Keplerアーキテクチャが省電力性能を高められた理由は、CUDAコアの集積度を上げただけではない。NVIDIAでGeForceビジネスを統括するドリュー・ヘンリー氏は、「命令の依存関係を判断したり、スレッドのスケジューリングや管理を行なうコントロール回路を大幅に簡素化したことで、より多くのCUDAコアを搭載できるようにするとともに、省電力化を実現した」と説明する。また、Keplerアーキテクチャでは、これまでCUDAコアをほかの回路の倍速で動作させていた“プロセッサクロック”をなくし、GPU全体を単一の動作クロックにするとともに、動作クロックそのものを低く抑えることで、さらなる省電力化を実現している。
なお、SMXを構成するCUDAコアや複雑な演算を処理するスペシャルファンクションユニットは、「GeForce GTX 580などのFermiアーキテクチャ世代と同じ」と、NVIDIAでGPUアーキテクチャの開発などを統括するヨナ・アルベン上級副社長は語っている。「Keplerアーキテクチャでは、シングルクロック化によって従来製品に比べて周辺回路の動作クロックが上がっている上に、2次キャッシュメモリやテクスチャキャッシュメモリなどとのインタフェース帯域も倍になっているため、高負荷時もパフォーマンスが低下しにくい」とアルベン氏が述べているように、アーキテクチャの最適化によって、トランジスタ数を大幅に増やした大きなGPUチップを作らなくても、最上位モデルのGPUにふさわしいパフォーマンスを実現している。
GeForce GTX 680は、GPUの性能をフルに引き出すための機能をもう1つ追加している。NVIDIAが「GPU Boost」と呼ぶその機能は、インテルのTurbo Boost Technologyと同様に、GPUの消費電力が低いときは、その余力をオーバークロック動作に振り分けることで、さらなるパフォーマンスを引き出そうとする。この機能は、GPU内部とグラフィックスカード上の各種ハードウェアモニタの数値を取得し、ターゲット電力(GeForce GTX 680においてデフォルトでは170ワット)まで余裕がある場合は、GPUやグラフィックスメモリの駆動電圧と動作クロックを動的に制御して、パフォーマンスを最大限に引き出す。このため、NVIDIAはGeForce GTX 680において、通常の動作クロックにあたるベースクロックの1006MHzに加えて、GPU boost有効時にオーバークロック動作を確実に保証できる値として“Boost Clock”の1058MHzをスペックに併記している。さらに、WebブラウザやOfficeアプリなど、GPUへの負荷が低いアプリケーションでは、ベースクロックよりも低い動作クロックで動作する。
なお、このターゲット電力や、GPU Boost有効時のターゲット動作クロックなどは、グラフィックスカードベンダーが用意するパフォーマンスツールなどで調整できるが、GPU Boost機能そのものは、NVIDIAコントロールパネルを使っても、ユーザーは無効にできない。ただ、GPU Boost機能とパフォーマンスチューニングツールを利用して、1.2GHz以上のオーバークロック動作を実現することも可能だという
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