その「ダイナミックDNS」と「Wake on LAN」とは何か。
ダイナミックDNSは、ごく簡潔に述べると固定IPアドレスとドメインを所持していなくても、外部から自宅のPCへアクセスできるようにするもの。DNSとは「Domain Name System」の略で、世界中に分散配置されたDNSサーバが、先に上げた例だとドメイン名「itmedia.co.jp」へのアクセスを、同社のサーバに割り当てられた固有のIPアドレスへ変換することで機能している。こちらはインターネットの利用に不可欠な仕組みだ。
ドメイン名とひも付くIPアドレスは固有のもの。そして、DNSサーバは世界中に無数に分散配置されているため、世界のどこからアクセスしても目的のサーバまで到達できるわけだが、この登録を変更するとなると、無数にあるがゆえすべてのDNSサーバに変更内容が反映されるまで2〜3日を要することもある。
そこでダイナミックDNSは、URLのうち「***.jp」といったドメイン名は固定しつつ、例えば「itmedia.***.jp」といった任意のホスト名・サブドメイン名を利用者に与え、IPアドレスの変更を全世界のDNSサーバではなく、***.jp内のDNSサーバで管理できる分なら早く済むよ、という考え方を採用した。
この場合、***.jpのIPアドレスは固定・固有のものなので、PCなどからitmedia.***.jpへアクセスしても、itmedia.***.jpと***.jpのドメインとホスト名を管理するDNSサーバには常に到達でき、結果としてホスト名:itmedia.***.jpのIPアドレスが“現在は”何かであることがすぐ識別できるというわけだ。
インターネットとWebアクセスにおける正確な仕組みや詳細は都合上かなり省いたが、つまり自宅のインターネット環境でもダイナミックDNSサービスを利用することで、外部からでも常時アクセスが可能になる環境が整うことになる。
さて、とはいえダイナミックDNSそのものはかなり昔から存在し、決して目新しいサービスではない。ユーザーとしては、ISPより割り当てられるIPアドレスを監視し、変更されたことを検知し、ホスト名とIPアドレスのひも付け情報を修正しなければならず、これまではWebブラウザでダイナミックDNSサービスの設定サイト上で手動更新するか、監視・自動変更のための専用アプリケーションなどを実行しておくのが一般的だった。PCを常時付けっぱなしにする必要があるなど、一般ユーザーには少し手を出しにくかった経緯がある。
それならば、家庭内で(比較的省電力で動作しつつ)常時起動しているPC関連機器といえば──そう、ブロードバンドルータがある。最近のブロードバンドルータの多くには「ダイナミックDNSの自動更新機能」が備わっている。ブロードバンドルーターであれば割り当てられているIPアドレスの変化も即時に検出でき、そのままダイナミックDNSの変更作業も自動的に行ってくれるというわけだ。
もう1つのキーワード「Wake on LAN(WOL)」は、LAN接続されているPCに対してマジックパケットと呼ぶパケットデータを送信することで、PCの電源(スリープ/休止状態からの復帰も含む)をリモート操作で制御できる機能だ。
このマジックパケットは、インターネット経由で送受信できるデータなので、前述したダイナミックDNSサービスとともに、このデータが自宅内のどのPCへ転送されるかをルータ側で設定すれば、外から自宅のPCの電源を入れられるようになる。
では、これらを実際にブロードバンドルータで設定してみよう。
では、前述した2つの機能をサポートするNECアクセステクニカ「AtermWR8600N」を例に、リモートアクセスを試してみよう。
AtermWR8600Nは、まず“BIGLOBE ダイナミックDNSサービス”と“お名前.com ダイナミックDNSサービス”に対応し、それぞれダイナミックDNSサービスのアカウント名とパスワードを設定するだけで利用できる。これら2つは国内ISPが展開するサービスで、任意の文字列でのURL名も利用でき、数百円の月額料金で利用できる。BIGLOBE ダイナミックDNSサービスは月額210円(税込み)となる。同ISP利用者や好みの名称・ドメイン名で実施したい人はこちらを選択するとよいだろう
