もっとも、事前のテストとして「ThinkPad X220 Tablet」にWindows 8 Consumer Previewをインストールし、タッチパネル、ペン+デジタイザ、キーボード+ポインタと、3種類のユーザーインタフェースを併用してきた中で、デスクトップとMetroが1つになった“2 in 1”構成となっている点については、使うほどに違和感がなくなった。
確かにポインタで操作する場合、Metroはスマートなユーザーインタフェースとは言い難い。ポインタの移動距離が長く、ジェスチャーで操作しなければ表示されない情報がたくさんあるからだ。しかしそのぶん、キーボード操作による軽快性は上がっている。
デスクトップとMetroの画面切り替えも、最大限に配慮して設計を行っているのか、Windowsキーを押せば素早くMetroのランチャー画面に切り替わる。スタートメニューの役割をMetroのランチャーが代替する。キーボード操作中心にPCを使っている人ならば、すぐに新しい作法にも慣れるだろう。マウス操作中心ならば、ポインタの移動距離の長さに今のところは辟易(へきえき)するかもしれない。
とはいえ、キー入力を用いた検索性の高さに慣れてしまうと、あまり文句を言えない気もしてくる。少なくともスタートメニューのプログラムサブメニューで表示される、プログラムグループの羅列よりはずっとマシだ。加えて、アイコンをグループ化したり、グループに名前を付けたり、あるいは全体を縮小させて目的のアイコンを探しやすくするなど、それなりに使いやすくなるよう工夫もされている。
2つの画面が切り替わることさえ許容するなら、許せないほど困るわけではない。が、もちろん、それで納得したわけではない。しかし、シノフスキー氏に「デスクトップアプリケーションはレガシーとなり、これからのアプリケーションはMetroを前提にユーザーインタフェースや機能を設計するようになる」と言われてしまえば、2つの画面を切り替えて使う……という、過渡期にありがちな混在に対して疑義を呈しても意味はない。目標は、すべてがMetroアプリケーションになることだからだ。
さて、ここでもう1つの疑問が出てくる。「Metroアプリケーションで、クリエイティビティを発揮するようなジャンルもカバーできるのか?」という話だ。Windows Developer Daysの基調講演でも、ビジネスデータが“分析された後”に視点を切り替えながら検討するアプリケーションは示されていたが、“多様な視点で分析して切り口を見つける”方法は示されていなかった。
何もデータ分析や文書作成だけでなく、さまざまなクリエイティブな作業は、自由にツールを使いこなすことで生まれるのではないか。利用シナリオ優先で、結果に向かうプログラムされた道程を、ちょっとしたタッチ操作で調整していく。そんな機能からは意外性は生まれない。
しかし、シノフスキー氏は「どんな可能性がつぶれるというのでしょう? 全画面ユーザーインタフェースのMetroは、タッチだけでなくキーボード、マウスなどあらゆる操作に対応しています。確かにデスクトップはありません。しかし、デスクトップはなくとも、クリエイティビティを損ねることはありません。今のアプリケーションが、そのままMetro化できるとは思いません。しかし、ユーザーインタフェースは変化しました。マイクロソフトがタッチユーザーインタフェースをPCに加えることで、Metroを生み出したように、新たな操作環境を前提にアプリケーション自身が機能セットやユーザーとのインタラクティビティを見直せば、新しいコンピューティングの可能性が生まれます」と反論した。
この話がインタビュー中にある「CUI(コマンドコンソール)からGUI(デスクトップ)への変化でもみられたように、産みの苦しみや操作体系の変化に対する抵抗感は、イノベーションの時期にはありがちだ」とする談話へとつながっていく。
また、シノフスキー氏は「アプリケーションをウィンドウシステムで切り替えながらでなくとも、道具を使い分けつつ作業を行う上での支障はない」と話した。Windows 8では代表的なデータオブジェクトに対して、標準アプリケーションが割り当てられており、オンラインストレージのSkyDriveを通じてデータオブジェクトが受け渡されて連動する。SkyDriveはローカルストレージへのキャッシュを含め、システムと統合されているため、むしろアプリケーションの連動性は高まる。
「ファイルシステムとデスクトップを用いて、ファイル操作中心の作業を行うよりも、シンプルに作業が行えるように設計することが可能だ。アプリケーションごとの機能実装は、前提となる条件を変えて設計し直せば、むしろ前進できる」(シノフスキー氏)
もっとも、タッチユーザーインタフェースだけでも、クリエイティブな作業を含め、パーソナルコンピューティングの大半をカバーできると主張しているのはシノフスキー氏だけではない。アップルもまた、「iPadはコンテンツプレーヤーとしての役割以外にも、機能の実装次第でできることは多い」と主張している。iPhotoやGarageBandのiPad版は、そうした主張を示すデモプログラムのようなものだ。
この件、実はかなり時間をかけたのだが、「本当にユーザーの創造性を阻害するか?」と問われると、「阻害する」と言い切る自信がシノフスキー氏と話している間になくなってくる。「これからは、あらゆるアプリケーションが変わる」と言われれば、何年かをかけて変化する可能性はあるとも感じるからだ。
ましてやiPadではなくWindows 8である。Windows 8は、タブレットというフォームファクタだけでなく、用途に応じてさまざまなコンピュータのOSとして機能する。タブレット型のユーザーインタフェースだけに縛られるわけではない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.