組み込み向けCPUの分野で、IntelがARMなどの競合と最も大きく異なるのが「SoC」(System on Chip)戦略だ。携帯電話や各種機器に搭載されているARMチップはCPUやインタフェースコントローラーなど必要な機能を1つのチップに包含するSoCと呼ばれる形態をとっている。ARMのCPUコアやインタフェースコントローラーなどの処理機構は「IP」としてほかの半導体メーカーにライセンスされており、携帯電話やテレビメーカー各社は自分たちに必要な機能(IP)のみを組み合わせたチップの製造を半導体メーカーに依頼することができる。
一方でIntelは、自身のIPをライセンスしておらず、すべてのチップを自らが開発して製造している(Atomに関しては台湾TSMCとライセンス契約を行っている)。そのため、IntelのCPUをSoCとして採用する場合でも、ARMでできるような“構成の柔軟性”はなく、基本的にIntelが決められたコンフィグレーションでのみチップを提供する。
ただ、これではインタフェースコントローラーなどの部分でデバイスメーカーの用途に応じた構成にするのは難しいため、この部分のチップを別途追加することで一定の柔軟性を持たせている。これはPCシステムにおけるCPUとチップセットの関係に近い。1990年代後半にSoCの「Timna」をキャンセルして以来のIntelの伝統だ。Intelはこの戦略を「市場の変化に柔軟に対応するため」と説明している。提供する製品の種類をシンプルにしてコストを抑制できる反面、デバイスに搭載するチップの数が増えるために採用するデバイスメーカーのコストは増えてしまう。IntelがIPを広くライセンスする戦略をとらない限り、デバイスメーカーがコストがかかってもIntelの製品を選ぶメリットを示さなければならない。
そのメリットとなるのが“性能”と、x86プラットフォームに対応する膨大な数のアプリケーションやソリューションになる。特にリッチメディアであればあるほど、Windowsなどの組み込みシステムで培われたソリューションがそのまま利用できる。IDF 2010の基調講演で紹介された組み込みシステムの例では、こうしたリッチメディアを利用する製品が多かった。
性能に関しては、Intelのプロセスルール技術がそのままメリットに貢献する。現在市場に流通している組み込み向けSoCのプロセスルールは65ナノメートル以下が一般的だが、IntelのAtomは全シリーズで45ナノメートルに到達している。PC向けCPUでは32ナノメートルを導入しているほか、2011年には22ナノメートルの製品が登場する予定だ。これらのプロセスルールをAtomへ順次採用することで、処理能力と省電力性能で有利になる。
組み込み分野におけるIntelは挑戦者という立場だが、将来的に市場がパフォーマンス志向へと傾くことを計算に入れての長期戦略を考えている。このIntelの読みが当たっているかは、今後4〜5年で明らかになるだろう。
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