2011年、アップルは見かけを変えずに、すべてを変えた林信行のアップルまとめ(2/3 ページ)

» 2011年12月22日 12時30分 公開
[林信行,ITmedia]

1億2000万ユーザーのiPhoneも新たなステージへ

腕時計としても使えるiPod nano

 iPodで一番変わったのはiPod nanoだろう。最近、筆者の回りのnanoユーザーは、みんなnanoを腕時計代わりにして使っている。実際、iPod nanoは、秋のソフトウェアアップデートで時計機能がかなり充実した。ミッキーマウスなどキャラクター系のフェースプレートも用意されている。それでいて、音楽やラジオもたっぷり聞かせてくれて、歩数計にもなってくれるのだから、なんとも頼もしい。

 そして、何といっても目を引くのはiOS機器の躍進だ。2011年はiPhone単体のユーザーだけでも、すでに春ごろにはその利用者数が1億2000万人を超えた(日本の人口に匹敵する数だ)。これにiPod touchやiPadを加えた数は2億を超える。アップルがこうしたiOS機器全体の相互連携を強め、さらに積極的に「iOS」というブランドを押し出したのが2011年だった。iOS搭載製品すべてを見ていくと長くなってしまうので、ここでは簡潔にiPhone 4Sについてだけ触れたい。

iPhone 4S

 iPhone 4Sは、見た目こそ同じだが、2種類の3Gネットワークに同時に対応し、そして何よりも革新的なSiriの機能を搭載した。iOS 5には、新たにリマインダーと呼ばれる機能があり、「1時間後に○○のテレビ番組をみる」と知らせてくれたり、「今、いる場所を離れたら、○○へ電話をする」ことを思い出させてくれたりする。これは確かに便利なのだが、このリマインダを手動で設定しようとすると結構大変だ。しかし、そここでSiriを呼び出して「Remind me to watch TV in one hour.」「Remind me to call ○○ when I leave here」とiPhoneに言えば、これでリマインダの設定が完了する。

 夜遅く家に帰ってきて、iPhoneよりも前に自分がバッテリー切れ、明日の早起きの目覚ましを設定する元気がない、という時も、Siriを呼び出して「Wake me up at five」(5時に起こして)、あるいは「Wake me up in three hours」(3時間後に起こして)といえば、アラームセットが完了。そのまま寝落ちできる。実際、筆者のiPhoneは、後者の方法で指定した「5:43am」や「6:14am」といった1分の単位まで細かく指定されたアラームが大量に用意されている。

音声でさまざまなタスクをこなしてくれるSiri

 Siriは本当に革命的な機能だ。これまでがんばってiPhoneのマルチタッチ操作を真似してきたそのほかすべてのスマートフォンをあざ笑うかのように、Siriはそのはるか先へ、タッチ操作すら不要の「未来」へとiPhoneを進化させた。

 残念ながら、今は「英語」と「ドイツ語」、「フランス語」しか対応していないが、2012年には日本語にも対応予定だ。ちなみに英語は話せるものの、いまひとつ認識率が低くて困っている人は、Siriの設定で「イギリス英語」や「オーストラリア英語」など、ほかの英語も選んでみるといい。1音節1音節を比較的ハッキリ目に話す人は、イギリス英語のほうが認識されやすいかもしれない。

iCloudは“不可逆な未来”

WWDC 2011でiCloudを披露するスティーブ・ジョブズ氏

 このSiriも未来なら、iCloudも未来だ。先日、iPadである原稿を書いていた。その原稿の中にiPadの写真を挿入したくなった。そこでどうしたかといえば、iPhone 4SでiPadの写真を撮った。続いてiPadで「写真挿入」画面を選ぶと、さっき撮ったばかりの写真がiCloudを経由してすでにiPadに転送されているので、それを選択する。たったこれだけ。「ケーブル接続」や「送信ボタンのタップ」なんていうものは一切不要だ。あまりに簡単過ぎて、クラウドなどというものを使っていることも、その便利さへの感謝の気持ちすら麻痺してしまうが、これぞアップル流のパーソナルクラウド、iCloudの真骨頂だ。

 ふと、これこそが未来だと思わずにいられなくなる。もし我々が2010年にタイムスリップしてiPadとiPhone 4で同じ作業をしようとしたら、なんだか、まどろっこしくて憤慨してしまうかもしれない。これこそが、テクノロジーがよい方向、正しい方向へと進化していることを実感できる何よりの証拠だ。

 繰り返しになるが、2011年に登場したアップル製品のラインアップは、2010年と見た目はほとんど変わらない。彼らが「最高傑作」と思う工業デザインを命がけで行っているのだから、むやみやたらにデザインを変えることのほうが嘘になる。成熟したデザインを変えずに守っていけば、その周囲に巨大なアクセサリビジネスも生まれる。

 世代が変わっても、必要以上にデザインを変えないiPhoneとiPodには、ほかのスマートフォンとは比較にならないほど巨大なアクセサリ市場が出来上がっている。装飾用のアクセサリが大半だが、中にはiPhoneを、会計用の端末や車載情報システムといったまったく新しい形で活用することを提案する画期的なアクセサリもある。こうした新しい可能性が出てくるのも、アップルがむやみやたらに製品の形を変えないからだ。

 形は変わらなくても、世の流れに乗じて、そのものが目指す方向性には軌道修正をかけていく。これがこれからのモノ作りに求められるものだ。今やエレクトロニクス製品のイノベーションの主成分は、ハードウェアではなく、ソフトウェアになってきている。ジョブズ氏も2007年の講演で、アップルは(実はハードで儲けてはいても)本質的にはソフトウェアの会社であり、iPodもきれいな皮を被せたソフトウェアであることを公言している。

 アップルは、そのはるか前からCPUの変更やOSの変更をしても、外観は一切変えないという、「内側から革命」を何度も成功させてきた実績がある。2011年のアップルも、PowerPCや、インテル、Mac OS Xのような表立つ新世代製品こそないものの、こうした時流を変える、大きな方向転換が行われた年であり、アップルにとって大きな節目の年だったことは間違いない。

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