IGZO液晶+第4世代Coreの“日本製”Ultrabookはこうして生まれた「FMV LIFEBOOK UH90/L」分解&開発陣インタビュー(前編)(3/4 ページ)

» 2013年08月22日 12時45分 公開

「刀」のコンセプトをいかに具現化したか?

―― 製品のコンセプトは「刀」(KATANA)だそうですが、どのような意味を込めているのでしょうか?

安藤氏は、松本氏の下で商品企画を行った

安藤氏 Ultrabookの象徴である薄さ、UH90/Lで得られた堅牢性、肌身離さず持ち運べる携帯性、デザインの美しさ、そして日本製であること、そういった特徴を兼ね備えたものは何かと考えた末、「刀」という言葉に行き着きました。これはデザインだけのキーワードではなく、機構設計から製造まで含めた共通認識を言葉にしたものです。

―― 刀のコンセプトは、どのように本体のデザインで表現したのでしょうか?

岡本氏 UH90/Lのデザインは私がリーダーを務めました。実際に造形の図面を引いたり、ボディカラーの調色や、現物として上がってくるもののデザインコントロールは、太田にまかせています。

 刀というコンセプトは、各部のデザインに織り交ぜています。刀は薄いという印象を与えますが、それは刃の部分に焦点があたった結果であり、峰の部分は肉厚で頑丈です。UH90/Lでも同様に、剛性感を出しつつも、実物より薄く見える効果を狙いました。例えば、視覚的にパームレスト面のエッジを立たせて、角に金属のハイライトラインが1本細く走るような表面処理などは、薄さを強調するアイキャッチになっています。

太田氏 コンセプトの刀を共通言語として、どれだけ日本刀のような金属の塊、緻密感をノートPCで表現できるか、使い勝手を考慮し、開発者の方々に協力していただきながら、デザインに取り組みました。その中で設計者の方々が基板サイズで決まっていて動かせない部分を、パーツのレイアウトの工夫で調整するなど、デザインに実物を近づけるよう熱心に取り組んでいただき、納得できるものに仕上がりました。

パームレストのエッジを立たせて、側面に走る金属のラインを目立たせることで、「刀」のイメージを具現化している

―― 確かにデザインでは、パームレストの存在が目立ちます。

デザインのリーダーを務めた岡本氏

岡本氏 パームレストは、刀のような塊感という表現と、薄く見せる効果を両立したいため、UH75/Hと同じプレス加工をしていますが、プレスの後に切削をして、いかに精緻に見せるかという点に一番こだわりました。プレスだけでは、曲げたときの限界の角Rが決まってしまうため、角が少しぼんやりした印象になります。そのため、プレスの曲げで生じた余計な丸みを切削し、1枚板から削り出したかのような、刀を思わせるエッジのイメージを作り出しました。

立神氏 パームレスト面については、外側をプレスで絞った後に丸みを削っただけではこのエッジ感がなかなか出せず、側面の壁を作るだけで、何工程もかけて曲げ直しています。それこそ、日本刀のように叩いては曲げる、といった工程で作り込みました。アルミニウムの1枚板からすべて削り出して成型するよりはコストを抑えつつ、プレスと曲げでうまくソリッド感を出しています。

 パームレストの表面は非常にシンプルな外観ですが、裏面は樹脂パーツを組み合わせて複雑な構造に作り込んでいます。アルミニウムのプレスでは、複雑な構造ができないためです。具体的には、導通をとるため、樹脂を成形した後、メッキをかけ、最後に接着剤で貼り付けました。また、パームレスト面の裏側は、部分的に段差を深く削るといった調整を行い、薄さと軽さ、強さに配慮しています。

アルミニウム製のパームレスト面は、プレスで絞った後、側面の丸みを削って仕上げている(写真=左)。パームレストの裏面は樹脂パーツを組み合わせて複雑な構造に作り込んでいる(写真=右)

―― パームレスト面は、部分的に表面仕上げを変えていますね。

岡本氏 パームレスト部分はヘアライン加工でアルミニウムの質感を生かしつつ、キーボードユニットの1段下がった部分は梨地加工で余計に目立たないよう配慮しました。

 さらに二次加工で作り込んだ部分としては、キーボードエリアの周囲をダイヤモンドカット加工で光らせています。画面を見ながらキーボードは直視していないのですが、なんとなく雰囲気でキーボード面が分かるように、周囲が光ってガイダンスになるラインを設けることを意図しています。

 今回は、液晶ディスプレイを開いたときに手が触れる部分、ユーザーインタフェースになる部分を際立たせて、それ以外はノイズにならないよう、誇張と排除を整理するデザイン構成をしています。パームレスト面は、電源ボタン、キーボード、タッチパッド、指紋センサーがあり、それ以外に余計な要素がないような表現ができたと思います。

 そのほか、全体的にシンプルなデザインとしつつ、コネクタ部の斜めの切り口や、スピーカーの小さな穴など、細部には丁寧な処理を心がけました。

パームレストはヘアライン加工、キーボードの外周部はダイヤモンドカット加工、その内側は梨地加工と、部分的に表面処理を変えている(写真=左)。電源ボタンとECOボタンも金属の削りで質感にこだわった(写真=中央)。前面の左右には、ステレオスピーカーの非常に小さな穴が繊細に開けられている(写真=右)

岡本氏の下でデザインを担当した太田真利亜氏

太田 シンプルに感じるかどうか、気持ちよく使っていただけるレイアウトになっているかどうかは、自分でも厳しくチェックしました。

 使いやすい大きさのタッチパッドを使用し、キーボードの周囲をダイヤモンドカット加工にして高級感を出したりと、持ち歩いて使う製品としての使い勝手とデザインのバランスを取っています。

富士通 FMV LIFEBOOK UH

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