さて、この記事の冒頭でアップルが他社の引き離しにかかったと書いたが、それはiPad Airの魅力だけにとどまらず、あと2つ理由がある。
1つは今回、同時にiPad miniのRetinaディスプレイモデルが発表されたことだ。iPad miniは大型iPadと比べて圧倒的に小型軽量であることが大きなウリだったが、その一方で、ディスプレイがRetinaディスプレイでないことが弱点だった。
Retinaのよさを知っている人の中には「iPad miniは欲しいが、画面がRetinaではないから、買い控える」という声をそれなりに聞いた。そしてアップルは今回、そのiPad miniに置ける唯一にして最大の弱点をついに克服した。
しかも、iPad Airとキメの細かさ(1インチ当たりに収まるピクセル数)でそろえるのではなく、2048×1536ピクセルという解像度でそろえてきた。7.9型の小型ディスプレイのiPad miniの画面に、9.7型の大型iPad Airと同じだけのドットが収まっているのだ。このため、iPad mini Retinaディスプレイモデルの画面は326ppiと、264ppiのiPad Airと比べても格段に高い。ちなみにこの326ppiというのはiPhone 5c/5s(1136×640ドット)と同じキメの細かさだ。
アップル製品のスペックには1つ1つきちんと意味があり、相関関係がある。
Retinaディスプレイを搭載するiPad AirとiPad mini Retinaは、2048×1536ドットで解像度が同じ。継続販売のiPad 2と旧iPad miniも1024×768ピクセルで解像度は同じ。こうした相関関係によって、iPhone/iPad用にアプリを開発する人たちは、1機種1機種ごとの解像度バリエーションの用意にそれほど手間を取られることがなくなり、それがiPhone用の100万本近いアプリのほかに、イチからiPadの画面サイズにあわせて作られた47万5000本のアプリをそろえている理由の1つにもなっているはずだ。こうした相関関係はユーザーにとって直接的なメリットにはならないかもしれないが、開発者を経由してきちんと恩恵を受けられるようになっている。
今回、iPad mini Retinaディスプレイモデルは、発売までにやや時間が空いているからか、iPad Airと一緒に試すことはできなかったが、米Appleのスペシャルイベントでの発表や、公式サイトに掲載されている情報を見る限り、かなり戦略的に面白い製品に仕上がっていると思う。
これまでのiPad miniは、価格的アドバンテージを浮き立たせる理由もあってか、同時発表の第4世代iPadと比べて性能が落ちるCPUを搭載していたが、今回のモデルチェンジではiPad AirもRetina Display搭載iPad miniも、A7チップやM7チップも一緒なら、用意されたフラッシュメモリの容量構成や画面の解像度も同じであり、正直、本体と液晶サイズ、および重量以外には違いがない。
このおかげで、ユーザーは「軽さではiPad miniだが、画面の大きさと性能ではiPad Air」といった具合に、大きさ重さと性能のバランスで悩むことはなく、純粋に画面の大きさだけでどっちにするかを選べるようになった。
仕事の訪問先で、3〜4人に対してiPadの画面を直接見せてプレゼンをする人、学校の教科書など電子書籍を活用する機会が多い人は、おそらく9.7型サイズのiPad Airが向いているだろう。
満員の通勤電車の中で映画を楽しもうとしている人は、周囲の人から画面をのぞき込まれて気になるようならiPad miniを、気にならないレベルの混み具合ならiPad Airの大画面で楽しむのがいいかもしれない。
あるいは、視力がよくてiPad miniの小さな画面でもRetinaの繊細な表現がきめ細やかに見える人はiPad miniを、一方、最近、細かい字やモノが見にくくなったという向きには、やはりiPad Airだろう。
いずれにせよ、ユーザーが、画面の大きさと性能で微妙な駆け引きをして悩む必要はなく、肉体的な制約や、ライフスタイル、仕事スタイルを思い浮かべれば、自然とどちらの機種にすべきかが決まる。そんな選びやすさも2013年秋にリリースされる新型iPadの魅力なのかもしれない。
いずれにせよ、小型モデルと大型モデルが同時に大幅強化されたことで、他社のタブレットは、ますます苦境に追い込まれることだろう。
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