やっぱり、iPadは“チャーミング”元麻布春男のWatchTower(1/2 ページ)

» 2010年06月03日 15時15分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

iPadはコンピューティング・アプライアンス

5月28日に国内発売された「iPad」

 去る5月28日、日本でも「iPad」が発売になった。1月のアナウンス時に書いた「感想」(iPadは“でかいiPod touch”なのか、あるいは……)でも分かるように、筆者はそれほど乗り気というわけではなかった。パーソナルコンピュータの自由を好む筆者にとって、iPhoneやiPadのようなコンピューティング・アプライアンス(計算家電)は、似て非なるものであり、どうしても興味が1ランク落ちてしまう。それでも購入に踏み切ったのは、家人が興味を示したからだ。アップルのオンラインストアで、最も安価な16GバイトのWi-Fiモデルを購入することにした。

 このモデルを選んだのは、以前にも書いたように、上位モデルは筆者には割高に思えたこと。それに64Gバイトモデルを選んだとしても、筆者のiTunesライブラリをすべて同期することはできない。そしてWi-Fi+3Gモデルにしなかったのは、iPadを外に持ち出すことはないと考えたからだ。Wi-Fiの使える自宅で利用するのに、3Gは必要ない。

 iPadを外に持ち出さないだろうと考えたのは、いくつか理由がある。まず1つは大きさと重さだ。ノートPCより軽いとはいえ、重さは700グラム近い(実測値は691グラム、純正のiPadケース込みだと859グラム)。これだけの重量物を落としたら、まず無事では済まないだろう。ノートPCのように、原則として机の上に置いて使うものならともかく、手に握って使うデバイスだと落とす可能性もある。アップル製品にストラップホールのようなものは存在しない。

ソフトウェアキーボード

 もう1つの理由は、仕事には使えないだろうと考えたからだ。もちろん筆者の仕事は、テキストの作成である。それには、キーカスタマイズ可能なIMEとテキストエディタを必要とする。しかし残念ながら、そうしたツールをiPad上でそろえることは難しい。また、指先にフィードバックが返ってこない、タッチパネル上の仮想キーボードは、長時間のタイピングに向かないのは明らかだ。

 純正オプションで「iPad Keyboard Dock」というオプションも用意されているが、持ち運びが考慮されているとも思えない。ノートPCでいう、ドッキングステーション的な存在だろう。重量は2倍(1398グラム)になるが、手持ちのMacBook Airを持ち運ぶか、1218グラムのThinkPad X200sを持って出た方が確実だ。絶対に仕事をしないと分かっているのなら、iPod touchで済むかもしれない。ノートPCとiPod touchならともかく、ノートPCとiPadの2台持ちは、重量の点からできれば避けたい。これらが、購入前に筆者が考えていたことだ。

iPadによるWebのブラウズは、予想以上に快適

768×1024ドット(縦置き時)の広い画面が魅力だ

 そんなこんなで購入した16GバイトのiPadは、5月28日の午後、わが家に到着した。手に取ると、やはりズッシリとした印象である。付属品はDockコネクタUSBケーブルと、10ワット電源アダプタ(USB ACアダプタ)で、ヘッドフォンは付属しない。

 電源を入れて最初に気づくのは、ディスプレイの視野角が広いことだろう。最近のノートPCの多くは、コストダウンのため視野角の狭いTN液晶パネルを採用している。1024×768ドットの解像度とはいえ、視野角の広いIPS液晶パネルを採用したiPadは、132dpiと精細であることもあり、かなり見栄えがする。タッチ式というと、指紋でベタベタになることが懸念されるが、「耐指紋性撥油コーティング」とかのおかげで、それほど気にならない。

 出荷時にバッテリーはチャージ済みだったので、さっさとMac Proに接続し、手動設定で音楽やビデオ、写真を選択して転送する。残念ながら、ディスプレイ解像度が1024×768ドットのiPadに合わせてエンコードしたビデオを用意していなかったため、今のところはiPod touch(480×320ドット)用にエンコードしたものばかりだ。さらに自宅のWi-FiとMobileMeの設定を行って準備完了である。

 とりあえずWi-Fi経由でMobileMeとメールやカレンダーの同期を行う。これらの処理はiPod touchでも行っていたが、やはり1GHzのカスタムチップ(A4チップ)の威力なのか、新しいiPadの方が若干高速に感じる。とはいえ、基本となるOSが同じであることからも明らかなように、操作性や機能の点ではiPod touchと同じだ。そういう意味では、大きなiPod touchという評は間違いではない。だが、「大きい」ということがもたらす価値は、考えている以上に大きいかもしれない。

iPad購入者に送信されるHTMLメール。iPadならきれいに表示される

 例えばメールだが、iPod touchでHTMLメールを読むのは一苦労だった。ところが、iPadなら一画面にすっきりと表示される。同じことはブラウザにもあてはまる。言い立てられているようにFlashに対応しないという問題はあるものの、iPadによるWebのブラウズは、予想以上に快適だ。メールやWebページに埋め込まれたリンクをタッチするのも、iPadの大きさなら苦労しない。筆者は、iPod touch用に将棋ソフトを購入していたのだが、touchの狭いスクリーンでは、隣の駒を間違って動かしてしまい、「待った」をすることが少なからずあった。このiPadなら、そうした心配はないし、大きさ的にもより将棋っぽい気がしている。

