連載
» 2011年12月18日 13時30分 UPDATE

矢野渉の「金属魂」Vol.22:存在の耐えられる“重さ”――TEACの光学ドライブ

PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。今回は、CD-Rドライブが最も熱かった時代までさかのぼる。

[矢野渉(文と撮影),ITmedia]

CD-Rドライブが花形だった時代

 僕が撮影の仕事をデジタル化したのは1999年のことである。そのときの一番の悩みは写真の納品方法だった。当時、デザイナーの中には品質が落ちるからといって非圧縮のTIFFやPICTなどといった形式の写真しか受け取らない人もいて(印刷で2センチ角の写真ならば、JPEGで充分だと思うのだが)、大容量のメディアがどうしても必要になったのだ。

 ネットはすでにあったが、まだ通信速度が遅くて写真を送ることは非現実的だったし、いきなり少し大きめのデータを送ると、怒りのメールが返ってくるような状態だった。

 最初は640MバイトのMOで写真をやりとりしていた。MOディスクはリライタブルなので「使用後にメディアを返却してください」と付け加えるのだが、戻されたディスクは皆無だった。1枚千円以上するディスクをその度に先方に差し上げるのはどうにも腹立たしい。

 自然に写真の納品はCD-Rで、ということになった。そのころのCD-Rドライブは書き込み速度がどんどんと速くなっていて、4倍速書き込みから8倍速書き込みへ、そして2000年を迎えると12倍速書き込みのドライブが発表されたのだ。

 使う人が増えるとメディアは大量生産されて加速度的に安くなる。CD-Rディスクは1枚100円台の値段になり、アットワンス(追加書き込みできない)でデータを作って使い捨てできるレベルにまで普及が進んだのである。

データの安定化に見る技術者魂

 しかし、書き込み速度が速くなるに従って「バッファアンダーラン」という問題が起こるようになった。PCは書き込む元データを書き込み形式に変換してCD-Rドライブのバッファメモリに転送する。それをドライブは「一筆書き」のようにしてCD-Rに書き込んで行くのだが、データの転送速度がメディアへの書き込み速度に追いつかなくなると書き込みに失敗してしまい、そのCD-Rメディアは再使用できなくなる。実際に「最高速書き込み」を指定すると、ほとんど書き込みに失敗してしまうドライブもあったほどだ。

 しかし、日本の技術力は瞬時にこの問題をクリアしてしまう。「BURN-Proof」(三洋電機)、「JustLink」(リコー)が相次いで発表されたのだ。この2つはバッファアンダーランを感知すると書き込みを一時停止して、データがバッファにたまったところでまた書き込みを再開する技術だ。「一筆書き」は中断するが、その途切れを極限まで狭くすることで読み取りエラーを回避している。

 この、書き込みの失敗を回避する画期的な技術を採用して、多くの会社がCD-Rドライブ市場に参入した。当然、PC雑誌ではCD-Rドライブを横並びで比較する特集記事が組まれるようになった。

 僕が仕事をもらっていた雑誌でも大々的な特集があり、その製品撮影が始まった。実のところ、5インチベイドライブの撮影は楽しいものではない。奥行きが少し長いか短いかだけの差で、CD-Rドライブはどれも見た目は同じようなものなのである。

 書き込みデータの正確さに定評のある、他社より少し値が張るプレクスターのドライブ(当時撮影した中で、確かこれだけ背面に冷却ファンが付いていた)はそれなりに高級感があったが、ほかのドライブは見分けるのも苦労するほどだったのだ。

 ところが、僕は1つのドライブに心を奪われた。見た目は同じだが、重量が異常に重いドライブがある。ほかのドライブに比べると、持った感覚で1.5倍以上重い。この理由を特集を担当するS氏に尋ねると、「開発担当者がいうには『重くすることで回転の安定性を向上させている』とのことでした」という答えだった。

 そのドライブの名は、TEAC(ティアック)の「CD-W512EB」。TEACは日本のオーディオメーカーである。僕はすべてを理解した。かつて高級オーディオと呼ばれる機器の中で回転するもの(レコードのターンテーブルやCDプレーヤー)はとんでもない重量を誇っていた。それを振動を吸収するインシュレーターという足で支え、確かな音を再現していたのである。

 CD-W512EBは、もちろん三洋電機の「BURN-Proof」を採用している。しかしTEACはそれだけでよしとするのではなく、自分たちが築きあげてきた技術をちゃんとCD-Rドライブにも反映させているのだ。僕はそこに日本人の職人的な技術者魂を見た。

 TEACのドライブが本当に回転が安定しているのか、それによって書き込みの確度が上がっているのか、もうそんなことを検証する必要などなかった。僕はこのドライブの重さによってTEACという会社を「信頼」したのだ。その後すぐ、僕は手持ちの4倍速書き込みドライブをTEACの12倍速書き込みドライブに買い換えた。

tm_1112_teac_01.jpg

そして、信頼は永遠に

 写真の製品はロジテックの「LDR-PME8U2LRD」というUSB接続の外付けDVDスーパーマルチドライブだ。僕が最近買った光学ドライブだが、これも内蔵ドライブがTEACの「DV-W28S-V」であることを事前に確認して購入している。

 最初のCD-Rドライブを手に入れてから、TEACの光学ドライブを指名買いするのはもう4台目になる。書き込みのミスも少なく、何より本体のビビリ音がなくて静かなのがよい。軽さが求められる薄型ドライブには、かつての「重さによる安定」という技術は盛り込まれてはいないと思うのだが、きっとTEACなら細かい部分に何らかの工夫を入れているだろう、と思わせてくれる。

 僕は、世に出た工業製品を使うということは、それを開発した技術者との対話だと思っている。どんなところでもいいから、何か独自の技術を盛り込んでくるメーカーとの対話は特に楽しいし、満足度も高い。そういうメーカーとは、僕はいつまでもこだわって付き合っていきたいのである。

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