米国の電子書籍周辺事情を整理する(後編)進化するデバイス技術と新しいコンテンツ(2/2 ページ)

» 2010年12月03日 10時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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電子書籍専用端末の次なる展開も

 タブレットに注目が集まる一方で、電子書籍の専用端末も次なる展開を目指しつつあるようだ。例えばBarnes & Nobleは最近、「nook color」という端末をリリースした。液晶ディスプレイを採用したnookという位置付けだが、E Inkの電子ペーパーという特徴もなく、価格が安い反面iPadよりも非力という特徴で、どっちつかずの端末であるともいえる。

 しかしこの動きは、電子書籍を中心に活動するベンダーらが「カラー表示」や「リッチコンテンツ」に興味を持っている現れともいえ、今後の電子ブックリーダーの方向性を示す出来事ではないかと考える。Amazon.comのジェフ・ベゾスCEOは「読書が好きなユーザーのためのデバイス」ということでKindleのカラー化や液晶ディスプレイの採用を否定しているが、理由の1つは低コストでこうした用途に最適なディスプレイコンポーネントが存在しないことにあると考えられる。

電子ペーパー「E Ink」の現行世代に当たる「Pearl」。Kindle 3のほか、Sony Readerなどでも採用されている。反応速度とコントラストが前世代に比べて大幅に向上しているのが特徴

 だが、最新のKindle 3が採用した「Pearl」と呼ばれるE Inkディスプレイの次世代バージョンでは、さらに白黒のコントラスト比が上がったほか、書き換えの反応速度がかなり改善されている。カラー表示も可能になっており、限定的な色再現力ながら、近い将来にもKindleのようなデバイスでカラー表示が実現するかもしれない。

 また、Amazon.comは2010年2月にタッチスクリーン技術を手掛ける新興企業Touchcoを買収しており、KindleがiPadライクなデバイスへと進化する可能性もある。いずれにせよ、今後1〜2年でこの分野はコンテンツだけでなく、デバイス面で大きなステップアップを果たすことになるかもしれない。

Hanvonの業界初となるカラー電子ペーパーを採用した電子ブックリーダー端末。動画では色味のほか、書き換え速度をチェックしてほしい

こちらが現在開発中の次世代E Inkのサンプル。モノクロ版とカラー版の2種類があるが、いずれも現行世代に比べて反応速度とコントラストが向上している
電子ペーパーの特徴は低消費電力と低コスト、そして薄型軽量なため実装が容易なことだ。このように簡易広告ディスプレイのほか、腕時計、カード型デバイスでのデジタル表示も可能。ディスプレイ制御をつかさどるチップもこのサイズだ

電子ペーパーでは、ある程度まで折り曲げ可能になっている。これを利用すればより本に近い端末のほか、各種曲面へのコンテンツの埋め込みや表示など、さまざまな応用ができそうだ

薄くてシンプルな内容の電子書籍を扱う「Kindle Single」に注目!

 デバイスの進化の部分に注目したが、最後に1つ筆者が注目しているコンテンツにおける試みを紹介して終わる。Amazon.comでは以前より高い印税率を提示することで、大手や個人を中心とした作家を引き抜き、自費出版のような形でKindle Storeでのコンテンツ配信を持ちかけていた。出版社や流通を通さない一種の中抜きのようなものだが、編集者が介在せず、執筆、フォーマット変換から販促まで、すべて自力で行わなければならないことを考えれば、ここで出せるコンテンツはかなり限定されるだろう。自費出版したいけど予算がない、すでに執筆実績のある作家が電子書籍にチャレンジしてみたいといったときの選択肢の1つといった感じだ。

 こうしたことも電子書籍ならではの試みだといえるが、より面白いと思ったのが同社が最近発表した「Kindle Single」というサービスだ。一般に、過去の文学は英語で1万単語以下、あるいは5万単語以上の文章が中心だといわれるが、Amazon.comの研究報告によれば1万〜3万単語程度(30〜90ページ程度)が読みやすいレベルだという。

 Kindle Singleとは、こうした一般の書籍よりも薄くてシンプルな内容の電子書籍を集めたもので、独立したセクションで販売されるという。前述のデジタル出版のようにクリエイター側は重厚長大なコンテンツを目指す傾向があるが、一方でこうした手軽にコンテンツを楽しめるのも電子書籍やデジタル出版ならではのメリットだと考える。気軽に買って気軽に読む――こうした試みが最終的に市場の裾野を広げ、新しいトレンドを生み出せるのではないだろうか?


 以上、駆け足ではあるが前後編で米国を中心とした電子書籍事情を追いかけてきた。実際に現場を取材していて分かるのは、この市場が過渡期であり、1年を経たずして大きく事情が変化することだ。筆者の書いた現状分析や考察、今後の予測も、半年後にはすでに古く的外れな内容になっているかもしれない。こうした目まぐるしく変化する市場の中で、読者の方々は自分に向いたデバイスやプラットフォームを選択し、快適なコンテンツライフを楽しんでほしい。

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