どちらも期待を裏切らない“正統進化”――林信行の「iPhone 5c/5s」徹底レビューライフスタイルを彩る「5c」、未来を映す「5s」(3/4 ページ)

» 2013年09月18日 10時01分 公開
[林信行,ITmedia]

「iPhone 5s」に夢を与える未来志向の2つのプロセッサ

ゴールドと聞いて最初、面食らった人もいるかもしれないが、iPhone 5sのゴールドは非常に上品かつ落ち着いた感じの、光の条件によってはこれまでのシルバーと区別がつかないような色合いだ

 iPhone 5cが“カラフルな人々”を魅了する一方で、iPhone 5sはiPhone 5と同じダイアモンドカットのフレームと、まるで工芸品のように美しく1枚にまとまったメタルとガラスの本体が、極めて精度の高い造形によってエレガントさを醸し出す1台となっている。

 だが、外観や本体サイズはiPhone 5とほぼ同じだ(このためタイトなiPhone 5用のケースがそのまま装着できる)。指紋センサー周辺のリングを隠してしまうと、新色のゴールドでもない限り区別がつかないだろう。

 それであるにも関わらず、かつて世界を驚かせたiPhone 5と同じ薄い本体の中に、64ビットのA7、世界初のモーションプロセッサーであるM7、Touch IDを実現する指紋センサー内蔵の新ホームボタン、暗所でも自然な色合いを再現するTrue Toneフラッシュなど、最新のテクノロジーを取り入れている。iPhone 5sは、同社が「the most forward-thinking」とうたうだけあって、未来に対して非常に大きな夢を見せてくれるiPhoneだ。

 まずはCPUから。64ビットといえばパソコンと同じレベルのCPUだ。これまでの32ビットのCPUは本来は4Gバイトまでのメモリしか扱うことができないところを、なんとかうまくやりくりしてより大きなメモリを扱っていた。これが64ビットCPUでは16エクサバイトものメモリを扱うことができる。それに加えて1度に処理できるデータの量も大きくなる。

 その恩恵を分かりやすく(やや乱暴に)説明してみよう。デジタルというのは、リアルな世界をインスタントに再現する手段にすぎない。性能が低かった時代は画面の解像度も低く、音もピコピコ音で、ゲームなどの動きも雑で不自然なものだった。しかし、CPUのグレードが16ビット、32ビットそして64ビットへと上がっていく中で、画面の解像度があがり、生演奏と区別がつかない音が再現可能になり、ゲームの中で再現される世界のちょっとした動きもどんどんリアルさを増してきた。つまり、スマートフォン初となる64ビットCPUの搭載は、これまでのスマートフォンでは考えられなかったような、リアルな世界と情報の融合の形を切り開いてくれる、ということだ。

 おそらく最も早い段階から恩恵が受けられるのがリアルなグラフィックスを採用したゲームアプリの分野だろう。64ビットの魅力がフルに実感できるアプリとして、iOS 7のリリースと同時に、ゲームアプリの「Infinity Blade 3」がリリースされる予定だ(残念ながら本稿の執筆時点ではそちらを検証することはできなかったが、製品発表のイベントで行なわれたデモでは霧でかすんだ様子なども写真のように再現していた)。気がつけばポケットの中にハイビジョンに迫る画質と、一昔前の家庭用据え置き型ゲーム機に勝るとも劣らない性能が収まっているのだからすごい話だ。

※ちなみに、iPhone 5sでFIFA 13をプレイしてみたところ、iPhone 5に比べて描画が途中でひっかかる現象が減り、誤操作が大幅に減った。このためパスの通りもよくなり、クロスが決まりやすい。最強のWorld Classレベルに設定しFCバルセロナ(筆者) vs リアルマドリードの試合で、メッシでハットトリックを決めて4-0圧勝した。

 ところで、iPhone 5sの未来志向を感じさせるもう1つの特徴がM7プロセッサーの搭載だ。これは一体、何をするものか。日本ではそれほど話題になっていないが、2012年にすごいアプリが登場した。

 「Moves for iPhone」というアプリで、1度、このアプリを起動しておけば、自分が1日の間にどこに行ったかの行動記録をほぼ完璧に記録してくれる。これだけだとGPSがついているから当たり前じゃないかと思うかもしれないが、このアプリはさらに加速度センサーなども監視し、ある地点から別の地点までの移動が歩きだったか、走りだったか、自転車だったか、あるいは乗り物だったかも、かなり正確に識別し記録してくれる。

 このアプリでは、開発者の人がプログラミングの能力を駆使してその機能を実現していたが、M7はこれと同様に各センサーから送られてくる情報をハード的に統合処理し、CoreMotionという、どんな開発者でも利用できるiOS内情報として提供する。

