インタビュー
» 2010年07月23日 16時30分 UPDATE

「元素図鑑」作者インタビュー(前編):「元素図鑑」はハリー・ポッターの世界を目指してつくられた (3/4)

[林信行,ITmedia]

出版システムはMathematica

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――電子書籍の開発となると、素材がそろっていてもやはり2カ月はかかるのですか。

グレイ ええ。というのも、当時はiPad用に電子書籍を作るためのツールといったものはまったくなく、真っ白な状態から始める必要があったからです。

 2カ月間の最初の2週間ほどは、電子出版のためのシステム作りに費やしました。この出版システムというのは、私のそれまでの本業であったウルフラム・リサーチのソフト、Mathematicaで構築しています。例えば、ページのレイアウトもMathematicaで行っていますし、写真を回転させるためのスペースの確保など、ページデザインの試行錯誤もMathematicaです。

 元素図鑑アプリでは、元素の詳細ページを開く際に、ちょっとしたズーミングアニメーションが表示されます。実はこのアニメーションは、回転するオブジェクトの写真をメモリに読み込む待ち時間を、待ち時間と感じさせないようにするための工夫なのですが、このズーミングアニメーションもMathematicaで計算したものです。

――Mathematicaにそんな使い道があったとは驚きました。そこからどうやって実際のiPadアプリケーションに落とし込んでいるのでしょう。

グレイ 元素図鑑の構成要素は、美しく割り振られたページレイアウト、ページ上に配置する各種メディアのXMLリスト、そして我々がこのアプリケーションのために開発した独自メディア形式の3つによるたまものです。これらの要素をMathematicaで用意して、最終的にアプリケーションの体裁にまとめる、といった形で作られています。今ではMathematicaの画面上にボタンが用意されていて、それをひと押しするだけで、要素が自動的にまとめあげられアプリケーションになる、ほぼ全自動の出版システムに成長しました。

 元素図鑑の各国語版は、この秋、出版予定の紙の本の翻訳データを、出版社からライセンスを受けてもらっているのですが、こうした翻訳テキストのデータをデータベースに入れて、ボタンを一押しすれば、翌日にはその言語版のアプリケーションができあがっているのです。

元素図鑑の魅力

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――元素図鑑に魔法のようなクオリティを加え、おもしろくしているのは、やはりあの回転するオブジェクトのムービーだと思いますが、あちらもそうやって用意したのですね。

グレイ 元素図鑑では、オブジェクトを指でドラッグして、好きな方向に回転させられます。よく誤解されますが、これらの回転アニメーションは、実はQuickTimeのムービーではありません。ムービーにしてしまうと、1方向への回転はしやすいのですが、逆方向に再生する負荷が大きくてスムーズに動かすことができません。ましてや1ページ上で最大9個のオブジェクトを同時に動かすようなことは不可能でした。

 我々はどうやったら9個のオブジェクトをなめらかに動かせるか考え抜いたすえ、描画処理をiPadが搭載する高性能なGPUに割り振ればいいと気がつきました。OpenGLのテクスチャマッピングという機能を使えば、表示をCPUに頼らずGPUに一任して負荷を軽減させられます。

 そこでアニメーションの1つ1つのフレームをテクスチャという形に落とし込み、OpenGLという技術を通してポリゴン(立体オブジェクト)の上にマッピング(重ね合わせ表示)させています。このような方法をとると、表示をCPUに代わってパワフルなGPUが請け負ってくれるようになり、スムーズな表示ができるのです。

※記事初出時、オブジェクトの表示に関する記述で誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

 これは回転だけでなく、動画の再生にも使われています。動画の再生に応用することで逆回し再生を楽しむことができます。例えば私のお気に入りの元素「水素」を見てみましょう。このように爆発するアニメーションがありますよね。元素図鑑では爆発するシーンを指でなぞって好きな瞬間まで早送り、巻き戻しして眺めることができるのです。爆発などの現象は、あまりにも早く起きてしまうので、ビデオとして再生してしまうと何が起こっているのか分かりません。しかしこのような形式に落とし込めば、じっくり観察ができるのです。

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