最後にファン氏は、Webコンピューティング、いま流行の言い方をするならばクラウドコンピューティングについて語った。
ファン氏は、クラウドコンピューティングの説明で、Adobe Flashを例として取り上げた。Adobe FlashはYouTubeのような動画サイトをはじめとして、数多くのWebページでコンテンツを再生するプラットフォームとして利用されている。しかし、CPUへの負荷も高く、FlashのコンテンツをAtomを搭載するNetbookなどで再生しようとすると、なかなかロードされずにいらいらさせられることも少なくない。特にHDコンテンツの再生では、CPUの負荷が重すぎてコマ落ちが多くなる。
そこで、新しいAdobe Flashで、NVIDIAの動画支援機能のPure Videoを利用してGPUパワーで動画を快適に再生するようになった。ファン氏はこれを、ヒューレット・パッカードのIONプラットフォーム採用ノートPC「HP Mini 311」を利用したデモで紹介した。
さらにファン氏は、NVIDIAのTeslaを16個搭載したサーバを利用してクラウドコンピューティングによる3D描画のデモも公開した。Netbookを使ったクライアントマシンから、Teslaが搭載されたサーバにアクセスすると、NetbookのWebブラウザに室内の風景をリアルタイムで3Dに変換した画像が表示され、時間を夜にすると、室内の3D画像も夜になり、実際の室内にブラインドを下ろす指示を出すと、それにあわせて3Dの室内画像でもブラインドが下がって、画面も暗くなるのが示された。これはサーバ側のTeslaでレンダリングしたデータをクライアントにストリーミングで転送することで、非力なNetbookでも高度な3D描画が利用できるといった、新しい3D技術の可能性を示したといえるだろう。
基調講演でファン氏が繰り返したのは、「これは始まりに過ぎないのだ」という言葉だ。その言葉には、彼らが始めたGPUコンピューティングは、まだまだ生まれたばかりで、彼ら自身、そしてGTCに参加した開発者で大きくしてもらわないといけないことが含まれている。
ファン氏も述べたように、CPUとGPUの仕組みを比較した場合、多数のコアを内蔵しているGPUは並列処理に向いている。例えば、静止画の処理や動画のエンコードなどの用途は、CPUよりGPUで処理した方が圧倒的に高速で処理できる。しかし、CUDAに関する最も大きな問題は、汎用処理でGPUを利用するアプリケーションが現状であまり多くないということだ。結局、どんなに高速なCPUがあっても、ソフトウェアがなければPCは単なる箱に過ぎないのと一緒で、どんなにGPUで処理させるのが高速でも、CPUしか使わないようなアプリケーションだけなら、ユーザーにとって(汎用処理において)GPUは存在しないのと一緒だ。
だからこそ、NVIDIAにいま必要なのは、CUDAを使ってアプリケーションを開発してくるソフトウェア技術者だ。そもそも、そういうソフトウェア技術者にNVIDIAの技術をアピールするために行っているのがGTCだ。基調講演に参加したどのソフトウェア技術者も、ファン氏の講演を興味深く聞いていたので、そうした意味では、GTCは当初の目的を果たしたといえるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.