「VAIO Duo 13」を“徹底解剖”したらPCの未来が見えてきたVAIO完全分解&開発秘話(後編)(3/7 ページ)

» 2013年10月04日 12時00分 公開

cTDPの対応によりパフォーマンスを大幅アップ

第4世代CoreのUシリーズは、CPUとチップセット(PCH)を1つのBGAパッケージに統合。1チップ構成というわけではなく、パッケージ上にはCPUとPCHのダイをそれぞれ実装している

 VAIO Duo 13は、Haswellこと第4世代CoreをベースとしたIntelの新しいモバイルPC向けプラットフォームであるShark Bay(開発コード名)を採用する。同時発表したVAIO Pro 11/13と同様、省電力や省スペースの面でメリットがある第4世代Core Uシリーズを搭載しているが、よりグレードの高いCPUを選択できる(ソニーストア直販のVOMモデルのみ)のが特徴だ。

 具体的には、VAIO Pro 11/13で搭載できるCore i7-4500U(1.8GHz/最大3.0GHz)に加えて、より高性能なCore i7-4650U(1.7GHz/最大3.3GHz)も選べる。単にCPUクロックが高いだけでなく、内蔵グラフィックスが実行ユニット(Execution Unit)を40基内蔵する上位版(GT3)の「Intel HD Graphics 5000」になることから、3D描画性能も向上しているのだ(Core i7-4500Uに統合されたIntel HD Graphics 4400は実行ユニットが20基)。

 先代のVAIO Duo 11と同様、cTDP(Configurable Thermal Design Power:設定可能な熱設計電力)を用いた熱設計を積極的に採用しているのも見逃せない。通常は15ワットのTDPだが、状況に応じて性能を重視したTDP 25ワットや省電力を重視したTDP 15ワットにも対応する。TDPを上げて性能を高める仕様は、VAIO Pro 11/13にない強みだ(TDPを下げる仕様にはVAIO Pro 11/13も対応する)。

 笠井氏は「VAIO Duo 13はペンを使ったクリエイティブな作業や動画編集、最終的にはペンと組み合わせて3D CADなどもバンバン動かすという目標があり、書類作成の生産性向上を重視したVAIO Pro 11/13より高い3Dグラフィックス性能が必要になる。そのため、よりグレードの高いCPUと内蔵グラフィックス、そしてcTDPの25ワット対応で、クリエイティブユースに使える描画性能を妥協せず追求した」と、cTDP対応の理由を説明する。

ソニーが提供するVAIO Duo 13におけるTDP Up時の性能比較(3DMark Vantage)。Core i7-4650U(1.7GHz/最大3.3GHz)選択時は、Core i7-3612QM(2.1GHz/最大3.1GHz)+Radeon HD 7670M(ドック内蔵)を備えたVAIO Zのハイエンド構成を上回る性能が出せるシーンもあるという

 このcTDPによる性能アップは、VAIO Duo 11が搭載していた第3世代CoreではCore i7のみの対応だったが、第4世代CoreではCore i5も対応した。つまり、VAIO Duo 13が採用するCPUは、すべてcTDPによる性能アップが可能だ。VAIO Duo 11ではこの機能を使うのに設定の変更が必要だったが、VAIO Duo 13ではキーボードモードの初期状態で適用されるため、何も考えずにその効果が得られる。

 さらに注目したいのは、cTDPによる性能の上昇幅がVAIO Duo 11より大きい点だ。山内氏は「VAIO Duo 11では5%程度の上昇幅だったが、VAIO Duo 13では25%程度まで上昇するため、競合機種に性能面で優位に立てる。特に最上位のCore i7-4650U(1.7GHz/最大3.3GHz)であれば、Core i7-3612QM(2.1GHz/最大3.1GHz)+Radeon HD 7670M(ドック内蔵)を備えた旧VAIO Z(Z2)のハイエンド構成を上回る性能が出せる場合もある(3DMark Vantageでのテスト結果による)。VAIO Zのような性能志向のモバイルPCを求める方にも満足いただけるはず」と、その性能の高さを力説する。

