もう1つの問題は、CPU間の接続問題だ。AMDのCPUでは外部インタフェースに、Point-to-Point接続を基本とするHyper Transportを採用する。Hyper Transportは、CPU間の接続以外にCPUパッケージ内部でダイの接続にも使われる。
OpteronのHyper Transport(HT)には、CPUコアの接続に用いる「cHT」(コヒーレントHT)と、入出力インタフェースとの接続に用いるncHT(ノンコヒーレントHT)の2種類がある。なお、この段落の下に掲載している「“Magny-Cours”世代のOpteronの内部でCPUコアの接続にHyper Transportが使われている」の図には誤りがあり、図の右側で「P1」から伸びる緑色で示されている線はncHTを示す。グレーと青で示されているのがcHT、赤い点線がメモリチャネルになる。グレーや青の細い線は半分の帯域(x8)のcHTで、Hyper Transport 3.0のLink Splitting機能を使って、1本のx16リンクをx8リンク2本として機能している。
Magny-Coursで用いられているダイには、x16のHTが4本あるが、そのうちの1本はチップセット接続用のncHTで、CPU間の接続に使えるのは3本、そのうちの1本をx8リンク2本として使っている。x8リンクの1本とx16リンクをパッケージ内でのダイ間の接続に使い(青い線)、パッケージ間での接続に同じくx8リンク1本とx16リンク1本を用いる。
x16換算で計4本のHTリンクを2ソケットの場合と4ソケットの場合に分けて考えてみよう。2ソケット構成時ではx16リンクを隣接するダイ間の接続に使い、対角にあるダイとの接続にx8リンクを用いる(P0とP2にあるダイのncHTは使われない)。Socket Fプラットフォームにおける4ソケット構成に似ているが、Socket Fでは対角の接続がなかった。G34 Socketの2ソケット構成は、どのメモリコントローラへも1ホップで到達できるため、メモリアクセスのレイテンシで有利になる。
4ソケット構成ではかなり複雑な接続になる。この場合、Opteron 6100番台が持つ1パッケージ当たり3本あるいx16リンク(cHT)をすべてx8リンクにスプリットして、計6本の外部リンクとして使っている。しかし、各パッケージに2つのダイが封入されているため、すべてのダイ間を接続するには6本では足りない。例えば、P0とP3、P6、P7を直接接続するリンクはなく2ホップ必要になる。Opteron 6100番台の場合、4ソケット構成はダイ間の接続という観点からは、シングルダイCPUの8ソケット構成に相当する。Opteron 6100番台でAMDはマーケティング上の理由から8ソケット構成をサポートしないと述べているが、HTのリンク数やピン数という観点からも8ソケットは現実的ではなかったと思われる。
製造部門の分離という大きな変革を進めているAMDは、2010年に登場する製品に対して大きな開発リソースを割くことが難しいと分かっていたはずだ。その中で、1つのパッケージに2つのダイを封入することで性能を向上させる代わりに8ソケット構成は放棄するというトレードオフを選び、さらには、既存の4コア、および、8コアダイの歩留まりと生産能力などのパラメータを総合的に考えた上で、Opteron 6100番台で採用した戦略を選んだのだろう。
リリースから1年近くを経過して、“Shanghai”/“Istanbul”世代Opteronの歩留まりは十分向上しているだろうし、GLOBALFOUNDRIESは、かつて生産パートナーでもあったシンガポールのChartered Semiconductorを傘下に収めたことで、十分な生産能力があると考えられる。今できることを踏まえた上での、極めて現実的な戦略だ。AMDは、新しい“Bulldozer”アーキテクチャを用いた次世代の“Interlagos”(Opteron 6100番台の後継になる)でもG34 Socketを使うと述べている。そうなると、Interlagosでも2つのダイを1つのパッケージに封入する可能性が高く、Interlagosでスケールアップ型の8ソケットサーバを構成するのも難しいだろう。
既存のダイを2基封入することでCPUとしての性能向上を図ったOpteron 6100番台だが、従来のダイと完全に同じというわけではない。すでに述べたように、メモリコントローラの仕様がDDR3対応になり、HTはスプリティング(x16を2つのx8に分けられる)が可能な3.0になった。さらに、HTのクロックは6.4GT/秒に引き上げられた。CPUコアには手を付けず、インテルがいうところの「Uncore」部分を改善させたのが、“Magny-Cours”世代のOpteronということになる。
1つ気になるのは、HTのリンク数がIstanbulの3本から、Magny-Coursで4本に増えていることだ。Magny-Coursのダイ写真には「HT0」から「HT3」まで、計4本のHTが用意されている。ところが、Istanbulの発表時に公開されたダイ写真と比べて何ら変わりがない。ということは、IstanbulではHTの1本を使っていなかった可能性がある。Istanbulの設計時点で、これを流用してMagny-Coursを作ることまで決まっていたかもしれない。
