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» 2010年12月21日 10時30分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:ユーザーは能弁な社長に泣かされる (1/2)

年末商戦、年度末商戦と12月と3月の新製品は多い。しかし、その中には“地雷”も少なくない。ファームウェアのアップデートに対応するから大丈夫? うはー!

[牧ノブユキ,ITmedia]

「年内発売」「今期中発売」で影響を受ける「品質」

 12月と3月は、それぞれ「冬商戦」「春商戦」と呼ばれる、どの業界にとっても大事な商戦期だ。家電とPC関連機器でも同様だが、この業界に限っては、「完成度が低い」“地雷”が紛れ込みやすい危険な時期でもある。

 どこの業界でも、発売が確定していない新製品や新サービスを先走って発表してしまう社長というのがいる。その発言の多くは、株主対策だったり競合他社の先行に対する牽制だったりするわけだが、こういう発言で、開発スケジュールが多少繰り上がったというレベルならまだしも、技術的な問題すら解決されていない状況で発表が先走ってしまうと、開発現場は間違いなく混乱する。新技術への対応を求められるPC関連機器の開発ではなおさらだ。

 とはいえ、社長の公式な発言を「ウソ」にするわけにはいかない。残業しまくり、休日出勤しまくり、追加人員を投入しまくり、取引先に無理難題を押しつけまくりで、社長が公言した期日に製品を出荷しなくてはならない。

 こうした状況下でしわ寄せがくるのは「品質」だ。パッケージデザインなどは、多少納期が繰り上がったところであまり影響は受けない。パッケージのイメージカットに使う撮影用の試作品が間に合わずCGで代用してコストがかかった、といったことはあるかもしれないが、それがほかの工程に影響を与えることはあまりない。

 問題なのは、製品そのものの開発スケジュールだ。工程Aが終われば工程B、それが終われば工程C、とプロセスが連続している場合、上流工程の工程Aが遅延すると後の工程すべてに影響が及んでしまう。そのため、工程Aの段階で特定機能の実装に見通しが立たない場合は、その機能を導入しないで工程Bに進ませる、といったことが起こる。納期を優先するため出荷時は機能を無効にしておき、ファームウェアのアップデートで機能を復活させる対応だ。PC関連機器はもちろん、アプリケーション、ゲームソフトなどでも「分岐先をまるまる削る」といった対応をする例は多い。

 その結果として、社長が勝手に公言した発売日には間に合ったものの主要な機能は使えない製品が、店頭に並ぶことになる。社長が先走って発表する出荷タイミングとしては「年内」「今期中」といった区切りのいい時期が選ばれがちなので、こうした製品が、年内の12月と期末の3月に集中することになる。特に6月の株主総会で「年内発売」「今期中に発売」といった予告をしているような新製品は要注意だ。

 「社長のムチャ振り」以外にも、「期末の組織変更前や異動前に担当製品をなんとかしたい」「今期までしか予算が組まれていない」「部門長が“今期中に”といって引っ込みがつかなくなった」など、12月と3月に地雷が敷設される事情は多々ある。倉庫から出荷したのが3月であれば、建前上「今期中に発売」という目的は果たされるので、極端なケースになると3月31日にメーカー出荷、取引先入荷は4月1日といったギリギリのケースもけっこう起こるので、4月1日発売の製品でも注意が必要だ。

ファームウェアが新しくなってもハードウェアの問題は!

 12月と3月に製品を買うと地雷を踏む確率が高いのであれば、1月や4月に製品を買えばいいのね、と思うかもしれない。開発中に不具合が出て無効にした機能があっても、ファームウェアがアップデートされて、予定していた機能が使えるようになっている可能性も高い。

 しかし、仮にファームウェアをユーザーが更新できる製品だったとしても、ファームウェアの性能をフルに発揮するためにはそれ相応のハードウェアが必要になる。開発において、予定していた機能をすべて組み込んだファームウェアが完成したら、ハードウェアのパワーが足りないことが分かった、ということが少なからずあるという。社内で検証作業を十分に行う時間があれば、コントローラを上位版に切り替えるなどの対策を施すこともできるが、“社長のスケジュール”では、そういう時間がないことも多い。

 こうした場合にどうするか。主に2つの方法がある。1つは、セカンドロット以降でハードウェアの仕様を変更してしまうこと。コントローラの動作クロックを上げたりメモリの容量を増やしたりと、ハードウェアの仕様を変えてしまうわけだ。もっとも、この方法では同じ型番で2種類の仕様を持つ製品ができてしまいサポート面で支障を来たすため、実際に行われることはまずない。初回ロットの製品を返品してもらって交換することでハードウェアの仕様を統一するという方法もなくはないが、コストもかかるのでなかなか実行できない。

 となると残された方法は1つしかない。すでに出荷されてしまった製品は見捨てて、後継となる新製品を発売することだ。「社長のメンツを保つため」に期末ギリギリに出荷した製品は「なかったこと」にして、開発者が納得のいく後継品を発売するわけだ。使えるようにした機能は、「復活させた」のではなく「追加された機能」として訴求する上位機種として登場し、下位機種となった従来製品はフェードアウトしていく。

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