“Z”に肉薄した新型「VAIO S」のフルフラットボディを丸裸にする完全分解×開発秘話(1/5 ページ)

» 2011年06月02日 00時00分 公開

フルフラットな新デザインに隠された秘密とは?

新デザインのフルフラットボディを採用した新型「VAIO S」

 モバイルノートPCの豊富なラインアップを擁するVAIOブランドにおいて、現状でCPUに第2世代Core プロセッサー・ファミリー(開発コード名:Sandy Bridge)を採用した機種は「VAIO S」シリーズのみとなっている。

 VAIO Sといえば、13.3型ワイド液晶ディスプレイと光学ドライブを搭載しつつ、可搬性にも配慮したスタンダードなモバイルノートPCという位置付けだったが、2011年春モデルでは大胆なアップグレードが断行された。

 第2世代Coreとそれに対応したノートPC向け最新プラットフォーム(開発コード名:Huron River)の採用をはじめ、クアッドSSDやGPU切り替え機能といったハイスペックを詰め込み、バッテリー駆動時間は延長したうえで、ボディを約1.64〜1.79キロ、23.9ミリ厚のフルフラットにまとめ上げるなど、よりパワフルなモバイルノートPCに生まれ変わっている。

 今回はガラリと変わったVAIO Sの内部構造に迫るため、開発者自身の手で分解してもらいながら、各部のこだわりや開発時のエピソードを聞いた。

 話を伺ったのは、開発責任者の宮入専氏(ソニー VAIO&Mobile事業本部 第1事業部)、機構設計担当の北野勝巳氏(同事業部)、拡張バッテリーとドッキングステーションを設計した橘健司氏(同事業部)、ソフトウェアプロジェクトリーダーの石山智之氏(同事業部)、そして商品企画担当の太田真人氏(同事業本部 企画戦略部門 企画1部)の5人だ。分解は北野勝巳氏にお願いした。

新型VAIO Sを設計したメンバー。下段中央の基板を持っているのが宮入専氏。上段は左が石山智之氏、中央が北野勝巳氏、右が橘健司氏だ


新シリーズだったかもしれないほどの大幅強化

開発の経緯を語る太田真人氏(左)と宮入専氏(右)

 分解作業を始めてもらう前に、まずは開発の経緯を聞いた。新型VAIO Sの開発は、最初の構想を2009年12月に始め、「VAIO Z」や「VAIO T」といった歴代のVAIOモバイルノートの開発担当を集めて、2010年3月から実際の設計に取りかかったという。ちなみに宮入氏は初代「VAIO type Z」の開発責任者でもある。

 宮入氏は「幅広い層をカバーできる価格帯において、フルフラットな薄くて軽いボディと高いパフォーマンスを融合し、バッテリー、デザインまで含めた高次元でのバランスを実現することで、より競争力のある13型クラスのモバイルノートPCをしっかり作って育てていこう、という意図で開発をスタートした」と当時を振り返る。

 とはいえ、シリーズ名をVAIO Sとして発売することが確定するまでには、社内でも討議が重ねられたという。太田氏は「製品コンセプトは早い段階から決まっていたが、新シリーズを作るか、既存のシリーズで展開するのか、しばらくは社内でもいろいろな意見が出た。しかし最終的には、長期に渡って多くの方に使っていただいている既存のシリーズを軸に、VAIO SをハイパフォーマンスのモバイルPCとしてより進化させ、1つの柱にまで引き上げていこう、ということで意見がまとまった」と説明する。

 このエピソードだけを聞いても、VAIO Sが従来の枠組みにとらわれない大幅なアップグレードをしたことがうかがい知れる。

進化し続けるVAIOノートのデザインは健在

フルフラットボディのデザインは、「VAIO G」や「VAIO B」といった法人向けモデルを担当した経験があるデザイナーによるもので、ビジネスで使っても“浮かない”シックな外観だ

 新型VAIO Sでまず目立つのは、これまでと大きく異なるフルフラットボディだ。前面から背面まで本体の厚さを23.9ミリと均一に仕上げており、液晶を閉じた状態でデスクに置いても、手に持って小脇に抱えても、バッグにしまっても余計な膨らみなどがなく、スマートで収まりがよい。

