インテルとAMDが「Netbookとは何ぞや?」で激突!2010 International CES

» 2010年01月13日 17時00分 公開
[登丸しのぶ/Shinobu T. Taylor,ITmedia]

「Netbooks: Here to Stay or a Passing Fancy?」(Netbookは生き残れるのか。それとも一時のきまぐれか?)と題したパネルディスカッションが2010 International CESで1月7日(現地時間)に行われた。Intel、AMD、Microsoft、Lenovo、そして、ベンチャーのPCメーカーとしてenTourageの幹部が登場。Netbookに対する業界の認識を明らかにし、今後の方向性を考えていく企画だ。しかし、主催者の意図に反して議論は混乱を極めた。

Atom NシリーズでNetbookを大成功に導いたが、本心はCULVノートPCをはじめとする通常タイプのノートPCにユーザーを導きたいIntel モバイルプラットフォームグループゼネラルマネージャー、ムーリー・エデン氏(写真=左)と、そもそもNetbookというプラットフォームに対応するCPUを用意していないAMDのチーフマーケティングオフィサー、 ナイジェル・ダッソー氏が同じパネルディスカッションに登場。激烈な論戦に参加者の期待は高まる

「そもそも、Netbookって何?」から始まるディスカッション

Microsoft Windowsコンシューマープロダクトマーケティング ゼネラルマネージャーのジェームズ・デブラッガ氏。彼もハードウェア要件からNetbookを定義している

 パネルディスカッションは、議論の大前提となる「Netbookとは何か?」という定義から始まった。Intelモバイルプラットフォームグループゼネラルマネージャーのムーリー・エデン氏は、求めやすい価格と携帯性に優れていること、というNetbookの大前提を掲げ、「Netbookはコンテンツを消費するものであって、コンテンツを創造するものではない」と定義した。この用途に適したCPUがAtomであり、ノートPCとは異なるテクノロジーであるため、従来のノートPC市場を浸食するものではないと述べた。

 MicrosoftのWindowsコンシューマープロダクトマーケティング、ゼネラルマネージャーのジェームズ・デブラッガ氏は、10.2型ワイドの液晶ディスプレイと、Atom、512Mバイト、もしくは1Gバイトのメモリ、160GバイトのHDDを搭載して、300ドルから400ドルで手に入る製品がNetbookのスタンダードというこれまでの考えを改めて提示した。

 一方、Lenovoの北米コンシューマー&SMB(中小企業)プロダクトマーケティング エグゼクティブディレクターのデビット・ベント氏は、「メーカーの都合としては製品仕様でカテゴリーを分けるのは便利だが、ユーザーの視点を無視すると製品のポジショニングを見誤る。Lenovoではユーザーの製品に対する期待をベースに、各製品がどのような機能を提供できるかでカテゴリーを分けている」と述べた。例えば、企業向けのPC(ThinkPadシリーズ)にはビジネスシーンで有用なThinkVantageテクノロジーを採用しているが、IdeaPadシリーズで用意されたNetbookには導入していない。この考え方でいくと、ThinkPadシリーズの「ThinkPad X100e」は、実売価格が500ドル以下とNetbookの価格帯に入ってはいるが、あくまでも中小企業向けのビジネス向けノートPCという位置付けになる(ThinkPad X100eの詳細は10万円を切る「ThinkPad X100e」は本当に“ThinkPad”なのかを参照のこと)。

 こうして、各社がNetbookの定義に関して持論を展開する中、AMDのチーフマーケティングオフィサー、ナイジェル・ダッソー氏は、「I don't care」(そんなことはどうだっていい)と議論を“一蹴(いっしゅう)”し、「AMDにとっては、ユーザーがPCに何を求めているかが重要であって、製品のカテゴリー分けには興味がない」と言い切った。SmartbookだろうがNetbookだろうが、要はユーザーのニーズを満たしてくれる製品であればいい、というのだ。AMDが先ごろ提唱したユーザーの使用目的に合わせたブランド「VISION」コンセプトに沿った発言といえるだろう。

ならば、Netbookの未来像は?

 ダッソー氏の発言で、「Netbookとは何か?」という問いに答えが出ないまま、議論はNetbookの未来像へと移った。ここで、ベンチャーのPCメーカーであるenTourageのCEOを務めるアスガル・ムスタファ氏は、 電子ブックリーダーとタブレットPCを1つにしたデュアルディスプレイ端末の「enTourage eDGe」を紹介した。同氏はデジタルフォン、PDA、PC、音楽プレーヤーなど、複数のデバイスのためにそれぞれバッテリーを持ち歩いていた2000年と、これらがスマートフォンに統合されている現代の状況を比較し、使い勝手やコストの面から今後もデバイスの統合は進むだろうとコメントしている。

 さらに、Lenovoのベント氏は新製品の「Lenovo IdeaPad U1 hybrid」を紹介し、取り外し可能なディスプレイ部にもARMベースのQualcomm製「Snapdragon 」(動作クロック1GHz)を搭載して、それぞれ独立したシステムとして機能するまったく新しいコンセプトの製品であると説明した。これらを受けて、Intelのエデン氏は、今後の開発の方向性として「フォームファクタが変化していく中で、低消費電力、携帯性といった条件を満たしつつ、購入しやすい価格帯という限られた条件の中で最善を尽くし、性能を高めていくことが重要」と述べている。

 しかし、ここで、AMDのダッソー氏が再び反論する。「Netbookはコンテンツを消費するためのデバイスということだが、ユーザーはそのデバイスでコンテンツを創造できれば望ましいと考えるだろう。デバイスの可能性を技術的制限で縛るべきではない」と、ここでもハードウェアスペックによるカテゴリー分けに反対する立場を貫いた。

デュアルディスプレイを搭載した「enTourage eDGe」を紹介するenTourage CEOのアスガル・ムスタファ氏(写真=左)と、「Lenovo IdeaPad U1 hybrid」のデモをするLenovo 北米コンシューマー&SMBプロダクトマーケティング エグゼクティブディレクターのデヴィット・ベント氏

カテゴリー分けは無意味だ。ただし……

 AMDのダッソー氏は、パネルディスカッション終了後、AMDの公式ブログで、「このディスカッションは視点を欠いていた」と不満を漏らしている。このブログで同氏は、1858年に世界で初めて登場した大きな刃のついた缶切りを紹介し、最新型の空気圧式缶切りは大きな刃がついていないから缶切りとはいえないのかと問いかけ、Netbookをめぐる論争もこれと同じだと論じている。形がどうであれ、缶を開けることができれば(ユーザーの望む結果が得られれば)缶切りと呼べるはずというのだ。

 ダッソー氏は、Netbookをバッテリー駆動時間や携帯性、そして何よりも価格のために性能を妥協したPCと断じ、“Net”は「Network」ではなく低価格を示す「Net value」の“Net”ではないかとからかっている。どうも、Netbookという呼び名自体を否定したいようだ。

 ユーザーの使用目的によって分ける「VISION」ブランドはAMD的に1つの解決策だが、例えば、上位機種を「HD動画再生対応PC」と訴求して売り出したところで、1、2年後には下位機種でもHD動画再生が可能になることを考えると、これも製品のマーケティング戦略的には都合が悪い。

 今回のパネルディスカッションで、明確な結論が導き出せなかったNetbookをめぐる議論は、業界が直面しているバリュークラスPCにおける製品のポジショニングと、求められる仕様の難しさを物語っていたといえるだろう。

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