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» 2010年07月23日 11時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:“口コミ”サイトに“自家製”レビューが潜んでいる

製品の宣伝といえば、これまでなら広告で事足りるケースが多かった。しかし、“口コミ”の発達で製品評価の新しい“制御術”が発達しつつあるというお話。

[牧ノブユキ,ITmedia]

口コミの破壊力はメーカーも無視できない

 メーカーが新製品の宣伝で“口コミ”サイトやソーシャルメディアを利用する場合、その手法は主に2つに分類できる。

 1つは、メーカー自らがTwitterやブログで情報を発信し、ユーザーとコミュニケーションをとる方法だ。担当者がメーカーの代表窓口となり、ユーザーとの双方向コミュニケーションを展開しつつ製品を訴求することで、その製品のファン層を獲得し、ゆくゆくはメーカーそのものの好感度を向上させることが期待される。ただ、売上に与える効果が数値化しにくかったり、成果が担当者に依存しやすいといった事情もあってか、その取り組みはメーカーによって大きく異なる。また、特定の担当者に依存ということは、サポートセンターと勘違いしたユーザーの不合理なクレーム対応に追われてモチベーションが下がり、業務が停止してしまうケースもある。いずれにしても運営に苦労しているケースが少なくない。

 もう1つは、メーカーの社員であることを隠してTwitterやブログで製品のレビューを発信していく手法だ。ユーザーの立場で自社製品の“自家製レビュー”を投稿し、口コミサイトのレビューを信頼するユーザーが自社製品に関心を持つよう“誘導”することになる。サービスによっては投稿時に取得されるIPアドレスの情報から正体が判明したらなにかと困ったことになるので、オフィスにある自分の机から3Gを利用したモバイル端末でアクセスしたり、自宅から書き込んだりといった合わせ技を駆使することも多いと聞く。

 後者になると、グレー的な要素を醸し出しているが、Twitterやブログに担当者を常時監視させる必要はないなど、少ない労力で大きな効果を上げられるため、部署単位で取り組んでいるメーカーも少ないながら存在する。ある関係者は「匿名で書き込みができるレビューサイトや掲示板はこの目的に適している」と証言している。

製品の発売直後に、5つ星レビューが3本!

 前述の関係者が明かしてくれた、メーカー社員の「自家製レビュー」によって売上が伸びたとされる、あるショッピングサイトの製品ページにアクセスしてみた。そのWebページに投稿されたレビュー記事では、製品の評価が星1〜5個まで平均的に分布しているが、レビューの投稿された時系列で見ると、発売直後の評価が最も高く、時間が経つにつれて低下していっていることが分かった。

 製品の発売から2カ月以内に星5個の高評価レビューが3本も投稿されている。そして、製品の発売から1年が過ぎようとしている現在でも、星5個のレビューはその3件しかない。投稿したユーザーのうち2人の履歴を見ると、以前にレビューしている製品はその製品と同じメーカーのものがほとんどで、しかも評価はすべて星5個という内容だ。残る1人はその製品以外にレビューを書いていない。そして、その後にもレビューを書いていない。

 これらの状況だけで、レビュアーがメーカーの関係者とは断言できない。発売とほぼ同時に製品を購入した“メーカーの熱心なファン”が高い評価を下したとも考えられる。この例からいえるのは、投稿されたレビューの数が少ないうち(今回の例では発売直後)は、大きな影響力を持つということだ。特に評価を“分かりやすい数”で表示する口コミサイトは、この方法が簡単に通用してしまう。発売から時間がたって、投稿されたレビューの数が増えてくると、この効力は徐々に薄れていくが、発売直後の製品が最も売れるタイミングで、口コミサイトに投稿されたレビューの高い評価点数が売れ行きにいい影響を及ぼせば、メーカーとして狙い通りというわけだ。

ユーザーの「不当な」評価がメーカーを「自家製」レビューに走らせる

 少ないながらもメーカーをこうした行動に駆り立てる同情すべき事情もある。PC周辺機器において、ユーザーが複数の製品を購入して使い比べることはまずない。そのため、購入した製品が期待通りに使えなかった場合、その原因が製品群全体に起因するものであっても、「購入した製品」の低評価になりがちだ。

 具体的な例を挙げよう。「自宅で視聴」するためにワンセグチューナーを買ってきたものの、いざ試してみるとまったく映らなかったとする。この場合、ワンセグが視聴できない不満は、ワンセグの電波状況ではなく、買ってきたワンセグチューナーの性能に向けられる。そのユーザーにとっては使えるワンセグチューナーがそれ1つしかないため、視聴できないのは電波状況に依存する問題なのかそれとも製品固有の問題なのかは判断できない。結果として、買ってきたワンセグチューナーがすべての罪を引き受ける形で「星1つ」とか「評価:悪」になるというわけだ。

 多くのショッピングサイトではこれらの評価を「星の数」といった数値化して分かりやすいところに掲載するため、低い点数をつけられてしまった製品は、ユーザーの購入候補から除外されることが多いだろう。事実、前述のワンセグチューナーを価格比較掲示板で探すと、ワンセグそのものに起因する理由で低評価が付けられている製品が多数ある。

 もし、レビューの数が多ければ「中にはそんなユーザーもいるよね」で済むが、レビューの数が少ない発売直後にこうした評価を書かれてしまうと、製品の売れ行きに与える影響は大きい。こういう状況を防ぐために、メーカーによる発売直後の「自家製レビュー」につながるというのは、メーカーがそこまで追い詰められていることを表しているといえなくもない。

最終手段は「リセット!」

 こうした「不当に低い評価」に対抗するメーカーの最終手段がある。それは「型番をリニューアルして評価をリセットする」という技だ。メーカーがショッピングサイトの口コミ情報やレビューを書き換えたり削除することはできないが、どんなに悪い評判がついた製品でも型番が変わってしまえば、評価をまっさらにできる。製品の仕様を“ちょこっと”変えておくのが定石だ。

 かなりの力業である上(型番を1つ増やすのにも少なからずコストが発生する)、ここまでやってもまた悪評がループすることもあるので、そうそう乱発できるわけではないが、評価をリセットすることを目的に新製品の開発がスタートすることは実際にある話だ。評価の低い製品の後継モデルが登場するとき、純粋に改良を加えた発展型の新製品の場合もあれば、ユーザーの不満をそらすためのリニューアルの場合もあるということを、購入する側として知っておいて損はないだろう。

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