「dynabook KIRA V832」は“8”以降のWindowsを変えるか?本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2013年05月14日 12時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

Windows機にRetina的ディスプレイの模倣が出てこない理由

 タイトルの通りだが、あれだけアップルがMacBook Proの宣伝でRetinaディスプレイを訴求しているのだから、それに対するフォロワーはもっと多くてもいいはずだ。高精細な液晶ディスプレイは、何もアップルの独自技術ではない。液晶の高精細化は道筋が見えていたため、もう10年以上も前から“どうやって高精細化に対応しようか?”と議論が重ねられてきたのだ。

Windows 8の開発ブログで示された、同OSが動作する一般的な画面サイズと解像度の例。さまざまな画面サイズ、画素数、画素密度を想定している

 問題はハードウェア側にはなく、むしろOS……すなわちWindows側に存在してきた。その問題がやっと解決し始めたのがWindows Vistaのときで、Windows 7、Windows 8と少しずつ対応度を上げている。

 Windows 8の開発ブログを読み返すと、今回V832が採用した2560×1440ドットという解像度を、マイクロソフトは10型あるいは11型程度のタブレットが採用すると想定していたようだ

 しかし、これは一般的なノートPCが高精細化するとは想定していないとも読み取れる。超高精細な250ppi(pixel per inch:1インチあたりのピクセル数)以上のディスプレイを想定しているのは、全画面で動作するWindows 8用に設計されたWindowsストアアプリのみだからである。

 というよりも、従来型のデスクトップアプリでは、150ppi程度までしか快適に使えない、という自覚がマイクロソフト自身にあるからだと思う。この辺りは、過去との互換性を完全には断ち切れないWindowsの悩みがあるようだ。

「MacBook Pro Retinaディスプレイモデル」の「ディスプレイ設定」。画面に文字を大きく表示するか、小さくより多くの情報を表示するかのバランスを調整できる

 ちなみにMacBook Pro Retinaディスプレイモデルは、OS自身が高精細表示に対応しており、画面描画と映像出力画素を切り離すことで対応しているようだ。

 縦・横2倍で画面表示イメージをテクスチャバッファ内に作成。これを直接表示するのが「Retina ディスプレイに最適」というディスプレイ設定だ。異なる画素の場合は、縮小フィルターを通して画素に割り当てる(このため、「Retina ディスプレイに最適」以外の解像度では描画速度がやや遅くなる)。

 これで完璧というわけではないが、従来機から整数倍の画素数ならば、レイアウトで互換性の問題が出る場合も少なく、かなり合理的な手法と言える。システム側でこう対応するのだと明確な指針が出ているのだから、一部の不具合あるアプリケーションもいつかは対応するだろう。

 さて、それはともかく、Windowsという基本システムがデスクトップ上での超高精細について及び腰である以上、超高精細ディスプレイを採用しても、そのコストやバッテリー面でのトレードオフをリカバーするぐらいの価値は出せない、と考えるWindows PCメーカーが多かったのだと思う。

 しかし、東芝はそこにあえてチャレンジした。

デスクトップ表示は東芝独自のユーティリティが上手に対応

V832の「画面設定ユーティリティ」を使えば、拡大率やウィンドウ各部の大きさなどを手軽に調整できる

 V832に搭載されている東芝の「画面設定ユーティリティ」を使えば、Windowsの各所に散らばる描画処理に対する拡大率設定やウィンドウの各部品などの大きさを適切に、簡単に変更できる(余談だが、これを用いると色補正をオフにできるため、どのぐらい発色が改善されているか試せる)。

 デフォルトでは文字を165%に拡大するよう設定されているが、185%ぐらいまで拡大してもいいのでは、と個人的には思う。

 このときマウスポインタの移動速度も最適にしてくれる。細かく多くの情報量を表示するならばポインタはゆっくり、情報量よりも美しい表示を重視して高解像度を表示品位に応用するのであればポインタは素早く動かせるよう自動調整されるのだ。

 細かなウィンドウ表示のバランスなどは完璧とは言えないかもしれないが、適切に、上手に、Windows 8で対応できる範囲のことをしてくれる。どれもユーザー自身が設定を追い込めば対応可能だが、1つの独自ユーティリティにまとめることで、超高精細ディスプレイ採用のWindows PCを使いやすい商品に仕立て上げている。

スケーリングのデフォルト設定は165%(画像=左)。画面設定ユーティリティの「大きいテキスト」を選択すると、185%まで拡大表示する(画像=右)

 その一方で、PCメーカーがここまで対応しているのだから、マイクロソフト自身がもっとできるのでは? という不満も浮かび上がってきた。

 V832は筆者が個人的に所有して使っているのだが、実際に運用していても、デスクトップアプリでは大きな不満を感じていない。むしろ、解像度の呪縛から逃れられるはずのWindowsストアアプリ、しかもマイクロソフト純正アプリで表示が最適化されないのは気になる。

 例えば、Windows 8標準のメールソフト。全画面設計で解像度とディスプレイの物理サイズを取得できるのだから、きちんと最適なレイアウトで表示しそうなものだ。確かに画面全体のペインを仕切る比率やメールボックス内のリスト表示などは適切に表示されるが、肝心のメール本文はかなり小さな表示になってしまう。

 カレンダー表示にしても、高精細なディスプレイになれば、年月日の各表示での予定の見せ方に工夫があってもよさそうだが、あまりそうした発想はないようだ。またメールと同様に広大な入力ペインに小さな文字といった、レイアウト上のアンバランスが見受けられる。

 これに比べれば、高解像度設定のときに細身すぎるビットマップフォントが割り当てられることがある……などの、毎度おなじみの不満(フォントを変えてしまえばいい)を除き、デスクトップアプリのほうが高解像度対応であまり不満がないぐらいだ。

 もちろん、Windows 8のすべてが不完全というわけではない。多くのWindowsストアアプリはV832の高解像度を生かした美しい描画をしてくれる。今後、メールやカレンダーなどの純正アプリが、V832の状況を見て改善してくる可能性もあるだろう。

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