VAIO Duo 13のcTDP対応状況
本体の状態 パフォーマンス優先 標準 静かさ優先
キーボードモード 25ワット 15ワット 15ワット以下
タブレットモード 15ワット以上 15ワット 15ワット以下
放熱設計とボディのスタイルは大きな関係があり、放熱に余裕があるキーボードモード時のみTDPが25ワットまでアップする

・性能テストの詳しい結果はこちら→これぞモバイルPCの最先端:「VAIO Duo 13」徹底検証(後編)――cTDPによる格上のパフォーマンス、驚異的なスタミナ、発熱、騒音をじっくりテストする

スライド機構をまたぐ長いヒートパイプが目立つ放熱機構

 通常はcTDPで性能を高めようとすると、放熱機構を強化する必要が生じ、ボディに厚みが出てしまう。しかし、VAIO Duo 13にそのような無理が感じられないのはなぜか? 山内氏は「我々はVAIO Zの開発で高性能を薄型軽量ボディに凝縮する技術を蓄積してきた。VAIO Duo 13ではそのノウハウを注ぎ込み、25ワットのTDPを放熱できる設計にしつつ、この薄さ、軽さ、スタミナも実現している」と答える。

写真では分かりにくいが、メインボード上のCPUに装着したヒートパイプは、スライド機構のヒンジを挟んで、反対側にあるファンまで長く伸びている

 VAIO Duo 13の放熱機構はユニークだ。ノートPCの放熱機構はCPUの直近にファンを内蔵し、ヒートパイプの距離をできるだけ短くするのが効率的だが、VAIO Duo 13はその逆を行く。CPUを左上に、ファンを反対側の右上に配置し、その間を長いヒートパイプで結んでいる。ボディの側面を大きく絞り込み、中央にスライド機構のヒンジを搭載したレイアウトなので、CPUの直近にファンを置くスペースがなく、ヒートパイプを伸ばして遠い場所にファンを置く以外に手段がないのだ。

 当然ながら長いヒートパイプは放熱面で不利になる。笠井氏が「これだけ長いヒートパイプで25ワットのTDPに対応するのは非常に難しく、この配置で最も放熱に有利な設計を追求する必要があった。内部構造の最適化においては、複数のサンプルを作り、構造を変化させながら、全体で効率を上げた放熱機構を作り込んでいった」と語るように、その開発は容易ではなかった。

ファン内蔵部の真上に吸気口を設けて、放熱を強化。本体背面のすぐそばに排気口を配置した

 具体的な対策としては、ファンの真上に通風口(液晶ディスプレイを開くと後方に現れる。画面に向かっているユーザーからは見えない)を設け、ここから新鮮な空気を吸って、すぐ背面に熱風を逃がすエアフローを確立しながら、十分な放熱能力がある厚めのファンを採用するなどの工夫により、25ワットのTDPに対応できるクーラーを作り上げた。

 ファンについては、「放熱優先でファンのサイズを最初に決め、それに合わせてほかの部分を作った」(笠井氏)とのことで、後方に向かって厚みが増すボディデザインを利用し、最大で9.2ミリの厚さを確保している。これはVAIOの薄型軽量ノートPCにしてはかなり分厚く、VAIO Duo 11のものより放熱性能が高い。ファンのサイズに余裕を持たせたため、ある程度の負荷がシステムにかかっても回転数が上がらず、静粛さを保つのもポイントだ。

取り外したCPUクーラーの表面。銅製の長いヒートパイプがユニークだ
取り外したCPUクーラーの裏面。薄型のVAIOモバイルノートとしては厚みのあるファン(最大9.2ミリ厚)を採用し、cTDPによる25ワットTDPを放熱できる仕様とした

・騒音/発熱テストの詳しい結果はこちら→これぞモバイルPCの最先端:「VAIO Duo 13」徹底検証(後編)――cTDPによる格上のパフォーマンス、驚異的なスタミナ、発熱、騒音をじっくりテストする

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