AMDが主張したいのは、CPU、あるいはソケット当たりの性能と価格が“より重要”ということだ。Bulldozerコアも、この考えの延長にある。AMDが現在フォーカスしているメインストリームの2ソケットサーバ市場では、ホストでできる仮想マシンの数が大きな意味を持つ。その意味で、AMDはコア単体の性能を犠牲にしても、コアの数を優先していると考えてもいいだろう。
アプリケーションが効率よくマルチスレッドを利用できるのであれば、CPUの性能はコアあたりの性能にコアの数をかけたものに近づく。この場合、コアの性能を犠牲にしても、コアの数を追求するアプローチがあってもいい(このアプローチは、サン・マイクロシステムズがNiagaraで採用した)。
問題は、すべてのアプリケーションが効率よくマルチスレッドを利用しているわけでなく、また、すべてのアプリケーションがマルチスレッドに対応しているわけでない、ということだ。この傾向は、デスクトップPCでより多くなる。しかし、そうなると、ハイエンドデスクトップPC向けCPUのコアとして、Bulldozerは果たしてどうなのか、という疑問につながる。
Zambeziや、それに続くKomodoの世代は、インテルのハイエンドCPUに対して優位に立つのは難しいと予想されている。それはAMDも否定しないだろう。だからAMDは、コアあたりの性能を抑制しても、Bulldozerで“効率”を優先させた。ここでいう効率とは、同じダイ面積であれば、インテルのCPUをコアの数で上回るということであり、ターゲットとする2ソケットサーバ向けCPUでは、それがアドバンテージとしてユーザーから評価される。
コアの数が必ずしも性能に直結しない、デスクトップPC向けのCPUでは有利な戦略ではないが、それでも同じコア数であればAMDのCPUはダイ面積を小さくできる。これは、コア数の多いCPUを安価に販売できることになる。それ以外でも、CPUのダイ面積を小さくできることが、大きな利点となる可能性を秘めている。
特定のプロセスルールにおいて、高い歩留まりで製造可能な半導体チップのトランジスタ数には上限がある。それゆえに、CPUコアを効率化しておくことは、同じダイに取り込むGPU、あるいはSIMDエンジンに、より多くのトランジスタを割り当てることが可能になる。Bulldozerは、浮動小数点演算ユニットを2つのコアで共有するアーキテクチャを採用するが、将来的に浮動小数点演算をGPUとSIMDエンジンに実行させる計画だとすれば、このような「コア単体の性能より効率優先」も納得がいく。
製造部門を分社した今、製造技術はAMDの強みとして訴求できない。むしろ、自社ファブの時代から、製造技術(特に1つのダイ上に集積可能なトランジスタ数)に関してはインテルが常にリードしてきた。マイクロアーキテクチャでインテルを超えることも、x86アーキテクチャの成熟を考えれば容易ではない。しかし、GPUはインテルより明らかに優勢だ。AMDが明らかにしているスタンドアローン(グラフィックスカード向け)GPUのロードマップでは、ローエンドからハイエンドまでモデルをそろえ、インテルが対応できていないDirectX 11では、第2世代の対応モデルが登場している。
AMDは、Fusionで、インテルより優位に立つGPUをCPUに統合していく。2011年にリリースされる最初の世代は、CPUとGPUを同じダイ上に集積する“物理的な”統合に過ぎないが、徐々にCPUとGPUをアーキテクチャレベルで統合していく考えだ。特にFusionの3世代アーキテクチャでは、CPUとGPUのメモリ空間を統合する方向性を示している。CPUとGPUの統合に関して、インテルはいまのところもっと保守的な方針を示しているし、NVIDIAにはそもそもCPU(x86互換)が存在しない。
AMDの目論見が成功するためには超えなければならない高いハードルがある。それはソフトウェアが、ヘテロジニアスな並列コンピューティングをサポートできるか、という課題だ。特にアプリケーションがバイナリで流通するPC分野においては、既存のバイナリを高速化できないこうした新しい技術をアプリケーションでサポートするのに10年近い時間を要してきた。その実例がAMDが提唱したx64(64ビット拡張)で、最初にx64を実装したCPUがリリースされて7年半が経過したが、まだ普及の途上にあるというのが実情だ。
その一方で、ユーザーによるバイナリの更新を事実上不要にするクラウドコンピューティングの普及も進んでいる。クラウドの普及は、コア性能の高いハイエンドのクライアントPC向けCPUそのものを不要にするかもしれない。が、その場合もサーバ向けCPUにおいて、Fusionの価値が消え去ることはないだろう。
AMDは、製造部門の分離に続き、CPUとGPUの統合という形で製品戦略上も大きく舵を切った。2011年は新しい方向へ向かう最初の年となる、はずだ。
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