「Windows 8.1」の“納得感”と今後の課題本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2013年07月01日 18時15分 公開
[本田雅一,ITmedia]

デスクトップからタッチへのバランスよい移行を促すWindows 8.1

 さらに“デスクトップの扱い”についても、微妙なスタンスの変化が見られる。

 Windows 8が登場する際、当時の開発トップだったスティーブン・シノフスキー氏に今後のWindowsアプリケーションについて尋ねると「これからのアプリはWinRTで作ったWindowsストアアプリ(Modern UIアプリ)で、これまでデスクトップ向けに作られたアプリケーションも、すべて全画面のタッチフレンドリーなユーザーインタフェース、作業プロセスへと変化していく。Officeなどのプロダクティビティツールも例外ではない」と話していた。

 驚いて質問し直すと「デスクトップGUIは20年以上かけて進化して今の状態になったが、当初はコマンドラインのほうが作業性が高いと言って譲らないエンスージアストは多かった。今はタッチフレンドリーであることをネガティブに考える人もいるだろうが、来年になれば、店頭で画面を触って操作できないPCを“故障?”と思う人も出てくると思うよ」と自信を持って答えていたのを思い出す。

 “来年には”という言葉は少々口が滑ったのだろうが、シノフスキー氏は過去を振り返らない人物だった。Officeの担当だった時代から何度も話を聞いていたが、「未来を創らねばならないのだから、過去を振り返るべきではない」との信念があったように思う。そのためか、デスクトップの世界を完全なレガシー、過去の遺物のような位置付けに据えていた面も感じられた。

Windows 8.1 Previewのデスクトップには、左下にスタートボタンが復活。押すとスタート画面に戻るだけだが、ボタン上を右クリックすると従来のスタートメニューから呼び出せた機能を表示できる。起動後に直接デスクトップへ移動する設定も可能になった

 これに対してWindows 8.1は、“過去への後退はしない”という信念は崩していないものの、バランスよい移行を促すようになった。例えば、かつてのスタンスでは上記のようなデスクトップアプリケーションのSkyDrive統合は必要なものではなかった。“これから新天地に行くのに、旧来の場所に新たなインフラ整備は不要”だからだ。

 しかしMicrosoftは今回、「デスクトップでもModern UIでも、どちらでも好きな方を使って下さい。どちらにも最新の機能を提供します。でも完全ではないので、タッチパネルフレンドリーな方向に行きましょうね?」という誘い方をしている。

 筆者は今回のBUILDで、WinRT対応アプリ開発者向けのファンドなど優遇プログラムを発表するのではないかと推測していたが、そうしたやり方ではなく、APIの充実やツールの進歩といった、いかにも開発者が喜びそうな材料を投入することで、エンジニアとの関係を深めるという、伝統的にMicrosoftが続けてきたことを、再び今、やり直しているという印象を受けた。

 言い換えるなら、この路線(開発者にとってよりよいプラットフォームとなるよう、基盤部分の改良に力を入れること)もむなしく、Modern UIのアプリが増えないようならば、基本ソフトと開発ツール、ライブラリなどによってプラットフォーマーとしての地位を確立してきたMicrosoftは、いよいよ手詰まりになってくる。

基本操作の使い勝手も向上

 一方、消費者が直接的にWindows 8.1から受ける恩恵とはなんだろう?

 もちろん、いくつかのユーザーインタフェースの改良は、地味ながらも納得のいくものだ。Microsoft式のタッチUIの作法がどうしてもなじめないという場合は慣れるほかないが、目立つ部分から順番に改良が加わっている。

 タイル画面からすべてのアプリに遷移するのに上方向に画面をフリップするだけでよくなり、ネット検索機能がWindowsのタイルインタフェースに統合され、これまで不足していたModern UIのコントロールパネルが大幅に機能と使いやすさを向上させている。

Windows 8.1 Previewの検索機能は、Webコンテンツからローカルのファイル、アプリなど、対象を問わずまとめてサーチ可能。結果はModern UIの作法に従って横スクロールで確認できる

 特にデモンストレーションで感心したのが、検索機能の統合だ。スタート画面にあったBingのタイルはなくなり、システムの検索でキーワードを入れると、Bingの検索がModern UIスタイルで表示される。

 この検索結果の表示は階層化され、重要と判断された検索結果に関しては内容をかなり詳細に展開して表示してくれる。Modern UIの作法に従って機能的に配置されるので読みやすく、検索対象のことを一望して理解しやすいという印象を持った。関連する地図や写真、3Dの地形データなどへと連動していくユーザーインタフェースも、Bingの多様な検索技術をよく表現している。

 MicrosoftはBUILDの基調講演で、かなりの時間を割いてBingの最新の進化を説いた。Bingの改良があたかもWindows 8.1の価値を高めるかのようなプレゼンは、実際、とても効果的だと感じたが、同時に日本向けの展開には不安がよぎる。日本でのBingは一般的なWeb検索に近いものだからだ。

 もし、MicrosoftがBingとWindowsの機能の連動性をさらに高めていき、Bingの長所をプラットフォームの長所に変換しようと設計していくのなら、日本だけでなく各国語におけるBingの質をもっともっと高めていく必要があるだろう。Bingの重要性が高まることによって、日本でのBingへの投資が増えることを期待したい。

 ユーザーインタフェースの改良という面では、やっと標準のWindowsメールが超高解像液晶ディスプレイにも対応してくれた。「dynabook KIRA V832」にインストールしてみたところ、これまでメール本文の文字が小さく見づらかったが、Windows 8.1のWindowsメールでは適切なサイズで表示される。当たり前と言えば当たり前とはいえ、他にも全画面表示における表示バランスが改善されているところが散見されており、昨今のディスプレイトレンドを鑑みて改良したのだろうと想像する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月29日 更新
  1. ミリ波レーダーで高度な検知を実現する「スマート人感センサーFP2」を試す 室内の転倒検出や睡眠モニターも実現 (2024年03月28日)
  2. Synology「BeeStation」は、“NASに興味があるけど未導入”な人に勧めたい 買い切り型で自分だけの4TBクラウドストレージを簡単に構築できる (2024年03月27日)
  3. ダイソーで330円の「手になじむワイヤレスマウス」を試す 名前通りの持ちやすさは“お値段以上”だが難点も (2024年03月27日)
  4. 「ThinkPad」2024年モデルは何が変わった? 見どころをチェック! (2024年03月26日)
  5. ダイソーで550円で売っている「充電式ワイヤレスマウス」が意外と優秀 平たいボディーは携帯性抜群! (2024年03月25日)
  6. 日本HP、個人/法人向けノート「Envy」「HP EliteBook」「HP ZBook」にCore Ultra搭載の新モデルを一挙投入 (2024年03月28日)
  7. 次期永続ライセンス版の「Microsoft Office 2024」が2024年後半提供開始/macOS Sonoma 14.4のアップグレードでJavaがクラッシュ (2024年03月24日)
  8. サンワ、Windows Helloに対応したUSB Type-C指紋認証センサー (2024年03月27日)
  9. 日本HP、“量子コンピューティングによる攻撃”も見据えたセキュリティ強化の法人向けPCをアピール (2024年03月28日)
  10. そのあふれる自信はどこから? Intelが半導体「受託生産」の成功を確信する理由【中編】 (2024年03月29日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー