急成長の3Dプリンタ市場だが、技術革新のスピードも速い。現在の製品は5年前に発表され、初めて混合素材での造形を可能にしたConnex 500という製品と比べて4分の1ほどのプリンタヘッドではるかに精密なモデルを作れるようになったとライス氏。3Dプリンタの世界にも、PCの世界でいうムーアの法則のようなものがあり、今後、3Dプリンティングの技術はより速く、より精密に、そしてよりリアルになっていくはずだと語る。
そんな中で、これまでに13の技術賞を受賞しているObjetは、より高速に、より安価に、そしてより多くの素材の混合を可能にすると同時に、より質の高い素材を使えるように努力をしていくとアピールする。また、大は小を兼ねる、ということで、今回のEuromoldでは、同社製品の基本機能を継承したまま、これまでの製品と比べて10倍近い容量、最大1000(幅)×800(奥行き)×500(高さ)ミリのモデルを実現する最新製品「Objet 1000」を発表した(当然、従来のように小さなモデルも製作できる)。
さて、ここまではObjetのCEO、デビッド・ライス氏の講演をベースにしたのでObjetの動向が中心となっているが、最後に3Dプリンタの3強(Stratasys、Objet、3DSystems)の他2社の近況についても触れておこう。
Objetが高品質を維持しつつ、さらに実用的な大型のプリンタを出す一方で、同社と合併予定で現在、シェアナンバー1のStratasysは特に新製品やプレス向けの発表会は用意せず、同社のプリンタがこれまでどれほど幅広い用途に使われてきたかの事例を紹介することに重点を置いていた。冒頭で紹介した梱包材への応用のほか、飛行機の外装と一体化して断線しにくい配線など、最新技術の開発など幅広い分野で活躍している。
一方、これと対照的でこれまでの3Dプリンタ業界になかった方向性を追求しているのがライバルの3DSystemsだ。同社としては、これまでで最大容量の製品(ProJet 3500 HD MAX)で大型モデル作成のニーズに応える一方で、同製品をiPhone、iPadなどのタブレットやスマートフォンから遠隔地でも機器の利用状態(現在、どんなモデルを印刷予定かなど)を確認したり、簡単に操作ができるようにするなど、新しい方向性の模索に意欲的だ。
今回のEuromoldでは、STLと呼ばれる形式の3Dデータを送信すると、それを3Dプリンタにかけて出力しできあがったサンプルを郵送してくれるサービスビュロー型のサービスが多数デビューしていたが、大手3Dプリンタメーカーの3DSystems自身も、米国に次いでヨーロッパ市場でQuickPartsと呼ばれる3Dプリンタの出力サービスを開始した。
ObjetがまもなくStratasysと合併し、幅広い3Dプリンタソリューションを手にする一方で、3DSystemsは3Dデータの取り込みから出力まで幅広いニーズに応えるべく企業買収を行っている。
Euromoldの開催直前、急きょ3DSystemsによる買収が決まったのがRapidFormだ。同社は既製品や彫刻などを元に、3Dプリンタで出力しやすいデータに加工するソフト(リバースエンジニアリング用ソフトと呼ばれる)の開発で有名な会社だ。既製品をCTスキャンや3Dスキャナなどを使ってPCに取り込んだ後、どの面を底面にして印刷するのが効率よく、安定したモデルが作れるかといったことを解析したり、PC上の操作でモデルの加工もできてしまう。
3DSystemsが、もう1つ力を入れていたのが、個人用プリンタ「Cube」の展示だ。Cubeは10万円台で購入できる個人用の3Dプリンタだが、Euromoldホール11の入り口には、このCubeプリンタを使って造形した商品を販売する3DSystemsと、Fiberfishによる共同ブースが設けられており、そこには3Dプリンタで印刷されたiPhoneケースや靴、ネックレス、指輪、フィギュアなど多彩なアイテムが販売されていた。
Objetと3DSystemsの対照的な動きが象徴しているように、今日の3Dプリンタ業界は、より本格的な応用を広げる高性能化と、より多くの人が幅広い用途に活用できる低価格化というどちらの方向に対しても勢いよく動き始めている。
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