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» 2009年11月18日 19時00分 UPDATE

「PDC09」リポート:Microsoftはハイブリッドな戦略で古い殻を脱ぎ捨てる (1/3)

Windows 7で盛り上がったPDC08から1年。PDC09のキーワードは「Windows Azure」だ。大企業向けと思いがちだが、意外にもSOHOや個人にも関係するという。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 Microsoftの歴史の転換点ともいえる製品が「Windows Azure」だ。「クラウド」と呼ばれるこの仕組みにおいて、すべてのプログラムやデータはネットワーク上に構築された“クラウド”上に置かれ、ユーザーはそこから必要に応じてプログラムやデータを引き出すようになる。

 それまで高価だったコンピュータが、1人1台のPCという身近なものに“ようやく”なった時代に、MicrosoftはPCから離れて、コンピュータを複数のユーザーで共有する“旧態然”のモデルへ回帰するのがWindows Azureの姿ともいえなくもない。

 Windows Azureは2008年11月に開催された同社のソフトウェア開発者イベントProfessional Developers Conference 2008(PDC08)で初めて発表され、1年以上のテスト期間かけて正式に提供を開始することがアナウンスされた。この記事では、米国カリフォルニア州ロサンゼルスで2009年11月17日から19日(米国時間)に行われる「Professional Developers Conference 2009」(PDC09)を通して、Microsoftで何が起こり、同社がどういった将来像を描いているかを紹介していく。

ソフトウェアとデータの中核はPCからクラウドへ

kn_pdc01_01.jpg 米Microsoftチーフソフトウェアアーキテクト(CSA)のレイ・オジー氏

 “クラウド”というキーワードが急速に身近になりつつある。GoogleのWebメールサービス「Gmail」を利用しているユーザーは多いだろう。これもクラウドを利用するサービスの一種だ。メールシステムの本体はGoogleの用意するデータセンターにあり、ユーザーのメールやアドレス帳、添付ファイルもすべてGoogleが保持している。ユーザーは必要に応じてGmailにアクセスして、これらプログラムの呼び出しやデータを参照するだけだ。「Google Docs」というアプリケーションでは、ワープロや表計算の機能まで利用できる。

 このほかにも、Googleでは「App Engine」という仕組みを用意しており、ユーザーが作成したアプリケーションをGoogleのデータセンターに置き、ほかのGoogleサービスと同様にクラウドから利用可能だ。こうした仕組みはAmazon.comが業界に先駆けて提供しているほか、Salesforce.comが業務用アプリケーションの提供で成功している。アプリケーションの提供形態がクラウドにシフトしていくなか、後発ながら参入を表明したのがMicrosoftということになる。

 PDC09のオープニングキーノートに登場した米Microsoftチーフソフトウェアアーキテクト(CSA)のレイ・オジー氏は「4年前に発表したWindows Liveに代表されるオンラインサービス構想に始まり、2008年のWindows Azure発表まで、これまでのMicrosoftを根本から変えるプラットフォーム戦略の集大成」とWindows Azureについてコメントしている。クラウドの特徴は前述の通りだが、ユーザーのメリットについても、「Windows Azureに置かれたプログラムやデータに対し、時間や場所を選ばずに、PCや携帯電話、テレビなどの幅広い種類のデバイスから自在にアクセスできる」とオジー氏は説明する。Adobe SystemsなどがFlashを軸に展開している「Open Screen Project」とほぼ同様の構想だが、Microsoftが従来のOSやOfficeなどのソフトウェア売り切りビジネスから、オンラインのビジネスを真剣に考え始めたことの象徴ともいえる。

 一方で、Microsoft CEOのスティーブ・バルマー氏はWindows 7の発売にあたり「Windowsでしか提供できないリッチなユーザー体験があり、クラウドやオンラインサービスが盛り上がろうともWindowsの地位は揺るがない」という趣旨のコメントを述べ、既存のソフトウェアビジネスが健在であると強調する。確かに、バルマー氏のいうことも事実で、ハードウェアの機能をフルに利用するゲームや各種アプリケーションはWindows OSを導入したPCでないと使い物にならない。ただ、Windows Azureのようなクラウドのメリットを最大限に活用する仕組みが登場することで、ユーザーのニーズに応えるもう1つの手段を提供するなど、さまざまな方向性を模索しつつあるのが現在のMicrosoftにおける開発方針なのかもしれない。

kn_pdc01_02.jpgkn_pdc01_03.jpg Microsoftのマルチプル・スクリーン戦略。PCだけでなく、携帯電話からテレビまで、Internet ExplorerやSilverlightといったMicrosoft技術を使って同一のユーザー体験を得られる仕組みを提供する(写真=左)。世界中にクラウドを張り巡らせ、Windows Azureで構築されたアプリケーション環境に、世界のあらゆる場所からあらゆる種類のデバイスを用いてアクセスできる環境を提供する(写真=右)

ユーザーに従来型とクラウドを選んでもらえるMicrosoftの優位性

kn_pdc01_04.jpg 従来型のソフトウェアビジネス(オンプレミス)とWindows Azure(クラウド)で、提供されるソフトウェアスタックが異なる。クラウドには自由にシステム規模を変更できる柔軟性がある

 GoogleやAmazon.com、Salesforce.comのように、クラウドによるオンラインビジネスに特化していく企業がある一方で、クラウドと従来型ソフトウェアの組み合わせというハイブリッド型のアプローチがMicrosoftの特徴だ。従来型のソフトウェアは、ユーザーである企業や家庭の建物(Premise)内で動作するということで「On-Premise」(オンプレミス)と呼ばれるが、Microsoftのアプローチにおいて、ユーザーは自分の環境に応じてオンプレミスとクラウドのいずれかを選択できる。

 例えば、大量の社内ユーザーを抱え、データの機密性を重視する大企業などは、外部にデータを置くリスクを避けるためオンプレミスなシステムを選択する傾向がある。手軽で安価に利用できるクラウドは、意外にも中小企業や個人ユーザーに向いている。Microsoftは用途に応じてオンプレミスなユーザーにはWindows Server、クラウドなユーザーにはWindows Azureという形で2種類の製品スタックを用意する。なお、こうしたオンプレミスとクラウドを組み合わせたシステム提案は、IBMがすでに行っている。

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