さらにもう1つ、AtermWR8600Nには無料で利用できる簡易ダイナミックDNS機能「ホームIPロケーション」も用意する。上記有料サービスとの違いは「製品固有の14文字」+「.home-ip.aterm.jp」が自分用のアクセスURLとなり、任意の文字列でホスト名を指定できない程度だ。面倒な契約手続きは不要で、Web設置ツールで「(ホームIPロケーションを)利用する」にチェックを入れるだけ。非常に手軽にはじめられる。
Wake on LANは「PCリモート起動」という名称の機能が用意してある。こちらもWeb設定ツールで自宅のPCに任意の固有の名称(端末名)を登録し、機能を有効にするだけ。Wake on LANの利用に必要なマジックパケットを送信するためのツール類も不要であり、外出先からWebブラウザを使って電源制御の操作が可能になる。
前半でじっくり説明したダイナミックDNSサービスとWake On LANだが、AtermWR8600Nであればこれだけで準備完了だ。自宅PCのほかに、AtermWR8600NのUSBポートに接続し、簡易NAS機能として動作しているストレージ領域(USBメモリやUSB外付けHDDなど)へアクセスすることも可能だ。ちなみにこの簡易NAS機能は、普段自宅でPCを使う時もネットワークドライブとして活用できるので、そこにデータを保存するようにしておけばPCリモート起動機能+PC本体は使わずにお手軽リモートアクセス環境を構築することもできてしまう。
バッファロー「WZR-HP-AG300H」もダイナミックDNSに対応し、PPTP(Point-to-Point Tunneling Protocol)サーバ機能を利用することで、外出先よりWZR-HP-AG300HへVPN(Virtual Private Network)接続し、Web設定ツール(サイト)から自宅のPCを“Wake on LAN”で電源を入れられる。この外出先からのWake On LANの利用はVPN接続が前提になるが、高機能な分、ある程度PCスキルのある人なら便利に使えるだろう。
このほかコレガ「WLR300NNH」とロジテック「LAN-HW450N/GR」もダイナミックDNSに対応しており、自宅に省電力な小型PC(あるいはノートPC)を設置してリモートアクセス先として利用するといったスタイルなどで問題なく対応できそうだ。
さて、AtermWR8600Nの便利な点は、ルータ機能を無効にしても(本機をアクセスポイントモードに切り替えても)、前述したホームIPロケーションやダイナミックDNS、PCリモート起動(WOL)といった機能が使えることだ。
家庭用のインターネット接続サービスにおいては、インターネット接続用にルータ機能を持つ光/ADSL/ケーブルモデムがセット貸し出されるシーンも多い。このようなレンタルルータをそのまま使う場合は、その機器の先に今回取り上げた最新無線LANルータを「アクセスポイントモード」に切り替えて接続して運用すればよい。無線LAN部分だけ、最新無線LANルータの高性能な5GHz帯対応に置き換えられるというわけだ。
ただし、アクセスポイントモードに切り替えると上記に挙げた機能も使えなくなってしまう製品もある。AtermWR8600N以外でリモートアクセスに便利な機能を利用するなら、すでにあるレンタルルータのルータ機能を無効にし、新たに導入する無線LANルータ側でPPPoEなどによるインターネット接続の設定をし直さなければならない。これは一度設定すればよいものだが、導入までの壁がやや高いのは少し面倒といえる。
AtermWR8600Nをアクセスポイントモードとする場合は、LAN内でのIPアドレス利用環境を自動で確認して、自身のIPアドレスを「xxx.xxx.xxx.211」に自動設定する。さらにルータのUPnP機能を利用し、リモートアクセス機能で利用するポートのインターネット側のデータをAtermWR8600Nへ転送するよう、こちらも自動で設定してくれる。つまり、すでにブロードバンドルータが存在する家庭でも、ポン付けで使える。普通はあれこれ小難しいネットワーク設定に悩まなくてよいのがかなり便利だ。
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