前編 妥協なきデザインのUltrabookから富士通を変えていく「FMV LIFEBOOK UH75/H」完全分解&開発者インタビュー(3/5 ページ)

» 2012年09月07日 16時00分 公開
[前橋豪,ITmedia]

強いプロダクトを生み出す幅2ミリのサイドビュー

―― そこから具体的な形になって、厚さ15.8ミリのモックアップが生まれてくるわけですね。

岡本氏 はい。このように私が提示したコンセプトのたくさんの要素を手嶋が1つにまとめ上げて、大きなコアのデザインを起こしました。

 本来モックアップは、最終製品とほぼ同じクオリティの見え方になるように作るものですが、今回は皆さんに何が一番大事で、何を達成すれば成功するのかを簡単に分かりやすく伝えるため、あえて細部のデザインは詰めませんでした。板1枚を折り曲げて、くさび形に手前に向かって薄く、繊細にとがらせるような造形言語をキープしなければいけない、というのを見せるのが大きな目的でした。

手嶋氏 富士通として第1期のUltrabookということもあって、非常にプリミティブでシンプルな造形言語が一番分かりやすいはずです。そもそもノートPCと言われるものが持っている造形言語は「本」だと思います。折り紙のコンセプトを根底に意識しながら、その本の形を実直に作っていくのが、正しい回答ではないかと考えました。

 そこで、皆さんがぱっと思い浮かぶ本のアウトラインをノートPCに合わせて作っていきます。ノートPCを閉じて持つときに、自然に持ちやすい形だったり、無駄なことを考えさせない造形を狙いました。今回の造形で大きくこだわったのは、やはり天面と底面をつなぐ折り曲げる部分です。その印象を深く鮮明に伝えるため、サイドビュー、つまり側面に2ミリ幅の線が均一に回っている印象を持たせることを実現しないと、強いプロダクトにならないと思いました。

 仮に本体を刀か何かで切断したとしても、内部まで架空の2ミリのサイドビューのラインが走っているように見せるデザインを目指しています。その2ミリのラインを素直に切れないように見せようと思うと、端子などのデバイスを避けて走らせないといけない。しかし、それでは厚みが出てしまいます。このUltrabookとしての薄さを見せることと、デザインコンシャスに見せることは、相反する部分があるのですが、そこをいいとこ取りするデザインを突き詰めました。

側面に2ミリ幅のラインを設け、それが背面で自然におり曲がっているようなモックアップのデザイン(写真=左)と、それを可能な限り忠実に再現したといえる実際の製品(写真=右)

2ミリ幅のラインと、天面と底面が自然につながって折り曲がったようなデザインが、シンプルながら力強いデザインを演出している

―― 折り紙のコンセプトを具現化したデザインと、サイドビューのおかげか、薄いだけではなく、確かに力強さも感じます。

手嶋氏 薄くて、軽くて、丈夫という折り紙のコンセプトは細部まで突き詰めました。ノートPCのデザインでは、少しでも薄く見せるため、ボディの端や天面の端を曲面形状に丸めて仕上げることが多いのですが、今回は薄い板を曲げただけという直線的な印象を強くしたかったので、天面をフラットにして、アンテナカバーの継ぎ目も消し、稜線(りょうせん)がピシッと出るように、角のアールをタイトに小さく取るような細かい工夫を重ねています。

「360度デザイン」をとことん追求

―― 紙を折り曲げたようなサイドビューは印象的ですが、底面に余計なノイズがないデザインもいいですね。FMVでは珍しいことだと思います。

手嶋氏 特にUltrabookでは、各社が「360度どこから見ても美しいデザイン」を目指しています。当然、富士通としても、ここまで薄くなったら、持ち運びの機会が増えますし、手に持ったときに底面にもきちんと意識を向けたいのは確かです。

「底面も顔」という思想のもと、美しく仕上がったボトムカバー

 そこで「ノーアンダーサイド」と銘打ったのですが、液晶を閉じたときの顔、開いたときの顔はもちろん、普段の生活の中で持ち運ぶときに見える面(底面)も顔ですよ、見えない面などありませんよ、という考え方を最後まで根気強く訴え続けて、機構設計でもそれをキープしてもらいました。実際にできあがってみると、ここまで底面をしっかりトップカバーと同じような塗装に仕上げているノートPCはなかなかないと思います。

 底面であることを主張してしまうゴム足だったり、メモリカバーの取り外しだったり、バッテリーのつなぎ目だったり、通常のノートPCに見られるデザインのノイズになる要素はたくさんありますが、それらを極力隠すようにしています。今回は底面のネジもバランスよく周辺に配置して、さらにゴムキャップで隠して目立たなくしました。拡張性は犠牲になりますが、Ultrabookとしての強いデザインを追求した結果です。

 また、底面にはCPUクーラーの吸気口やステレオスピーカーの開口部もありますが、それらにも強い印象を与える構造体のようなデザインを採り入れました。吸気口は建築物の梁(はり)のように見せつつ、ファンの回転方向に合わせて網の目をそろえるとか、単なる穴1つを取っても、何回も検討を重ねて決めています。

 最後に駄目押しですが、Windowsシール以外に必要な情報も底面にレーザー刻印することで、外観の美しさを損ねないよう配慮しました。

ファンの吸気口や排気口にも意味のあるデザインを施している(写真=左)。Windowsシール以外で製品に必要なロゴや情報は、レーザー刻印でボディに自然になじむようにした(写真=右)

―― 細部のデザインでは、キーボード上部の幾何学グラフィックパターンが特徴的ですが、これは何を意味しているのでしょうか?

岡本氏 PCのデザインにグラフィックを入れていくのは冒険で、無駄に入れると単なるノイズになってしまいます。しかし、まったく入れなくて素材そのままの状態だと、シンプルなデザインでは意外とチープに見えてしまうこともあり、トータルバランスを求めた結果、これを入れることにしました。

 製品自体が緻密にできた精密機器であるという印象を造形だけでなく、このグラフィックだけで訴えたいという思いを込めています。

 キーボード上部のパネルはユーザーの目によく触れるところで、そこが製品の顔になるという意識もありました。例えば、ここに波模様を入れたりすると、訴えたいメッセージとまったく違う顔になってしまいます。富士通のUltrabookは、薄くてカッコよく、しかも強そうという印象を一目で持っていただけるよう、このような幾何学的なパターンを入れました。

キーボード上部のパネルは、ヘアライン加工を施したうえで、幾何学グラフィックパターンを彫り込んだ凝ったデザインだ(写真=左)。パームレストにグラフィックパターンはなく、ヘアライン加工のみとなっている(写真=右)

【468*60】LIFEBOOK UH

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