―― 初期のモックアップとのことですが、この時点でかなり製品に近いデザインになっていますね。
小中氏 そこが今回の面白いところです。今までいろいろなPCの取材でモックアップをご覧になったと思いますが、モックアップとホンモノがちょっと違ったことはよくありませんか?
―― そうですね。初期のモックアップのまま、実際の製品になっていたら、ヒットしていただろうに……、と思うモノも確かにあります。コンセプトを具現化したモックアップと、量産して販売する製品のズレは、ある程度仕方がないと思いますが。
小中氏 ですよね(笑)。今回はそこがまさに一番大事なところでして、このモックアップこそが最終的な製品の形、つまり「デザインのマスターである」という考えで開発を進めていきました。「この目標をクリアできなければ、作っても勝ち残れないだろう。だったら、このモックアップ通りに作る以外に道はなく、その上で妥協せずに、我々が想定しているユーザーの方々に満足して使っていただける機能を詰め込んでいこう」という決意をモックアップの段階で固めたわけです。
―― 限界に近い目標を形にしたモックアップとのことですが、厚さは15.8ミリです。実際の製品は厚さが15.6ミリと、そこからさらに薄くできたのは驚きです。
小中氏 確かに最初は限界としての15.8ミリでした。しかし、開発が進むうちに途中で欲が出てきて、各部で物理的に超えられない限界値を少しずつ突き詰めていき、その積み重ねで何とか0.2ミリを削ることができました。
―― 薄さ以外に重視した仕様はありますか?
小中氏 薄さの次で言えば、画面サイズです。Ultrabookとして考えた場合、持ち運ぶのはもちろんですが、家や職場など屋内で使うシチュエーションも多いはずです。
となると、画面が小さすぎては使いづらいと思うので、13型や14型が候補となります。ここで、すでにFMVのラインアップには「FMV LIFEBOOK SH」シリーズという13.3型ワイド液晶搭載のモバイルノートPCがありましたので、今回は14型に決めました。14型はワールドワイドでもボリュームが取れる画面サイズです。
ただ、14型ワイド液晶はモバイルを考えると、大きく重くなりがちで不利になります。そこで考えたのは、狭額縁とともに、奥行きを削ることでした。
例えば、ノートPCを仕事用のカバンに入れて持ち運ぶ場合、横幅はカバンのマージンがあって入りやすかったりしますが、奥行きまで長いとうまく入らず、かなり邪魔になります。奥行きのサイズについては、14型ワイド液晶の縦の寸法がそれほど長いわけではないので、13.3型ワイド液晶搭載のFMV LIFEBOOK SHシリーズと同じ長さにできないか、と考えました。
13型クラスはモバイルノートで人気が高い大きさなので、それと同じ奥行きで一回り大きな画面を提供しようというのが、縦横の寸法におけるこだわりです。社内で議論する際にも、「自社で頑張って小型化してきた13.3型のノートPCと同じ奥行きで14型のUltrabookを実現する」と語ることで、説得力を持って聞いてもらえました。
―― Ultrabookでは厚さとともに重さも重要だと思いますが、重量はどれくらいの優先度でしょうか?
小中氏 今回の最優先事項はHDDの搭載であり、大きなデータを安心して扱えるUltrabookを作ることだったので、SSDオンリーの機種に対して重量で不利なことは確かです。HDDも大きめの液晶も載せて、さらに軽さも欲張りたいという気持ちはありましたが、重量の優先順位は3番手くらいです。それでも、HDDを搭載した14型ノートが約1.44キロの重さというのは、かなり頑張りました。
―― ボディデザインに話を戻します。見どころは多いですが、全体のデザインコンセプトから教えてください。
岡本氏 「今後の富士通製品として、薄型のノートPCはどうあるべきか?」というテーマのもと、さまざまな案が出ましたが、富士通初のUltrabookなので、インパクトの強い、それでいてしっかり考えられたデザインにしたいという思いがありました。そこで、方向性を2つに絞りました。
1つは強いインパクトとともに市場に投入する意味で「スタイルコンシャス」なデザイン、もう1つは富士通が思い描く安心、安全、親切といった使い勝手から訴求する「プラクティカルユーセージ」のデザインです。この2つのコンセプトに対して、具体的なデザインを2つずつ考えて、候補を4つ作りました。
スタイルコンシャスなデザインの1つめは、質実剛健が具現化されているイメージで、折り紙に着想を得ています。紙1枚だと非常に薄く、それを折ることで構造物として自立し、強さも増してくる、そういった一目で誰にでも分かりやすく想像できる形が重要だと考えました。2つめは、実物以上に軽い印象を与えつつ、感性にも響くようなイメージで、液晶ディスプレイを開けたときに画面がまるで宙に浮いたように見えるデザインを提案しました。
プラクティカルユーセージのほうは逆に、モノ単体だけではなく、それをどう使ったら便利になるか、充実したライフスタイルが提供できるか、ということを考えています。1つめは拡張バッテリーや独自オプションまで統一感を持たせたデザイン、もう1つはスレート、薄型ノート、デスクトップと、周辺的なプロダクトを統合し、利用シーンに応じて最適なスタイルを選べるという先端的なデザインを考えました。
そして、実際にUltrabookとしての開発がスタートした段階で、どの考えを形にするかで悩んだのですが、やはり今回は見栄えのするスタイルコンシャスを重視して作ることに決めました。初期コンセプトと完全に同じではありませんが、折り曲げる意匠とともに堅牢性を高めたり、実物以上に薄く見えたり、といった要素は実際のデザインに反映しています。
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