TS-469 Proに限らず、QNAPがカスタマイズしたLinuxベースのNAS OSである「QTS」は、すべてのQNAP製品で動作する。同じOS、同等機能(プロセッサ能力やメモリ容量にも依存する)が、MarvellとIntel(Atom)の両方で同じように動くのである。
これまで筆者が使ってきたコンシューマー向けNASは、同じメーカーのものはよく似たユーザーインタフェースを採用し、まるで同一アーキテクチャで構築されているように見えるものの、実際には必ずしも互換性(というよりも、共通性)が保たれていなかった。企業向けは企業向け、コンシューマー向けはコンシューマー向けと、てんでバラバラ。しかも、ハードウェアの世代が変わると、採用しているソフトウェアの仕様が変わっているなんてことも少なくない。
表面的なユーザーインタフェースは似せてあっても、実際に“機能”を実現しているのは“中身”だ。中身がバラバラならば、表面を取り繕っても不具合は簡単にはつぶせない。RAID NASを選ぶ際、用途やハードウェアの世代ごとのOS、機能が“統一されている”か否かは、選択するうえでのポイントだと思う。
同じソフトウェア基盤の上にバグつぶしと機能の洗練を重ねていけば、同じソフトウェアをベースに開発されている全製品の機能、パフォーマンス、信頼性が高まっていく。MarvellとIntelで同じソースコードを共有するQNAPのNASへの信頼が高まったのも、こうした取り組みのおかげだ。
さらに最新のQTS 4.0では、初回起動時に企業向けかコンシューマー向けか、機能の選択を行うプロセスが設けられている。実のところ、大きな違いは標準でインストールされるソフトウェアやデフォルトの設定値の差など、後からでも変更、追加インストールできる機能なので、気軽に選べばいい。
重要なことは、対極にある両用途に適したデフォルト設定を、(ハードウェアはそのままに)セットアップ時に選択できることだ。なぜなら、企業内で使われている基本ソフトと、コンシューマーである筆者の使う製品の基本ソフトが同じソースコードの基に生まれているから。その結果、みんなが同じ品質を共有できる。
どんなソフトウェアにも不具合はあるものだが、問題はどう品質を管理するかにかかっている。この点、1つのソフトウェア基盤の上に企業向けとコンシューマー向け、両方のアプリケーションが乗っていることが、実際に使い始めてからの大きな安心感となっている。
実際、運用をはじめて1カ月。単なるファイルサーバとしてだけでなく、Dropboxライクな機能をNASベースで実現するQsync(URLリンクを作成して第三者にファイルを送ることなども可能)やVPNサーバといった実用系機能から、ビデオデータを保存しておいての視聴やバックグラウンドでのトランスコードといったメディア処理、WebのキャッシュプロキシなどをTS-469 Proで運用しているが、今まで一度も問題は起きていない。トラブルはもちろんだが、動作が怪しかったり、振る舞いが不安定と感じたこともなく、ひたすらに安定している。
ソフトウェアでRAID機能を実装していると聞くと、「トラブル時にRAIDへアクセスできなくなる危険性があるのでは?」と心配する向きもあるようだ。HDDトラブルでデータが失われる危険性というよりも、ハードウェアなどのトラブルで壊れたとき、きちんとHDDからデータを取り出せるか、との心配があるのだと思う。
しかし、RAID NAS用に開発されたブートローダになっているので、内蔵HDDが壊れたとしても、本体が起動できなくて困るなんてことはない。ファームウェアはHDDに一部書き込まれているそうだが、本体内のフラッシュメモリにも起動に必要なバイナリが収められているため、HDDが壊れてアクセスできなくなってもシステムは起動する。また、本体ハードウェアのトラブルの場合は、同じベアボーンの筐体を用意してHDDを入れ替えると、それまでの設定を引き継いですばやく再稼働が可能だ。
実は最初の導入時、すべての設定を終えて一部データをコピーし終えたところで、たまたま電源まわりの初期不良が起きてしまった。翌日には代理店のユニスターから代替機が届いたのだが、上記のようにHDDをすべて新しいシャシーに入れ替えて起動すると、何ごともなかったように動き始めた。もちろん、そもそもトラブルが発生しないほうがベターではある。しかし、一度動かし始めたら、かなり長期間運用するものだ。たとえ初期不良がなかったとしても、どこかしらに不具合が出る可能性はある。
このようなトラブル時における起動シーケンスの工夫は、当たり前と言えば当たり前だが、長年の中で蓄積したノウハウの上に動いている安心感は他に代え難い。
一方で「安心感がある」とはいえ、「絶対に大丈夫ということではない」ことも、繰り返しにはなるが真理だ。今回、パフォーマンスと信頼性に加え、復旧時の速度なども合わせて考えて、RAID 10を選んだと書いたが、本当に失いたくないデータは別の手段でバックアップを取っておく必要がある。
筆者は、TS-469 Proのバックアップをデータの種類ごと2つに分けて実行している。
まず、日常的に更新している仕事のデータ。多そうに感じるかもしれないが、実は大した量ではない。せいぜい数Gバイト、20Gバイトもあれば十分というデータだ。これらのデータを収納するために、通常ならDropboxなどの同期機能付きクラウドストレージを使うと思うが、NASを活用すれば、LAN内で高いパフォーマンスを得られる利点がある。
もう1つは写真やビデオ、あるいは音楽データなど、サイズは大きいものの既存データの書き換え頻度は低く、次々に追加ばかりがされていく「データ倉庫」的な情報だ。数100Gバイトから多ければ1Tバイト以上を見積もっている。筆者の場合、ロスレスの音楽データだけで700Gバイトほどあり、トータルでは1Tバイトを超える。
前者のデータをバックアップする最も簡単な手段は、DropboxかGoogle Driveを使う方法だ(筆者はSkyDriveを100Gバイト常用しているので、こちらを使いたいところだが、現時点ではQNAP用のアプリケーションパッケージがない)。これらのクラウドストレージとNAS内のデータを同期するパッケージが用意されているので、導入するだけで簡単にNASの一部をクラウドの中に放り込んでおける。
一方、後者のデータはUSB 3.0対応HDDケースを買っておき、そこに自動バックアップをしかけてある。信頼性はやや落ちる(NASのRAIDボリュームとUSB HDDの両方が同時に壊れる可能性は否定できない)が、更新頻度が低く、更新時は追加が主だ。100%とはいかないが、年に数度ぐらい別のHDDにもスナップショットを作っておけば大丈夫だろう。
外部記憶装置への自動バックアップ機能は「バックアップマネージャ」という機能に集約されており、NASの内蔵ボリュームへの書き込みを終えると即座にバックアップボリュームにも書き込まれるので、バックアップ間隔が空いてしまうことでデータが喪失する可能性は低い。
さらに両者の中間的な解決作として、DropboxやGoogle Driveなどよりもシンプルなクラウドストレージを使う方法もある。互換サービスがあまた存在するAmazon S3を活用することもできるし、1ファイル1Gバイトまでという制限はあるものの、年会費49.95ドルで容量無制限のElephantDrive、10Gバイトまでは無償で利用できるSymformといったサービスへのバックアップも可能だ。
今のところ、お試し的にSymformを使っているが、筆者的にはやや容量が中途半端なため、有料サービスを契約するには至っていない。このほか、複数のSNAPを異なる場所で使う場合は、2つのNASをRsyncという機能で同期する方法も用意されているが、今のところは利用していない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.