iPad/iPhoneアプリ開発における本音と実情iPad開発者会議リポート(前編)(1/2 ページ)

» 2010年07月15日 17時23分 公開
[鈴木淳也,ITmedia]
iPad Summit会場となったSouth San Francisco Conference Center。サンフランシスコ国際空港の近くに位置する

 iPadが米国で発売されてから3カ月半、日本での販売開始から1カ月半が経過したが、みなさんの手にはすでに行き渡っただろうか? Appleによれば、6月22日の時点で世界でのiPad販売台数が300万台を突破し、現在もその数字は順調に伸び続けているようだ。業界アナリストやAppleにiPad向け部品を提供するサプライヤらの意見を総合すれば、2010年内にも累計販売台数が800〜1000万台に到達する可能性があるという。

 このようにプラットフォームが拡大するメリットとしては、ユーザーが増加することでプラットフォームが盛り上がり、そこにアプリや周辺機器、各種ソリューションを提供するサードパーティが多数参加し、さらにプラットフォームが拡大しつつ盛り上がっていくという好循環が生まれることにある。今回は、こうしたアプリを提供する開発者がiPadに対してどのような見方をしており、今後どのようにビジネスを展開していくのか、6月28日に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催された開発者会議「iPad Summit」での内容を基に検証してみる。

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iPadとiPhoneのアプリ開発はどう違う?

 同イベントはもともと「iPad Game Summit」としてゲーム開発者らを対象に招集されたものだったが、最終的に「iPad Summit」として一般デベロッパーやマーケティング関係者を中心とした開発者カンファレンスとなったようだ。そのため、ゲーム系のセッションが多数用意されている点に特徴がある。

 ゲームプラットフォームとしてのiPad、そしてiPhoneの位置付けはまだ未知数で、現在ゲームアプリを提供しているデベロッパーは手探り状態でユーザー層やニーズを検証しつつ開発を進めている。アナリストが登壇したiPadのパネルセッションでは、このユーザー層の実態や今後のiPad普及に関する見通し、そしてゲームアプリ市場の現状などについて解説が行われている。

 米Chitikaの調査ディレクター、Daniel Ruby氏は、iPadの現状について「まだ初期のアーリーアダプターが利用している状態」と、真の意味で普及には至っていないと説明する。同氏の調査によれば、これらアーリーアダプターは全体の63%がデスクトップPCやノートPCなどとiPadを併用しており、このうち57%はWindowsユーザーであるという。

 また、米Flurryのマーケティング担当バイスプレジデント、Peter Farago氏は「iPhoneユーザーとiPadユーザーは一般に被っているという誤解があるが、実際にはiPadユーザーにおけるiPhoneオーナーの割合は2割程度」だという。つまりMac+iPhone+iPadという3種の神器を組み合わせて使っているユーザーはそれほど多くないようだ(それでもPCシェア全体からすればすごい割合だが)。

 前述のWindowsユーザーが多いということも合わせれば、純粋なAppleファンだけでなく、BlackBerryなどほかのスマートフォンを使っていたり、あるいはWindowsユーザーだがiPadには興味があるという層も多いことになる。またPCとの併用の事実が示すのは、iPadはあくまでセカンドデバイスとして利用されているということだ。

 ゲーム市場の現状については、米M2 ResearchのシニアアナリストWanda Meloni氏がいくつか報告している。特に同氏が指摘するのがiPhone/iPadにおけるゲーム作りの難しさで、従来のゲーム機にあるようなボタンや十字キーがなく、iPhone/iPadではタッチセンサーや加速度センサーなどを組み合わせて操作を実現しなければならない点だ。iPadではさらに、画面サイズの問題もある。これはiPad向けに単にゲーム画面を大きくすればいいという話ではなく、広がった表示領域に合わせてUIを変更したり、あるいは操作体系そのものを変更しなければならないという話だ。特に加速度センサーやタッチセンサーを使ったゲームの場合、iPadは本体サイズも重量も大きく、iPhoneの操作体系をそのまま持ち込んだだけでは指を動かす範囲が増えたり、あるいは本体を持ち続けることでゲームを続けるのがつらくなるといった難点がある。

 その半面、戦略系ゲームなどでは表示領域が広がることで操作性や見やすさが段違いに向上するため、iPhoneとiPadによって向き不向きがあることでもある。これは開発者にとってアイデア勝負ができる一方で、開発の負担が増加する一因ともなる。「iPadのコンテンツはHD化するだけではだめ」というのがポイントのようだ。

iPad Game Summitとなっているが、実際にはゲームを中心とした「アプリ開発者のためのカンファレンス」となっているようだ。サンフランシスコを中心としたベイエリアでは中小さまざまなiPhone/iPad開発者向けカンファレンスが開催されているが、これらは現場の生の声を聞ける貴重な場所だ(写真=左)。米Chitikaの調査ディレクターDaniel Ruby氏(写真=中央)。米Flurryのマーケティング担当バイスプレジデントPeter Farago氏(写真=右)

 またアナリストらが参加したセッションでは、今後の普及の状況や開発ツールなどにも言及している。例えばFarago氏は、現状ではUnityなど一部開発ツールがiPhone/iPadのアプリ開発に対応しているが、今後はAppleが推進することもあり、HTML5などWeb標準を使ったツールが多数登場してくると予測している。

 Appleは現在、サードパーティ製開発ツールを排除する方向で進めているが、これがFacebookなどほかのプラットフォームとのマルチプラットフォーム開発を難しくしているという事情がある。だがこれらWeb標準を戦略的に取り込んでいくのが、今後アプリ開発で行き詰まらないコツだという。

 また、普及台数については今後1年で1000万台クラスに到達する可能性が高いとの意見で一致している。唯一850万台程度と予測しているのはRuby氏で、同氏は今後iPadの普及の伸びしろが減っていく可能性があると指摘し、その理由を価格設定に求めている。一方で現状のアーリーアダプター以外に医療関係など新しい市場を開拓できるなら、次なるステップアップも可能だと語っている。Farago氏は2011年までに2000万台に達すると予測しているが、現状でのiPad最大の課題は「キラーアプリ」の不在にあるという。iPadはいろいろな用途に使える一方で、それ自体が普及の起爆剤となるコンテンツが存在していない。これがプラスとマイナスのどちらに作用しているのかは判断の難しいところだが、さらなる普及に向けてキラーアプリが必要なのは確かなようだ。

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