 一体それでどんな恩恵があるのか? iOSそのものでいうと、マップ機能がすでにこの機能に対応している。

 例えば、青山一丁目から永田町までのルートを表示し、タクシーに飛び乗った後、近くの交差点で車を降りて、本稿を今まさに執筆している平川町ライブラリーまで徒歩できたが、タクシーを降りて数歩歩いたところで、地図に表示された現在地の絵が歩行者の絵にきちんと切り替わっている。 これはつまりiPhone 5s自体が、私が車に乗っているのか、歩きなのかを認識し、どれくらいの頻度でGPS情報を拾うかなどを自動的に切り替えている、ということだ。 ユーザーの状態を正確に識別することはより正確なナビをするだけでなく、ナビをしている際のバッテリー消費を抑える役割もある。

iPhone 5sで標準マップを使って平川町までナビをしてみたところ、タクシーを降りてしばらくすると自分の居場所を示すマークが徒歩のマークに切り替わった。これこそがM7プロセッサーの効果だ

 ちなみにiOS 7では、これ以外にも、電車や車で高速移動している際には、街中の公衆無線LANに接続しない、といった形でもM7プロセッサーを利用している。急いで検索をしようとしたら、移動中の電車の中から一瞬だけつかんだ公衆無線LANの電波に接続してしまいエラーが表示される、といったわずらわしい思いも、iPhone 5s以降では徐々に過去の思い出として葬り去られ始める。

未来への新しい扉を開いたiPhone 5s

iPhone 5s(左)では、ホームボタンの真ん中の四角いマークがなくなり、ホームボタンが金属リングで囲まれ、指紋認証センサーの役割も兼ねるようになった

 こうした対応アプリが出ないと、なかなかよさが分からない未来志向のテクノロジーを搭載する一方で、iPhone 5sには、すぐに恩恵を受けられるテクノロジーの進化も搭載されている。その1つが指紋認証技術の「Touch ID」だ。

 iPhoneなどを紛失した際、買い替えがきく本体以上に大事なのが中に入っている個人情報だ。これを守るために、これまでは4ケタの暗証番号、パスコードを入れないと使えないようにするのが一般的だった(実際にはビジネス向けの特別仕様を設定すれば、もっと長いパスワードも設定できる)。

 パスコードの問題点は、iPhoneがあまりに頻用する道具なので、人目につく場所でも入力する機会が増え、覗かれる危険性が高いことだ。これがiPhone 5sであれば、ホームボタンの上に指紋を登録した指を置いて1秒ほど待つだけで、すぐにロックが解除され使える状態になる。周囲にいる人もわざとらしく目を背ける必要がなくなり、より快適に使えるにも関わらず、これまでよりもずっと安全という素晴らしい技術だ。

 2段階の登録作業をすれば、基本的にどの指でも登録できる。傷を負った指や濡れた指は認識に失敗することがあるが、最大5個までの指紋を登録できるので、両手の親指とひと指し指をそれぞれ登録しておけば、それほど困ることはないだろう。

 もちろん、指紋を設定した後でも、何らかの理由でどうしても本人以外にiPhoneの中をのぞいてもらう必要がある場合などはパスコードを入力すればロックを解除できる。ただし、この際、安全性を重視する人は10回パスコードを間違えると中のデータを全部削除するオプションも用意されていたり、音声ダイヤル、Siri、Passbook、メッセージ(SMSなど)の3つに関しては、ロック中でも利便性のために利用できるようにするか、安全性を重視して利用できないようにするか個別に設定できる。

Touch IDを使えばiTunesやApp Store、iBookstoreでコンテンツを指紋を使って購入できる。購入ボタンを押した後、印鑑を押すようにして指紋捺印して承認すればOKで非常に簡単だ(画面=左)。iPhone 5sのセキュリティに加え、iOS 7のセキュリティもかなりしっかりしている。Macにつないで写真を取り込もうとしたところ、iTunesの最新版をインストールして、まずはパソコン側でiPhoneへのアクセス依頼のボタンを押す。その後、iPhoneの画面でこれを承認しない限りUSBケーブルでつないでも写真など内部情報を一切取り出せない(画面=中央)。App Storeでは、なかなか欲しいアプリの発見が難しくなっているが、iOS 7には近くにいる人がよく使っている地元系アプリを発見する機能なども搭載。非常に便利になっている(画面=右)

 指紋によるロック解除は、これまでの日本の携帯電話でもあったが、iPhone 5sで、大きな夢を見させてくれるのが指紋認証を使ってiTunes、AppStore、iBookStoreで商品の購入ができることだろう。今のところTouch IDで商品が購入できるのはこれら3つのストアだけであり、Touch IDを使った指紋認証をほかのアプリに開放する予定もないようだ。しかし、将来的に例えばKeychain(MacのOSで採用されているパスワード一括管理の技術。一度、Macそのもののパスワードを入力すれば以後、しばらくほかのパスワードは入力不要になる)などと組み合わせて、例えばWebブラウザ経由でアクセスするeコマースサイトの買い物などにも使えるようになると、わずらわしさの解消という観点からも、のぞき込み防止というセキュリティの観点からいってもiPhoneの使い勝手が劇的に向上するだろう。

 iOSとOS X(MacのOS)は同じ技術が基本になっていることを考えると、これは十分期待できるのではないかと筆者は思っている(ただ、ことセキュリティにからむだけに、慎重にことを進めたいということなのだろう)。

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