IntelはAtomで何をしたいのか?Intel Developer Forum 2010(3/3 ページ)

» 2010年09月20日 17時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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組み込みデバイスでAtomが生き残る条件

 組み込み向けCPUの分野で、IntelがARMなどの競合と最も大きく異なるのが「SoC」(System on Chip)戦略だ。携帯電話や各種機器に搭載されているARMチップはCPUやインタフェースコントローラーなど必要な機能を1つのチップに包含するSoCと呼ばれる形態をとっている。ARMのCPUコアやインタフェースコントローラーなどの処理機構は「IP」としてほかの半導体メーカーにライセンスされており、携帯電話やテレビメーカー各社は自分たちに必要な機能(IP)のみを組み合わせたチップの製造を半導体メーカーに依頼することができる。

 一方でIntelは、自身のIPをライセンスしておらず、すべてのチップを自らが開発して製造している(Atomに関しては台湾TSMCとライセンス契約を行っている)。そのため、IntelのCPUをSoCとして採用する場合でも、ARMでできるような“構成の柔軟性”はなく、基本的にIntelが決められたコンフィグレーションでのみチップを提供する。

 ただ、これではインタフェースコントローラーなどの部分でデバイスメーカーの用途に応じた構成にするのは難しいため、この部分のチップを別途追加することで一定の柔軟性を持たせている。これはPCシステムにおけるCPUとチップセットの関係に近い。1990年代後半にSoCの「Timna」をキャンセルして以来のIntelの伝統だ。Intelはこの戦略を「市場の変化に柔軟に対応するため」と説明している。提供する製品の種類をシンプルにしてコストを抑制できる反面、デバイスに搭載するチップの数が増えるために採用するデバイスメーカーのコストは増えてしまう。IntelがIPを広くライセンスする戦略をとらない限り、デバイスメーカーがコストがかかってもIntelの製品を選ぶメリットを示さなければならない。

 そのメリットとなるのが“性能”と、x86プラットフォームに対応する膨大な数のアプリケーションやソリューションになる。特にリッチメディアであればあるほど、Windowsなどの組み込みシステムで培われたソリューションがそのまま利用できる。IDF 2010の基調講演で紹介された組み込みシステムの例では、こうしたリッチメディアを利用する製品が多かった。

Atomの利用範囲を拡大する「Tunnel Creek」(開発コード名)は「Atom E600」として車載システムや通信デバイスなど、各種組み込み機器向けとして提供される

Atom E600のブロックダイアグラム。インタフェースコントローラーチップをデバイスメーカーの要求に応じて入れ替えることで、さまざまな用途に応用できるのが特徴だという

Atom E600をFPGAと組み合わせてプログラマブルなCPUを構成できる「Stellarton」も紹介された。産業システムや医療システムなどでのカスタム用途を想定している

 性能に関しては、Intelのプロセスルール技術がそのままメリットに貢献する。現在市場に流通している組み込み向けSoCのプロセスルールは65ナノメートル以下が一般的だが、IntelのAtomは全シリーズで45ナノメートルに到達している。PC向けCPUでは32ナノメートルを導入しているほか、2011年には22ナノメートルの製品が登場する予定だ。これらのプロセスルールをAtomへ順次採用することで、処理能力と省電力性能で有利になる。

現在、45ナノメートルプロセスルールのAtomだが、近い将来は32ナノメートルや22ナノメートルが視野に入っているのもAtomの強みだ。ARMやPowerなどの競合製品に対して処理能力で優れているのも、この“先を行く”プロセスルールが貢献している(写真=左)。バイクにもAtom。ナビゲーションや走行記録などに利用されるとみられる(写真=右)


 組み込み分野におけるIntelは挑戦者という立場だが、将来的に市場がパフォーマンス志向へと傾くことを計算に入れての長期戦略を考えている。このIntelの読みが当たっているかは、今後4〜5年で明らかになるだろう。

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