 重さは約1.64〜1.79キロ(構成によって異なる)と、13型クラスで最軽量ではないが、ハイスペックなCPUや外部GPU、光学ドライブ、長時間駆動のバッテリーをすべて備えていることを考慮すると、筋肉を落とさず、よく絞り込んでいるといった印象だ。

 単にフルフラットなボディというだけでなく、天面と底面から側面は、マグネシウム合金のシャシーを上下から包むように合わせて、側面から見ると六角の形状になる「ヘキサシェル」構造を採用することで、軽さと頑丈さを両立している。

 剛性については特に耐天面加圧〜キロといった値が示されているわけではないが、「ソニーが従来取り組んできたモバイルノートPCと同様、平面加圧振動や落下、一点加圧などの厳しいテストセットはすべてクリアしており、実際に持っていただいても剛性感が伝わるはず」(宮入氏)とのこと。具体的な品質試験の内容はVAIOのWebサイトで公開されている。

前面と側面を横から見ると、PC内部を包み込むような六角の形状になっているのが分かる。ちなみに標準仕様モデル上位機の「VPCSB19FJ/B」は、ボディサイズが331(幅)×224.5(奥行き)×23.9(高さ)ミリのフルフラット、重量が約1.76キロ(下位機は約1.72キロ)だ。ソニーストア直販のVAIOオーナーメードモデルは、重量が約1.64〜1.79キロとされている(構成によって異なる)

液晶ディスプレイを覆うトップカバーの未着色サンプル。マグネシウム合金製だ。VAIOロゴ部分は光沢パーツをはめ込んだルミナスロゴとなる。カバーの上辺には無線LAN/WANのアンテナが内蔵されるため、ここは樹脂製パーツが付く

底面から側面までを覆うボトムカバーの未着色サンプル。こちらもマグネシウム合金製だ。放熱用のスリットや各パーツを格納するスペース、基板類を固定するネジ穴などが用意されている

底面に用意されるカバーの未着色サンプル。ネジ2本で底面に固定される

 液晶ディスプレイを開くと、まず目に飛び込んでくるのが、アルミニウムの1枚板で構成された継ぎ目のないパームレストとキーボードベゼルだ。プレスされたアルミ板は厚さ0.8ミリと肉厚で剛性があり、キーボードのしっかりしたタッチを支えてくれる。ちなみにキーボードはバックライト付きだ。

 キーボード周囲を少しくぼませることで、キーボードを打ちやすくしているのもありがたい。このキーボード周囲の段差を生み出す直線的なデザインについては、「アルミの削り出しとは違う、プレス加工ならではのエッジ感をうまく表現できるように、加工方法などを変えた試作を繰り返し、丸みやシャープさのバランス、角度による見え方の違いを確認した」(北野氏)というこだわりぶりだ。

パームレストの上部には折り目のようなラインが横一直線に入り、キーボードに向かって下り坂になっている(写真=左)。パームレストとキーボードベゼルの未着色サンプルを見ても、キーボード四隅に向かってくぼんでいくシャープなラインが美しい(写真=中央)。試作段階ではアルミ板の左右で、エッジの丸みや深さなどを変えたサンプルを作り、デザインを追い込んでいった(写真=右)

 また、液晶を開いたときに正面からヒンジが隠れて見えない「コンシールドヒンジ」のデザインも見逃せない。一見、何ということはないシンプルなデザインに思うかもしれないが、長細いヒンジを背面に配置することで、画面とキーボードの間の障害物を排除して距離を縮め、画面とキーボードの間の視線移動がスムーズに行えるようにしている。

 キーボードの配置が奥に移動したため、手前のスペースに余裕が生まれ、パームレストとタッチパッドの面積が広く確保でき、操作しやすくなったのもポイントだ。「こうしたデザインの変更に伴う全体的なバランスの最適化によって、新しい快適な体験が得られるので、そこをぜひ実感していただきたい」と宮入氏。

背面にヒンジを配置することで、正面から液晶ディスプレイとキーボードの接合部が見えないようにした「コンシールドヒンジ」。背面のメタリックで細長いヒンジは、フルフラットボディの新型VAIO Sにおいて、デザインのアクセントになっている

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