「Xperia Tablet Z」開発者インタビュー(後編)――超薄型と高画質を両立できた謎に迫る液晶ディスプレイ、カメラ、総括編(2/3 ページ)

» 2013年04月05日 10時30分 公開
[鈴木雅暢(撮影:矢野渉),ITmedia]

液晶ディスプレイはXperia Tablet Z専用に新規開発

―― そこまで高画質にこだわるとなると、既成の液晶パネルでは選定が難しいと思います。Xperia Tablet Zでは、専用に液晶ディスプレイを新規開発したのでしょうか?

中川氏 その通りです。ノートPCやタブレットの液晶ディスプレイは、ディスプレイメーカーが先に大きさや解像度などの仕様を決めて、先にラインアップとして用意してあるのが一般的です。我々セットメーカーは少しだけチューニングできる場合もありますが、大抵の製品はそうした汎用(はんよう)品のラインアップから適したものを選択する、という作り方をしています。

 しかし、今回のXperia Tablet Zでは我々が求める画質が先にあり、汎用品にはそれを満たすものが存在しなかったため、ゼロからフルスクラッチでディスプレイメーカーと共同開発することになりました。

 最終的な画質の作り込みにおいては、「モバイルブラビアエンジン2」というソフトウェアで調整を行っていますが、ハードウェアの段階でも赤が色域のどの辺りにあるのか、緑がどのくらい鮮やかな緑なのか、色度の指定やガンマ特性なども仕様として要求しています。今回は画質だけでなく、薄さや強度なども含めて特注しました。

「モバイルブラビアエンジン2」は、いわゆる「記憶色」の再現を目指し、映像の明るさの分布をリアルタイムで解析しつつ、人肌はよりナチュラルに、風景などは鮮やかにくっきり、というように最適にカラーマネジメントやコントラストの調整を行なう。また、ノイズリダクションとシャープネスの処理も適用する。モバイルブラビアエンジン2のデモツールを使用した例(画像=左)。画面右半分がモバイルブラビアエンジン2適用後の映像だが、彩度やシャープネスの向上がはっきり分かる。モバイルブラビアエンジン2は、設定メニューからオン/オフを切り替えられる(画像=右)

―― そのほか、開発に苦労した点はありますか?

中川氏 開発時に特に苦労し、こだわった点は、画面を消したときに画面の黒と額縁の黒を漆黒にそろえてディスプレイを消し込むことでした。特にディスプレイエンジニアとしてデザイン面でこだわった部分ですが、Direct Touchのためにガラス面に作り込んだタッチセンサーが邪魔になるなどして、真っ黒にすることが難しかったのです。ひたすら地道な作業なのですが、オプティコントラストパネルに関わる全材料の膜厚、光学特性をすべてチューニングして合わせていきました。目指したのは、「消しているときすら美しいディスプレイ」です。

専用カメラモジュールを設計して写真画質にも注力

―― 今回はカメラにも力を入れているそうですが、この薄さではハイスペックにまとまっているように思えます。

内蔵カメラとカメラアプリを担当した天野氏

天野氏 Xperia Tablet Zの10.1型ワイド液晶ディスプレイは1920×1200ドットの高精細表示が可能です。本体内蔵のカメラで撮影した写真や動画をこの画面で見て、きれいに思える美しさを目指しました。

 インカメラは約220万画素、アウトカメラは約810万画素ですが、いずれもソニー製の裏面照射型CMOSセンサーである「Exmor R for mobile」を使っています。薄型ボディに高感度、低ノイズのカメラを収めているのがポイントです。今回、Xperia Tablet Zに内蔵するにあたっては、約810万画素のカメラモジュールを専用に作りました。

―― それは最薄部6.9ミリのボディに収めるためでしょうか?

天野氏 そうです。従来の800万画素クラスのカメラモジュールはもっと厚みがあり、カメラの部分だけ張り出すようなデザインにするか、低画素のセンサーモジュールを搭載するかしかなかったのですが、今回は画質、薄さ、どちらも妥協できない要素だったため、新たに薄型のカメラモジュールを起こしています。

約810万画素のアウトカメラには、ステンレスのリングがはめ込まれており、シンプルな背面で目を引くデザインになっている(写真=左)。高画素のアウトカメラを約6.9〜7.2ミリ厚の極薄ボディに内蔵するため、レンズの設計をはじめ、カメラモジュールを新たに開発することで、画質を保ちつつ、薄型化に努めた。

―― カメラのアプリも大きく変わっていますね。

天野氏 はい。カメラのハードウェアだけでなく、カメラアプリのユーザーインタフェースも使いやすいよう力を入れて作り込みました。画面上に余計なボタンなどを置かず、タブレットの大画面で見たまま、空間をそのまま切り取るようなイメージで使っていただきたい、という意図が反映されています。

 また、写真撮影と動画撮影のシャッターボタンをすぐ近くに並べて置くことで、写真撮影中に動画を撮り始めたり、動画撮影中に写真を撮ったりと、モードの切り替えなしに写真と動画をどちらも自由に撮影できるよう工夫しています。

―― リアルタイムに9分割表示できるエフェクトもユニークです。

天野氏 撮影前に複数のエフェクトがかかった状態をプレビューしながら効果を選び、簡単に指で画面をなぞることで効果を替えたり、強度を調整したりできるので、楽しく便利に使っていただけると思います。

 スマートフォンでは以前から入っている機能ですが、これだけの大きな画面でスムーズに動かすにはパフォーマンスの最適化が必要なので、タブレット向けに新規に画像処理エンジンのチューニングを行いました。

―― 画像処理エンジンはソフトウェアで処理しているのでしょうか?

天野氏 デジタルカメラの「サイバーショット」シリーズなどでは画像処理チップを搭載してハードウェア処理を行っているものを、スマートフォン/タブレットではソフトウェア処理で対応しています。つまり、サイバーショットと同じ画作りの技術を導入し最適化して、高画質を実現しているのです。ソフトウェアでの画像処理には、GPGPUを活用しています。

カメラアプリは画面いっぱいにプレビューが表示され、ボタン類は最小限ながら、写真と動画を同時に撮影できるようシャッターボタンを2つ並べている(写真=左)。撮影時には、12種類のシーン認識に加えて、被写体や撮影者の状況(カメラ固定や移動)も感知し、合計36パターンの組み合わせからカメラが最適な設定を自動で行うことで、シーンを問わずオートで美しい写真が撮れるよう配慮した。暗所撮影でのノイズリダクションなど、画像処理は「サイバーショット」の技術を流用し、画質の向上を図っている。9種類のエフェクトの実際の効果を1画面で一覧しながら選択し、撮影イメージをリアルタイムでプレビューしながら撮影できる「ピクチャーエフェクト」機能も持つ(写真=右)

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