ところが、動作検証を行うメーカーの自助努力だけではどうにもならないのが、接続先となる機器の種類やソフトウェアのバージョン違いだ。どれだけ自社で動作検証の範囲を絞り込んでも、接続先のソフトウェアのバージョンが多いままでは、抜本的な対策にはなりにくく、動作検証に必要な工数を減らすにも限界がある。
PC周辺機器というカテゴリからは外れるが、この手の問題として近年クローズアップされることが多いのが、スマートフォンにおけるアプリの動作検証にまつわる問題だ。特にAndroidは、機種が多いうえにOSのバージョンもバラバラなので、たとえ最新機種に限っても、完璧な動作検証は事実上不可能に近い。アプリの制作者が個人となると、まず絶望的だ。
余談だが、Appleの手によってAppStoreから削除されるアプリは多いが、その理由として最も多いのは、iOSの新しいバージョンへの対応が行われず、放置されていることなのだそうだ。機種が限られていてOSのバージョンが比較的少ないiOSでさえこのような状況なので、Androidでは推して知るべしである。
そして、これとほぼ同じ状況にあるのが、ほかでもないWindows XPだ。Windowsというプラットフォームで統一されているが故に、PCの機種ごとに動作検証を行う手間こそ免れているが、XPと名の付くエディションだけでもHome Edition、Professional、Professional x64 Edition、Media Center Edition、その他の市場限定版など数が多い。先ほどの例で「3」としていたOSの種類が倍以上もあるのだ。これに加えて設計が古いことが、動作検証をより複雑にしている。
もしこれでWindows XPのシェアが低ければ、周辺機器メーカーは自社の判断で動作検証を打ち切っても特に支障はない。現にWindows XP以後に発売されたWindows Vistaは、延長サポート終了まで現時点で残り3年あるにもかかわらず、すでにサポート対象外としている周辺機器メーカーもあるほどだ。
しかし、Windows XPについてはそのシェアの高さもあり、競合他社がサポートしている中で自分たちだけが動作検証を打ち切るわけにもいかないという、チキンレースが続いている。それゆえ、今回の延長サポート終了に乗っかる形で、PC周辺機器メーカーは早々に動作検証のターゲットからWindows XPを外したいのだ。
ここで注意しておきたいのは、各メーカーがWindows XPを対応から外したいのは「動作検証などのサポート工数を削減したいから」であり、「Windows XPで動作しない機器を作るのが目的ではない」ということだ。確かにWindows XPの仕様からして実装が難しい機能は存在しているが、なにもわざわざWindows XPで動作しないよう故意に細工をすることはない。単に「この製品はWindows XPには非対応です」と、サポートを断る口実を作りたいだけなのだ。
もともとこうした動作検証は、専門の部隊を用意しているメーカーもある一方、開発スタッフが二足のわらじで兼任しているケースも多い。それゆえ動作検証の工数が増えると、新しい製品に回せるリソースがそれだけ少なくなる。Windows XPの動作検証を打ち切れることは、周辺機器メーカーにとっては浮いたリソースを今後開発される製品やソフトウェアに投入できることに他ならない。
ここではWindows XPの動作検証を強いられているPC周辺機器メーカーについて取り上げているが、Windows XPの発売元であるMicrosoftもまた、Windows XPで動作するさまざまなソフトウェアを作っており、立場は近いものがある。
客観的に見ると、自分たちが作ったOSのサポートを打ち切って自分たちのOSを買わせるというマッチポンプそのものであるため、なかなか理解が得られにくいわけだが、動作検証やサポートといった面で負の要素が大きくなりすぎているという点では、周辺機器メーカーやサードパーティのソフトウェアベンダーと変わらない。
もっとも、こうした因果関係を説明しても、冒頭で述べたような「あえてWindows XPを使い続けている」ユーザーにはおそらく響かないだろう。目先の費用負担や手間にばかり目が向いている以上、論点がかみ合わないことは必至だからだ。
本稿はWindows XPからの移行の啓もうを目的にしているわけではないが、サポート終了後のWindows XP環境でマルウェア感染による情報漏えいをはじめ、何らかのトラブルが発生した場合のリスクは、ユーザー自身で負うことになる点は注意していただきたい。
最後に1つ、Windows XPからの移行がスムーズに行われなかったことで、今後の業界に影響を及ぼしそうな問題を指摘して締めとしよう。
Windows XPからの移行がスムーズに進まなかった件は、Microsoftにとっても反省材料となっている。今回の件を教訓に将来何らかの対策を取るとして、抜本的で効果が高いのは、OS自体のサブスクリプション制の導入だ。つまりOS自体を期間契約とし、それを過ぎると動作しなくすることで、強制的に買い替えか、もしくは追加契約を促すというライセンス体系である。有料ソフトで購入前に1カ月程度の試用期間を設け、それを過ぎると起動しなくなるという仕組みがあるが、あれを思い浮かべてもらえばよい。
この仕組みを導入するためには現行のビジネスモデルを捨てる必要があるのはもちろんのこと、スタンドアロンでネットにつながれていない機器はどうするのか、組み込み機器市場にどう対応するかという問題もあり、一筋縄ではいかないのは明らかだが、今回のようなサポート終了にまつわる騒動を繰り返したくないという意向が強ければ、そうした選択肢は十分に考えられる。
OSではないソフトウェアの分野では、2012年にパッケージを捨てて月額制を導入したアドビシステムズの「Adobe Creative Cloud」が数字の上でも好調であることがはっきりし始めているほか、国内でもジャストシステムの「ATOK Passport」のような月額制モデルも登場しており、まったくの絵空事と言い切れない。Windows XPのまま粘るようなユーザーが多ければ多いほど、こうしたモデルが検討される可能性は高まってくる。
いったんパッケージを購入すれば、サポートは別にして事実上いつまでも利用できる現行の仕組みは、OSの基本機能がほぼ完成を迎えた現在、やや無理があると言える。そうした意味ではいっそ上記のような仕組みになってしまったほうが、そもそも新しいOSに買い替えるという概念そのものがなくなるのはもちろん、周辺機器メーカーもごく限られたエディションの最新版だけをサポートすればよくなる。
今回のWindows XP移行のドタバタは、長い目で見てこうしたOSのライセンス体系そのものが見直されるきっかけになる──そんな気がしなくもない。
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