未来のMacを先取り!「OS X Yosemite」特大プレビュー林信行が「OS X v10.10」を徹底分析(5/7 ページ)

» 2014年06月17日 21時50分 公開
[林信行,ITmedia]

未来へ向けての大胆な跳躍

 デザインに関してもう1つ、付け加えるべきことがある。それはこのOSにいくつか大胆なデザイン上のチャレンジもあることだ。

 その代表例が、新たに刷新されたSpotlight検索機能で呼び出すと、まるでパソコン全体がGoogleのホームページにでもなったかのように画面の中央に(半透明の)大きな「検索」キーワードの入力欄が現れること。

Spotlight検索の演出が大きく変わった。ファイル検索ではさらに詳細なプレビューが提示されるようになったほか、WikipediaやiTunes Store、地図、ニュースなど、インターネットから横断的に欲しい情報を探し出してくれる。映画のタイトルで検索すると近くで上映している場所の上映時間まで分かる

 ある意味、大胆で演出感が強過ぎるこのデザインは、まるで一昔前のSF映画を見ているようだ。十数年前のSF映画を見たことがある人は、パソコンの操作画面がいちいちあまりにも大げさで「そんな画面はないよ」と突っ込みを入れていた人も多いかもしれない。

 それでは、映像監督はなぜ、パソコンの素の画面を使わず、わざわざ手間をかけてそんな偽の画面を作ったのだろうか。それは映画を見ているコンピューターの分からない人にも、そのシーンで登場人物が何をしているかを分かりやすく伝えるためだ。

 つまり、そういった分かりやす過ぎる演出は、機械に詳しくない人でも利用できるパソコンを目指したMacの方向性と必ずしもかけ離れてはいない。しかも、そうした演出を、きちんと格好よくやっているSF映画には、人の心をワクワクさせる要素もある。映画「マイノリティーレポート」や「マトリックス」のユーザーインタフェースの話はIT業界でも度々話題になっている。

 脱線するが、先日筆者は、ジャガーが40年振りに出したスポーツカー「Fタイプクーペ」のデザイナーを取材した。この車の内装には、まるでロケットランチャーのスイッチのようなメタル感がバリバリのボタンが用意されていたり、計器類にメカニカルなアナログのぬくもりがあったりして、美しくもあり、「運転してみたい」と思わせる強烈な魅力がある。その際、同車の内装と外装をデザインした担当者が「007などの映画にインスピレーションを受けた」と語っていたのが強烈に印象に残っている。

 ストイックなまでにミニマルなデザインを好むと思われがちなアップルだが、実はユーザーに親しんでほしい新しい要素には、こうしたグラマラスで演出過多な要素を意図的に盛り込むことがたまにある(ハードでいえば初代iMac、ソフトでいえばウィンドウがドックに吸い込まれるジニーエフェクトなどがその最たる例だろう)。

 アップルがこれから5年、10年先にどういう世界を目指すかで1つはっきりしているのは、Siriなどを使った音声操作の世界だ。

 例えば「リマインダーに夜9時の予定を設定する」といった操作にしても、トラックパッドやタッチスクリーンを使った操作では、まず「リマインダー」のアプリケーションを起動して、「新規リマインダー」の作成ボタンを押し、要件を入力し、時刻アラーム設定ボタンを押し、時間を設定してアプリケーションを閉じる、というかなり煩雑なステップを踏む必要がある。これがSiriであればiPhoneのホームボタンを長押しして「9時に電話をかけるとリマインドして」と一言語るだけですべて完了する。

WWDC 2014では「iOS 8」で提供予定の「HomeKit」が発表されている。iPhoneから家電製品を制御するためのもので、Siriに話しかけることで家の照明をつけたり、施錠するといったことができるようになる

 実はGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を操作するよりも、はるかに簡単に用事が済んでしまう。パソコンに要件を言いつけて、それがかなう時代がやってきたら、それはGUI誕生以来最大の進化となるはずだ。Siriは、その重要なステップであり、実はYosemiteでも最終版には機能として追加される、というウワサもある。もっとも、今の技術で実現できるSiriは、まだまだ機能的に未熟で、OSメーカーとしては、とりあえずユーザーとパソコンの対話の場を用意して、利用者がどんな情報を探すことが多いかなどを知っておく必要もある。新たに追加された、まるでMacの顔だか口のようにも見える画面中央の検索フィールドは、そんな未来のMacへの入り口となるのかもしれない。

 もちろん、このやり過ぎ感のあるデザインには賛否両論があるだろう。いや、Spotlightだけでない。採用されているフォントにしても、新アイコンのデザインにしても、物すごく細かな愛着からこだわりを持ち、反対してくる人がいるかもしれない。

 だが、それこそがアップルの狙いだ。

 1つのものを次のステージに進化させるとき、いちいち回りの意見を聞いて調整してから1歩を踏み出したのではミリ単位の小さな進捗しか生み出すことができない。

 一方、未来へ向けてやり過ぎなくらい大胆に跳躍をしておいて、そこから「さすがにちょっとやり過ぎだった部分を調整」したほうが結果としては大きな前進を果たすことができる。

 だから、Yosemiteで新時代への跳躍を目指すアップルは、ある意味、大胆過ぎるくらいの攻めの変化を取り入れ、そしてMac OS Xの最初のバージョンがリリースされた前年の2000年以来、なんと14年振りにOSの公開β版もリリースする。

 あの2000年10月の「Mac OS X Public Beta」から2001年3月の「Mac OS X v10.0」正式リリースまでの5カ月間で、アップルがどれだけブラッシュアップしたかを知っている人なら、夏に公開βリリース、秋に最終版というわずか2〜3カ月の間でもそれなりの調整をかけてくると信じられるはずだ(関連記事:Leopardへの助走――Mac OS Xの誕生からTigerまで)。

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