“X1”が導く「ThinkPadの先にあるもの」元麻布春男のWatchTower(2/3 ページ)

» 2011年05月17日 14時00分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

薄いボディで高性能を発揮するために用意した“第5世代の羽”

 このように、ThinkPad史上で最も薄いボディを採用したにもかかわらず、ThinkPad X1はビジネスユーザーを満足させるだけの性能も持たなければならない。外側だけでなく、内側も充実させてはじめてThinkPad Classicの条件を満たすことになる。そこで、ThinkPad X1は、インテルの“Sandy Bridge”世代となるモバイル向けCPUで高クロック動作を可能にするTDP35ワットモデルを搭載する。標準構成で搭載するのはCore i5-2520M(2.5GHz、Turbo Boost Technology有効時で最大3.2GHz)で、ほかにCore i3シリーズを搭載する構成も設定されている。

 TDP35ワット版のCPUを採用したことで、高い性能(レノボ・ジャパンが行ったベンチマークテストで超低電圧版CPU「Core 2 Duo SU9400」搭載のThinkPad X301と比べて約2倍)を実現した。しかし、TDP35ワットというCPUを薄いThinkPad X1のボディに搭載して長時間安定して動作させるには、十分、かつ、効率の高い熱対策が必要になる。

 そこで、ThinkPad X1では新たに冷却効率の優れたクーラーユニットが用意された。内蔵するクーラーファンのために、”第5世代のフクロウ羽ファン”となる新しいブレード形状を開発したほか、薄型のボディにヒートシンクとほかの部材やチップをすべて収めるために、ヒートパイプの厚みに場所によって変化を持たせるなどの工夫を施している。さらに、冷却風の吹き出し口も、上に向かって開くように斜めになった側面形状に合わせてカットされたものを用意するなど、冷却用パーツはThinkPad X1のためにあつらえたカスタムモデルと呼んでもいいほどに手が加えられている。

ビジネス利用で重視される性能もThinkPad X1では求められる。そのため、TDP35ワットのCore i5-2520Mを搭載した。従来の薄型ThinkPad X301で搭載するCore 2 Duo SU9400と比べ、2倍の性能を発揮する(写真=左)。薄いボディに高クロックの通常電圧版CPUを搭載するため、ThinkPad X1では、効率の高いクーラーユニットが求められる。そのため、第5世代となる“フクロウ羽”を開発し、ThinkPadで最も薄いクーラーファンながら、風量を維持しつつ静音性能も向上させた(写真=右)

ThinkPad X1を薄くするため、メモリとバッテリーはこうなった

 こうして、ボディの薄さと堅牢性を両立させたThinkPad X1だが、そのために拡張性で従来のThinkPad Classicとは異なる仕様を持たせている。例えば、ThinkPad X1にはメモリスロットが1つしかなく、加えて、オンボードのシステムメモリが用意されない。最大メモリ容量が8Gバイトまでと、ほかのThinkPad Classicモデルと比べて少ない設定になっているが、標準構成の4Gバイトから拡張する場合、工場出荷時に組み込まれていたメモリを取り外して、8Gバイトメモリに交換する必要がある。

 また、データストレージでは、ネジ1本でデバイス交換が可能なThinkPadの伝統が守られているものの、利用するユニットは一般的な2.5インチ9.5ミリ厚タイプではなく、7ミリ厚タイプとなる。

 拡張性という点で評価が分かれそうなのが、ユーザーによるバッテリー交換ができなくなったことだ。しかし、だからとって、単純にバッテリーに関連する使い勝手を犠牲にしたわけではない。

 ThinkPad X1に内蔵されたバッテリーは、約5.8時間(JEITA)、拡張バッテリーと合わせると約11時間(同)の長時間駆動を実現する。特筆すべきは、内蔵バッテリーだけなら30分、拡張バッテリーを合わせても1時間で80%以上の充電が可能なことだ。従来のThinkPadに使われていた標準6セルバッテリー(リチウムイオン)は、80%の充電に75分を要していたので、約半分の時間になった。

 このことが、実際の運用で大きな意味と使い勝手の向上をもたらすことになる。例えば、午前中バッテリー駆動で利用してほぼ空になっていても、昼休みに30分間充電すれば内蔵バッテリーの80%まで充電されるので、午後に4時間半程度のバッテリー駆動が可能となる。これなら予備バッテリーに交換する必要はほとんどない。

 この、“30分で80%充電”という「Rapid Charge」を実現するため、ThinkPad X1には従来のThinkPad Classicとは“素性が異なるバッテリー”が使われている。リチウムポリマーバッテリーでは、駆動するデバイスにあわせて充電や放電の特性をチューニングしているが、ThinkPad X1では、電動工具などに使われているバッテリーセルの技術をベースにした専用のバッテリーを用意した。電動工具を使う現場では急速充電が求められるが、バッテリーの素材や本体側の制御回路も急速充電に適したチューニングが施されている。ThinkPad X1では、この特性をもったバッテリーと制御回路を最適化を採用することで、ノートPCでも短時間充電を実現した。短時間の急速充電はバッテリーセルを痛めやすいが、ThinkPad X1では、ノートPCでも使うことも考慮して、バッテリーはセル寿命にも配慮されており、従来以上の寿命を確保できたという。

ThinkPad X1のメモリスロットは1基で、オンボードにシステムメモリは備えない。なお、ThinkPad X1の基板など、内部の状況は別記事で紹介する予定だ(写真=左)。バッテリーの運用面で注目したいのが、わずか30分で80%充電が可能という急速充電性能だ。これは、電動工具向けの特性を持ったリチウムポリマーバッテリーをベースにすることで実現したという(写真=右)

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