 すでに報道されているように、米国でiPadは大ヒットとなり、そのためにわが国での発売が遅れたとも言われている。それほどの大ヒットになった最大の理由は、ディスプレイを含め、iPadの大きさにあるのではないかと思っている。iPhoneやiPod touchは、米国人には小さすぎたのだ。同様に、そろそろ老眼が気になる筆者にも、iPadの大きさは助かる。

音楽ビデオにはすべてチャプターを打ち、曲名を入れておくのが筆者のポリシー

 さて、iPadで音楽を再生して感じたことは、iPod touchより音質が優れている、ということだ。筆者が所有するiPod touchは初代で、いまだに更新していないのは、音質的にイマイチ(対iPod classic比)だと感じたことも一因なのだが、このiPadの音質はclassicと同等か、それに近い。

 画面がきれいで、音質がよいということは、ビデオプレイヤーとしての潜在能力も高いことになる。上述したように、まだiPadの解像度に合わせて動画をエンコードしていないのだが、アップコンバートの拡大再生とは思えない画質だ。そのうち、iPad用にもっと高解像度でエンコードしてみたいと思っている。

 筆者は、iPod touchやiPod classicに音楽のライブビデオを転送している。すべて曲ごとにチャプターを打ち、曲名も入力してある。これを画面を見ず、単に音だけ聴いていることが多いのだが、iPod touchやiPod classicでは、画面を消すことができなかった。iPodではホールドボタンを押すとビデオの再生が停止してしまうからだ。映像を見ないのなら音だけのAACやMP3を作っておけばいいのに、と思われるだろうが、何かの拍子に演奏を確認したくなることもある。こういう時にパッと画面を出したいのだ。今回、iPadではこうした利用が可能なことが分かった。

iPhone OSベースの製品で初めてHIDプロファイルをサポートしたiPad

iPadは現状、唯一HIDをサポートしたiPhone OSデバイス

 iPadは、iPhone OSベースのBluetooth搭載機器として、初めてHIDプロファイルをサポートしている。そこで、手持ちのBluetoothキーボードのうち、最も小型でiPadに合いそうなデバイスとして、ロジクールのdiNovo Miniをペアリングさせてみた。PCに加えてPS3にも対応したこの小型キーボードは、簡単にiPadから見つかり、ペアリングすることができた。

 ホームボタンと、キーボードの言語切り替えに対応したキーがないのが不便だが、日本語の入力(変換候補の選択)もカーソルキーで行うことができる。しかも、キーボードの上部に用意されているメディアキーも録音ボタンとストップボタンを除き利用可能だ。つまり、音量の上下、ミュート、再生/一時停止、前、次が利用できる。右の画面にも書かれているように、アップルはBluetoothリモコンのプロファイル(AVRCP)では、一時停止、再生、停止しかサポートしていないとしている。が、HIDプロファイルを利用するdiNovo Miniでは、上述の機能が利用できるというわけだ。

iPadにBluetooth機器を接続してみた。FreePulse_Wireless(Bluetoothヘッドフォン)とPure-Fi Mobile(Bluetoothスピーカー)は、いずれもA2DPデバイスであるため、排他利用となる

 ここで面白いのは、バックグラウンドで音楽再生していない時に、ホーム画面でdiNovo Miniの再生ボタンを押した場合の挙動だ。直前に音楽を再生していれば音楽再生が、ビデオを再生していればビデオ再生が再開される。しかもビデオ再生の場合、画面に動画は表示されず、音声だけスピーカーやヘッドフォンから流れてくる。この状態でホールドボタンを押すと、画面表示は消えるものの、再生は継続される。要するに、音楽再生時と同じ挙動であり、音楽ビデオの音声だけを楽しむことができるわけだ。

 もちろん、映像は出力されていないから、バッテリーの持ちもよい。筆者は、iPod touchでこれができればと以前から思っていたのだが、方法を見つけることができなかった。それがiPadではあっさりとできてしまった。これにBluetoothのヘッドフォンを組み合わせれば、iPadをカバンに入れたまま、手元のdiNovo Miniで再生コントロールしながら、音楽ビデオの音声や音楽(AACやMP3)をワイヤレスで楽しむことができる。できることなら、上述したホームボタンやキーボードの言語切り替えキーを備えたiPad対応版のdiNovo Miniが欲しいところだし、どこかBluetoothを用いたメディアリモコンをHIDプロファイルで出してくれないか、とも思う。

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