デジタルライフの中心は「クラウド」へ――アップルが目指すデジタルハブ戦略の第2章WWDC 2011基調講演リポート(4)(3/4 ページ)

» 2011年06月14日 18時30分 公開
[林信行,ITmedia]

ポストPC機器の使い勝手を変える機能も

「PhotoStream」を紹介するジョブズ氏

 続いてジョブズ氏は、ほかに3つの機能を紹介した。

 1つ目は「Documents」。WWDC 2011の1週間前にリリースされたiPad/iPhone用のiWork(Keynote、Pages、Numbers)は、実はすでにこれに対応しているという。新しいiWorkのアプリケーションで、書類を作成すると、その書類は自動的にバックグラウンドでiCloudに転送され、iWorkのアプリケーションをインストールした(自分が所有する)ほかの機器にも自動的に転送される。そして書類に何か変更を加えても、その変更が間もなくほかの機器のiWorkにも反映されるのだ。

 ジョブズ氏は、これがiOS機器による書類の扱いに対するアップルの答えのすべてだと語る。「我々はこの十年近く、どうやったらファイルという概念をなくせるかを真剣に考えてきた。誰かにMacの使い方を教えようとする。MacはあらゆるPCの中で最も簡単だから覚えるのも早いが、ファイルの話を始めたとたんに難しさが急増して、ついてこれない人が出てきてしまう。そうならないように、iOS機器ではファイルというものを見せないように気を使ってきた。アプリケーションのアイコンそのものが、それで作った書類をも代表するようにしてきたのだ――ちょうどメールのアイコンが、受信メールすべてを包括しするように。しかし、我々がこれまで解決できていなかった問題は、そうやって作成した書類をどうやってほかのデバイスに移すかという点だ。iCloudのDocuments in Cloud機能は、これを解決してくれるパズルのピースだった」。

 iCloudの、このドキュメント機能に対応したアプリケーションでは、すべての所有デバイスで書類が自動的にプッシュされ、更新も反映される。さらにアップルは、他社のアプリケーションさえも同様のことができるように「iCloud Storage APIs」というAPIを公開する。このAPIを利用した書類の共有はiOS機器だけでなく、MacやWindows機にも対応する。

 続いて紹介されたのはジョブズ氏お気に入りの「PhotoStream」という機能だ。iPhoneで写真を撮ると、それがバックグラウンドでiCloudに転送され、しばらくした後にiPadやMacなど、ほかの所有機器でも見られるようになる。ここまではほかのiCloudの機能と同じだ。MacでiPhotoに取り込んだデジタルカメラの写真も同様で、ほかの所有iOS機器にプッシュ転送される。

 すごいのは、これが既存のフォトアルバムの延長として実装されていることだ。使い慣れた「フォトアルバム」機能を起動し、新たに加わった「Photo Stream」というタブをクリックすると、そこにほかの機器から転送された写真が表示される。

 この「Photo Stream」写真は、MacではiPhotoに表示されるが、WindowsにはiPhotoがないので、ピクチャフォルダに自動転送される。さらにApple TVにも「Photo Stream」というメニューが用意され、iPhoneなどで撮った最新写真がすぐに見られるようになる。

Photo Streamの写真は、MacではiPhoto、Windowsではピクチャフォルダに自動転送される。AppleTVにもPhoto Streamが加わり、iPhoneで撮影した写真がiCloudを経由して自動的に閲覧できるようになる

 ただし、こうした写真の転送には問題もある。ファイル容量が大きく、iOS機器の容量やアップルのインフラ(クラウドサーバ)を圧迫する可能性だ。そこでアップルは、以下のようなスキームを生み出した。

 iOS機器では最新1000件の写真だけを保管する。それ以上写真が転送されてくると、自動的に消えてしまうが、iPhone/iPad上でずっと取っておきたい写真があれば、それらの機器上でアルバムを作りそこに入れておけばいい。一方、HDD容量の大きなMacやPC上ではすべての写真を保管しておく。そしてiCloud上では30日間保管する。ジョブズ氏は、「これだけ日数に余裕があれば、iOS機器がクラウドに接続されないまま写真を逃す心配はなくなるだろう」と語っている。

iTunesもクラウドに対応する

 ジョブズ氏が最後に紹介したのは「iTunes in Cloud」だ。これにより、iPhoneで買った曲も、PCで買った曲も、1度購入した曲は追加料金なしでほかの機器にダウンロードできるようになる。「これは音楽業界において初めてのできごとだ」とジョブズ氏。

 また、iTunes in Cloudでは、さらに何か新しい曲を買うと、購入した曲が自動的にほかの機器へダウンロードされるという機能も用意される(オプションでオン/オフできる)。このiTunes in Cloudは256Kbps/AACエンコーディングで提供され、最大10台までの機器で音楽の同時利用が可能になる。

 ここまで紹介した9つの機能がすべて「無料」で提供されることが告げられると、場内からは喝采が鳴り響いた。

ハードウェア、OS、アプリの統合されたクラウド体験

 ここでジョブズは氏はもう1度iCloudの定義を繰り返す。

 「iCloudはあなたのコンテンツを保管し、それをあなたが持っているすべての機器にワイヤレスでプッシュする。……それに加えて、iCloudはあなたのアプリケーションと完全に統合しており、すべてが自動で行われる」。

 そしてジョブズ氏はこう付け加えた。「我々の競合会社は、アプリケーションも持っていなければ、素晴らしいアプリケーションを作ってくれる開発者の味方もいない。彼らには同じことはできない」。

 PCやiOS機器でネイティブに動くアプリケーションこそが、質の高いユーザー体験を提供し、そこに統合されてこそクラウドは意味がある、というのがジョブズ氏の言いたかったポイントだろう。

 iOS 5がインストールされた機器を購入し、Apple IDの入力画面でIDとパスワードを入れれば、手動で設定をオフにしない限り、自動的にiCloudが機能する。

 容量5Gバイトまでの利用は無料で、これをメール、書類、そしてバックアップの目的に利用できる。5Gバイトというと少なく感じるかもしれないが、購入した音楽やアプリケーション、iBooksの本は購入したというデータが記録されるだけなので、それによってバックアップ容量が減ることはない。また、最も容量を占めるPhoto Streamも別カウントになっている。

 なお、iOS 5を搭載したデバイスの出荷は秋のタイミングになるが、新しいiTunes 4.3のβバージョンを通して「iTunes in Cloud」のサービスだけは一足先に提供が始まっている。

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