コラム
» 2011年08月25日 14時47分 UPDATE

“本当のチャレンジ”が始まる:ジョブズ氏退任に思うこと――アップルは2013年をどう乗り切るか (1/3)

アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏がついにCEOを退任する。一度は潰れかかった“アメリカンドリーム”の象徴でもある会社を、その後わずか15年で世界の頂点まで導いたジョブズCEOの退任後、アップルは今日の勢いを保てるのか。林信行氏が分析する。

[林信行,ITmedia]

突然の退任は病状の悪化が原因?

 日本時間の2011年8月25日早朝、アップルの共同創業者であるスティーブ・ジョブズ氏がCEOの座を退任すると発表した。21歳で創業し、25歳で億万長者、30歳で会社を追われたかと思うと、41歳でアップルに舞い戻ったジョブズ氏は、48歳にしてすい臓がんを発症、何度かの手術を受けて闘病を続けていた。

 56歳となった2011年、CEOの退任を発表したジョブズ氏は、“Letter from Steve Jobs”の中で、こう記している。

アップルの取締役とコミュニティのみなさんへ

私はこれまでいつも言い続けてきた。もし、いずれ自分がアップルのCEOとしての職務や期待を果たせなくなる時が来たとしたら、必ず真っ先に私自身の口からそれを伝えると。残念ながらその日がやってきた。

 このショッキングな書き出しの手紙が、アップルCEOとしてのスティーブ・ジョブズ氏から届く最後の手紙となった。突然の退任が健康上の理由によるものかは手紙の中で明かされていないが、ジョブズ氏は同じ手紙の中で「もし、取締役会が許せば会長として留任したい」と述べることで、まだこれから先もアップルに深く関わって行きたいという意欲を示している。

 ジョブズ氏の病状は本当にそれほど悪いのだろうか。同氏は2011年1月、病気療養に集中するとしてアップルの日常業務から離れることを宣言した。しかし、療養中も3月には「この機会を逃すわけにはいかなかった」とiPad 2の発表会を自らこなし、6月もWorldwide Developers Conference(WWDC 2011)で講演を行った。

 このWWDCの取材で筆者が渡米した際、ジョブズ氏が毎週必ず訪れる“ある店を”訪問したが、店員いわく週に2度ほどのペースで来店し続けており、「見た目より元気」であるとの証言を得ている。もしジョブズ氏の病状が悪化したのであれば、つい最近のことなのだろうか。そもそもジョブズ氏ほどの戦略家がただ病状が悪化したからという理由で性急に退任の発表をしたのだろうか。

 おそらくこの発表の裏にはある程度、考えられたタイミングがあると筆者は思う。

 そのタイミングとは、ジョブズ氏退任のショックも忘れさせるような、勢いのある新製品発表の準備が完了したということだ。すでにMac関連の情報サイトではiPhone 4の廉価版と、マルチキャリアに対応した新型iPhoneといった複数のiPhoneのウワサが流れており、米国でAT&T、Verizonに続く第3の通信キャリアとしてSprintが名乗りをあげる可能性もささやかれている。

 さらに同じタイミングで、これまでになかった、まったく新しいMacの新製品のウワサもある(筆者は新OS、Mac OS X Lionならではのマルチタッチ操作を生かした製品ではないかと予想している)。

 アップルの今年のクリスマス商戦に向けての準備はすでに万端で、後は新CEOとなるティム・クック氏が得意のオペレーションを実践するだけでほぼ“外すことのない”成功へのレールが敷かれており、これらの発表を行うことにより、多くの人々は一時的とはいえ、ジョブズ氏退任のニュースのことを忘れてくれる、というシナリオだ。iPod、iPhone、Macのラインアップが新しくなる空前の新製品発表の直前で退任するというのは、ある意味、練られた退任発表のタイミングと言えるのかもしれない(なお、一部の情報筋に寄れば東日本大震災で開発に遅れが出なければiPad 3も今回のタイミングで発表される予定となっていたという)。

 もっとも、退任発表のおおまかな時期は練られたものであっても、8月25日というタイミングは事故の可能性もある。

 ジョブズ氏の進退はアップルにとってあまりにも重要なニュースであるため、発表のタイミングにかんしてそれほど自由は与えられていないということだ。ジョブズ氏は、対外的にはアップルの“ただ1人の意思決定者”とみられることが多く、当然、同氏のCEO退任はアップルの株価にも大きな影響を与える(退任の発表から数時間で4.5%、約17ドルほど株価が下落している)。そのため、こうした重大発表は株式市場が長時間止まる金曜日の株式市場閉鎖後に行われることが多い(週末をニュースの冷却期間として利用するためだ)。

 それが週中のこのタイミングで発表となったというのは、アップルの意図に反して、このタイミングで発表せざるを得なくなった可能性がある。

 ジョブズ氏の退任が決まったにも関わらず、そのことを数日間隠したとなると、会社に取って不利な情報を隠ぺいし、株価を操作したと疑われる危険もある。退任の話が取締役会の中だけに止まっていれば、数日間情報を隠しておくことはわけがないが、もしジョブズ氏が退任の準備をしていることを外部の人間が嗅ぎ付けたとするなら、アップル的には疑いをなくすためにも即座に発表しなければならなくなる。もしかしたら、今回の発表タイミングは、ジョブズ氏の退任準備が誰かに気取られたためかもしれない。

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