中古のThinkPad X60というベストに近い戦果を挙げて意気揚々と帰還、と思ったら、「ThinkPadにはいやな思い出があるんだ」と友人がつぶやく。公務員であるその友人によると「無能なのに虚栄心だけは人並み以上の上司が公費でThinkPadを購入したんだ。だから、ThinkPadの黒いボディを見ると上司を思い出して気分が悪い」そうな。
そんな友人が「そういうわけで、黒いThinkPadをデコレーションしたい」と、ThinkPadを愛するユーザーには暴挙としか思えないことをいい始めた。さすがに、購入したThinkPad専門中古ショップの店長にも「黒だからこそいいのに……」と反対されたが、その店長に「デコレーションショップはどこにある!」と聞きだすやいなや、店を飛び出して走り始めた。ほとんどのショップがシャッターを下ろして暗くなった電脳街だが、目指すデコレーションショップは営業中で、さびれた店内を薄暗い明かりが照らしていた。
店舗というより屋台といいたくなるそのデコレーションショップは夫婦が営んでいて、双子の子どもが走り回る店内には、海賊版ソフトやらマウスやらWEBカメラやらUSBメモリやらが山のように置かれていた。
その中にノートPC用の液晶保護フィルムや天面に張るデコレーションシールを埋まっている。その多くは据え置きタイプのA4ノートPC向けらしく、ThinkPad X60より一回り大きなものばかりだった。友人は「勘弁してください」と叫びたくなるような絶妙なデザインの中から、“なぜか”フコク生命のロゴとURLが記載されたハローキティの天面シールと液晶保護フィルムを選んだ。
天面シールと液晶保護フィルムはそれぞれ15元(約200円)で、それに店員に作業をお願いすると「技術料」がそれぞれに15元かかる。あわせて60元(約800円)だが、例によって“粘り強い”値引き交渉で50元(約675円)に値引きする。
商談が成立し「こっちにこい」とシールとフィルムを携えた母さん店員についていくと、そこは、アパート1階の共同階段の裏に設けられた作業場だった。1畳半程度の倉庫を兼ねた空間で、母さん店員は「遊んで遊んで」とせがむ双子の相手にしながら、「このThinkPadはずいぶんと汚いねえ。どれだけ使っているのよ」という文句とともに天面にシールを張り、余った部分をはさみで切っていく。その作業を友人はみかん箱の上に座り、30分ほど見守った。
友人は「ThinkPad X60がこんなにお得に買えてラッキーだったよ」と喜んで帰っていく(が、後日「バッテリーが5分も保たない!」と文句をいうことになる)。購入したThinkPad X60の中古品は、本体と電源アダプタだけで、箱も説明書も、そして、リストア用のCDも付属していない。しかし、リストア用のCDがないことについて友人から相談はなかった。
「彼は、どうやってThinkPad X60を初期化したのだろう」(棒読み)
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