Opteron 6100番台として現時点で発表されているラインアップは10モデルになる。新しいプラットフォームだが、消費電力(ACP)は従来世代を維持している。価格は266ドルから1386ドルで、2ソケット対応のIstanbul世代Opteron 2300番台の174ドルから1165ドルに対して若干の値上げで済んだ。ダイの数が倍になったことを考えれば、極めてリーズナブルだ。4ソケット構成に必要だったIstanbul世代Opteron 8300番台の価格が、873ドルから2649ドルだったことを思えば「大バーゲン価格」といってもいい。「4ソケットサーバを2ソケットサーバの価格帯で」というAMDのセールストークに偽りはない。
インテルとの違いは、モデルによるスペックの違いが少ないことだ。基本的にダイ(コア数)が異なる2モデルに分かれるだけで、消費電力と動作クロックが違うほかに機能差はない。メモリやHTのクロックもすべて共通だ。CPUコアの動作クロックが100MHz単位で変わることでモデルが分けられているのは、小刻みであるものの分かりやすい。
このことは、組み合わせるチップセットにもいえる。Opteron 6100番台のチップセットとして「SR5690」、「SR5670」、「SR5650」と3種類が用意されるが、基本的には利用できるPCI Express Gen.2のレーン数が異なるだけで、共通のBIOS/ファームウェアで動作可能だ。また、このチップセットは、今後発表される1〜2ソケット対応のOpteron 4100番台でも用いられる。プラットフォームのバリエーションを減らせるということは、それだけ検証作業に必要な時間と労力を節約できる。それはAMDの利益になるばかりか、OEMにとっても、さらにはユーザーにとってもメリットになる、とAMDは力説している。
モデルナンバー | ソケット | CPUコア | 動作クロック | 3次キャッシュ | サポートメモリ(最大) | HT(GT/s) | ACP | 1000個ロット時単価 |
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Opteron 6176 SE | G34(1944pin) | 12コア | 2.3GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 105ワット | 1386ドル |
Opteron 6174 | G34(1944pin) | 12コア | 2.2GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 80ワット | 1165ドル |
Opteron 6172 | G34(1944pin) | 12コア | 2.1GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 80ワット | 989ドル |
Opteron 6168 | G34(1944pin) | 12コア | 1.9GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 80ワット | 744ドル |
Opteron 6136 | G34(1944pin) | 8コア | 2.4GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 80ワット | 744ドル |
Opteron 6134 | G34(1944pin) | 8コア | 2.3GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 80ワット | 523ドル |
Opteron 6128 | G34(1944pin) | 8コア | 2.0GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 80ワット | 266ドル |
Opteron 6164 HE | G34(1944pin) | 12コア | 1.7GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 65ワット | 744ドル |
Opteron 6128 HE | G34(1944pin) | 8コア | 2.0GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 65ワット | 523ドル |
Opteron 6124 HE | G34(1944pin) | 8コア | 1.8GHz | 6MB×2 | DDR3-1333 | 6.4 | 65ワット | 455ドル |
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