用意する機能としても拡張性に優れ、内蔵ドライブでもBlu-ray Discドライブからウエイトセーバーまで含めた多種多様なドライブが使えることを要求されます。この要求に応えるためにはウルトラベイに対応する必要がありました」と述べている。

 ThinkPad T400sは薄型軽量化を優先させているが、それだけに特化させたThinkPad “X”400sにはならなかった。“T”でありながら、“X”に相当する携帯性を実現しなければならなかったために、T400sの製品企画と開発は困難を極めたという。しかし、その目的をクリアしただけでなく、T400シリーズで要求の高かったキーボードを改善するなど、Tシリーズは更なる進化を遂げた。IBMからレノボへと企業名が変わっても、大和事業所に所属する開発者の心意気と技術力に変わりないことを、ThinkPad T400sは証明しているといえるだろう。

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