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» 2011年09月09日 16時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:かわいそうなモックの物語 (1/2)

“動かない”製品見本は、外側だけでいいので安く作れそうだが、必ずしもそうではない。え! なんで? という、意外なムック、いや、モックの裏話。

[牧ノブユキ,ITmedia]

製品より高額なモック

 ネット通販全盛となった今でも、店頭で製品を購入する人はいなくならない。その理由には「在庫をすぐに持ち帰りたいから」「販売員から説明を聞いた上で購入したいから」などがあるが、中でも「店頭でサイズや質感を実物でチェックしたいから」という人は多い。確かに、店頭で実物に触れられるというのは、ネット通販にはないメリットだ。(中には、店頭でサイズや質感を確認した上で、ネット通販から注文する人もいることだろうが)。

 ただ、店頭で触れるのが、実際は製品の実物ではなく“モック”で代用される場合も少なくない。携帯電話の店頭では、実物よりモックが多いので、ユーザーにもモックの存在は、いまや当たり前のようになっている。とはいえ、この「モック」について、ユーザーはどのくらい知っているだろうか。単純に“製品から中身を抜いたモノ”という認識であれば、今回紹介する奥の深いモック事情を知って驚くに違いない。

 モック、モックといっているが、正確には“モックアップ”という。本物そっくりに作られた模型だ。外観サンプルという目的上、実際に動作する部分は少なく、製品のサイズや質感、中には重さの再現を重視したものがほとんどだ。これを製品の代わりに店頭で陳列し、ユーザーに確認してもらう。

 製品の実物を店頭に置かずモックで代用する理由を、店頭展示品にかかるコスト削減と考える人は多い。確かにそれもある。しかし、必ずしもそれだけではなく、モノによっては、モックのコストが製品よりかかっている場合も少なくない。

 例えば、PCの周辺機器であれば、中に入っているはずの基板を省略すると、設計では基板で支えているボタンをどうやってボディに固定するかという問題が生じる。この場合、基板の代わりになるパーツを新たに設計して製造し、モックに組み込むことになる。

 モックのためにわざわざ設計をしなおして用意するのであれば、製品の実物をそのまま並べればいいじゃないかと思うかもしれない。それができない理由は簡単だ。展示品が盗難の対象になるケースが後を絶たないからだ。

 皮肉なことに、モックがあまりにも実物に似ていると、盗難されやすくなる傾向がある。ポータブルHDDでは、製品と重量が近くなるようにモックの内部に鉛を入れたら、盗難されるモックが確実に増えた、という報告もある。また、モックがあまりにも精巧になると、知識のある店員はまだしも、店内を巡回している警備員が製品と識別できなくなってしまう。

 そんなこんなの事情で、モックは、製品のサイズや質感をできるだけ再現しなくてはいけない一方で、製品実物と容易に識別できることも求められるという、実にややこしい扱いにくい存在となっている。

製品より品質がはるかにいいモック

 新たに設計して生産するため、製品より手間とコストがかかることもあるというモックだが、「たとえそうだとしても、たくさん作れば安くなるんじゃないの?」と思うかもしれない。

 しかし、モックは販売店や売場以外で必要とされないので、必要な数は製品よりはるかに少なく、それゆえ、量産効果も発揮できない。生産後に追加オーダーが入ることもほとんどなく、1回モックを作ればそれで終わりで量産効果はまったくない。モックの原価が高くなって当然といえる。

 さらに厄介なのが、モックは製品の発売時点である程度の数が必要なことだ。製品の発売に間に合わせなければ、製品を並べる棚が用意してもらえない店舗も少なくない。しかし、だからといって製造ラインの一部をモックに割り当ててしまうと、製品の生産計画に支障をきたしかねない。モックがまったくないのは、販売店の棚の確保で困るが、モックのために製品のバックオーダーが消化できないというのも、メーカーとしては問題だ。

 その結果作られるのが、量販店でたまに見かける、ボール紙やスチロールで作られた“ハリボテ”だ。ないよりマシという発想で作られた「ローエンドのモック」といえる。棚を確保するために、できるだけたくさんの店頭サンプルを用意すること(当然負担はメーカー持ち)を求めてくる販売店に対する最低限の“義理立て”にはなるので、ユーザーの評判が悪いことは無視してでも、ハリボテで済まそうとするメーカーは後を絶たなかったりする

 ハリボテで済ませることが許されないメーカー、または、販売店が相手の場合、裏技として、「モックは製品とはまったく別のラインで作る」という方法がある。この場合、小回りが効く中小規模の生産業者に発注することになる。こうなると、製品は「Made in China」なのに、モックは少数ロットの生産ができる「Made in Japan」で、結果としてモックの品質が製品より上という状況が発生する。

 製品は塗装にムラがあったり部材の継ぎ目が甘かったりと、何かと見た目で問題があるのに、モックの仕上がりが極上だったりすると、モックを見たあとにネット通販で購入したユーザーから、製品の外観仕上げがあまりにも悪い、だまされた、金を返せ、ということになりかねない。

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