インクシステムについては、顔料系のK3(VM)インクセットを継承している。ブラック(フォトまたはマット)、グレー、ライトグレーの3種類の濃度のブラックインクをはじめ、イエロー、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、シアン、ライトシアンを採用し、8色のインクで印刷する仕様だ。モノクロ印刷の高い表現力とカラー印刷の高い色再現性に定評ある独特のインク構成となっており、家庭向け複合機主力モデルの染料6色インク構成とはまったく異なる。
とはいえ、インク構成に加えて、インク濃度なども一切手を入れていないとのことなので、インクの性能自体は従来のPX-5600と変わらない。インクまわりでの大きな変更点は、2種類のブラックインクが同時に装てん可能になったことだ。
従来は使用するメディアの種類に応じて、フォトブラックまたはマットブラックのどちらかを手動で付け替える仕様だったが、PX-5Vではメディアの種類を変更してもカートリッジを交換する必要がない。プリンタドライバでインクを指定すれば、自動的に切り替えてくれるのだ。マット紙や光沢紙など、複数のメディアで印刷を楽しむユーザーにとって、ブラックインクの交換の手間が省けるようになったのは朗報だろう。切り替え時には警告も表示されるので、誤って切り替えてしまうミスも軽減できる。
ただし、ユーザーが入れ替えをしなくてよいだけで、ブラックインクの交換の時間はそれなりにかかる。実機で計測したところ、約2分を要したので、交換時間の短縮という点ではあまり貢献していないようだ。
インクまわりで大きな変更点がもう1つある。PX-5Vではインクのカートリッジ容量が増加して、従来の2倍近いサイズになったのだ。これは一見地味だが、使い勝手を大きく高めてくれている。
日常的にA3ノビサイズのプリントを行うと、インクはかなりの速度で消費されてしまう。それだけ印刷するのだから、ランニングコストはまだ納得できると思うが、頻繁にインクタンクの交換を行うのは意外に煩わしい。実際に筆者がPX-5600を使い込んでいたときは、1色のインクを交換して、数分後にまたほかのインクを交換するというケースが多発した経験もあるので、今回の大容量化は手放しで歓迎できる。
そのぶんだけインクカートリッジの単価が高くなるが、公称のインク・用紙合計コストはPX-5600と同じ19.2円を維持している。そのため、インクカートリッジの交換頻度が減るメリットだけを考えばよいだろう。ちなみにエプソンダイレクトでの直販価格はインク各色が2430円、9色パックが2万700円だ。
次はプリントヘッドの仕様だが、2ピコリットルの微細なインクドロップを吐出することが可能になった(PX-5600は最小3ピコリットル)。MSDT(マルチ・サイズ・ドット・テクノロジー)により、インクドロップは自動的に3段階に打ち分けられる。
同時にドット配置の最適化と「LCCS」(Logial Color Conversion System:論理的色変換システム)の組み合わせによって、階調のつながりがよくなったという。さらに、印刷解像度は5760×1440dpi、ノズル数は各色180ノズルと従来通りながら、新エンジンの搭載によりPX-5600に比べて印刷速度を20%ほど高速化したとしている。
ちなみにLCCSとはRGBの映像信号に対し、印刷時にどの色のインクをどのくらい使うのかを決めるルックアップテーブル(LUT)の種類で、エプソンと米ロチェスター工科大学のマンセル研究所が共同で基礎開発したものだ。
8色インク構成では、印刷に“1,840,000,000,000,000,000”通りものインクの組み合わせが発生するが、LCCSにおいては色再現性、階調性、粒状性、光源依存性(カラーインコンスタンシー)といった印刷品質に関する要素を最適化できるように、数式アルゴリズムによってインクの組み合わせ数と打ち込み量を導き出す。この手法により、かつての職人的な感性に依存した感覚的な画作りと比較して、印刷品質に関する各要素を最適化している。
また、インクカートリッジの大容量化に伴い、インク部分の実装面積が広がったことで、インクカートリッジをプリンタヘッドのキャリッジ部分ではなく、その手前に配置したオフキャリッジ式に変更している。インクカートリッジは本体に固定され、インクはチューブを経てヘッドへと搬送される仕組みだ。
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