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» 2011年08月23日 16時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:“あの製品”がトップの座を明け渡したわけ (1/2)

それにつけても「ランキング」は面白い。昔から定番のニュースネタだ。今回は、そのランキングに“踊らされる人”と“躍らせる人”のせめぎ合いを観察する。

[牧ノブユキ,ITmedia]

「iPad 2」がトップでなかった

 ある調査会社が定期的に発表する製品売上ランキングは、“型番ごと”の個数を集計する。しかし、ここで集計するとトップになる製品が、別の“販売数”ランキングでトップにならなかったりすることがある。最近も、タブレットデバイスのカテゴリーで集計した例で、“あるベンダー”のAndroidタブレットが、iPad 2よりも売れているとした調査結果が出ていたが、この事例もランキングが不整合になるケースに相当する。

 “iPad 2がトップでなかった”このランキングは、大手調査会社が提携店舗のPOSデータを集計しているので、調査で得られたデータの信頼性は高い。集計対象の店舗に偏りがまったくないとはいえないが、少なくとも販売数を加工することは不可能だ。ただ、調査結果を報じる記事にあったグラフをみると、ランキングの1位は“あるベンダー”のAndroidタブレットだが、2〜5位のすべてをiPad2の容量違いと色違いモデルが占めている。問題は、2〜5位にあるこれらを合計すると1位のAndroidタブレットをはるかに上回ることだ。集計に入らない“3G対応モデル”を加えると、その差はさらに広がるだろう。

 このケースでは、Webニュースで紹介されてしまったため、「(Androidデバイスが)iPad 2(を)引き離しシェア第1位」になったと受け取ったユーザーも少なくなかった。このように、売上データそのものは事実であるにもかかわらず、ランキングの順位が実際の販売状況と異なる印象をユーザーに持たせるあたりに、「単品の売上だけではシェアの過多は語れない」という、現在のPC周辺機器やデジタルガジェット特有の事情が潜んでいる。

売上ランキングは、“バリエーション戦術”を反映していない

 PC周辺機器を扱う業界の販売戦術では、売り場の棚をより多く確保する「面取り」が、特にアクセサリ製品において効果を発揮する。色違いなどのバリエーションを大量に投入することで売場の“面”を確保して、自分たちのブランドと製品を視覚的にアピールすることで競合製品に対して優位に立つことを目指す。この戦術では、売り場をほぼ独占することで、他社と比較して自社の製品を選んでもらうのではなく自社のバリエーション製品の中から購入する製品を選んでもらうことになる。

 iPad 2は販売店で競合製品と混在して棚に並ぶわけではないので、「面取り」戦術を行う必要はないが、それでも多くのバリエーションモデルを投入している。ボディカラーにホワイトとブラックを用意し、データストレージに3種類の容量をそろえ、無線接続で無線LANモデルと3Gモデルがある。

 iPadに限らず、PC周辺機器全体にいえることは、本体の色違いやデータストレージの容量違いモデルは、ボディを新規に設計する必要がないので、新規金型などの追加コストがかからず、ベンダーとしても型番の改廃が容易だ。また、1つの金型コストを複数の型番に乗せて処理できるため、原価計算上は金型コストの償却が早まるというメリットもある。

 カラーバリエーションをそろえるモデルが多いマウスなどでは、多くの販売店で採用する幅90センチの売り場棚に製品がぴったり収まるように幅15センチのパッケージを6色投入する。それだけでなく、売れ行きが思わしくない色が出たら、すかさず新色を投入して入れ替える。こうして、競合他社にわずかでも棚を取られない体制を確立している。この場合、金型コストは6つの型番に分けて償却できるので、単品ごとの製品原価はむしろ下がることになる。

ランキングに惑わされないほうがいい

 こうしたバリエーション戦術は、PC周辺機器やデジタルガジェットはもちろんのこと、携帯電話など多岐に渡って実行されている。6種類のバリエージョンを用意して売上が6倍になるかというとそうではないが、少なくとも1種類しかないのに比べると3〜4倍になる。iPad 2のように、購入したあとから本体にデータストレージを増設できない製品では、ユーザーが求める容量ごとにモデルをそろえておく必要がある。面取り戦術とは関係なく、結果的にバリエーションを増やさざるを得ない。

 こうした“バリエーション戦術”が主流となったPC周辺機器、デジタルガジェット関連製品で、“型番”ごとの売上数を比較するのは意味がない。それぞれのバリエーションを“1つの製品”とまとめて集計することで、ようやく実像との整合が取れるだろう。ただ、ランキング集計の元となるデータがPOSにおける売上データをベースにしているのであれば、ベンダーが用意するバリエーションをすべてまとめて1つの値とするのは、現実的に不可能だ。どこまでがバリエーションでどこまでが別の製品なのかを明確に区別することも不可能で、むしろ、そこに恣意性が入る危険がある。

 例えばマウスでいうと、見た目はそっくりだがフィット感に合わせてサイズが異なるモデルを用意することが多い。これはバリエーションともいえるし、別のシリーズともいえる。iPad 2も、本体の色違いとデータストレージの容量違いはバリエーションかもしれないが、流通事情的には、3Gモデルの扱いは異なると考えられる。そもそも、3Gモデルを売っているソフトバンクモバイルの店舗がランキングの集計対象店舗に入っていないため、売り上げデータが取得できない。それぞれの製品でこのような事情を検討して、すべての関係者やユーザーが納得できるランキングは現実的に不可能だ。

 だからこそ、ランキングを取り上げる情報(それはニュース記事かもしれないし、ベンダーのカタログかもしれない)では、その集計データがどのように計算されているのかを留意しなければならない。データそのものは捏造しにくいPOSの売上データを元にしているが、そのデータをランキングでどのように扱っているのかを明らかにしない限り、この問題はいつまでも続くだろう。

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