とても美しいディスプレイに、性能が底上げされたカメラ。それを支えるCPUはとてもパワフルであり、軽く薄くなったことで携帯性もさらに向上。このようにiPad Air 2の進化はどれもはっきりと分かるものであり、新規購入はもちろん、今あるiPadからの買い換えも積極的に検討したくなる。他方で、今回発表されたもうひとつのiPadである「iPad mini 3」はどうかというと、新製品としての驚きや感動では、iPad Air 2よりも見劣りする。
もちろん、iPad mini 3そのものがダメなわけではない。
7.9型のディスプレイはRetina化されているし、134.7(幅)×200(高さ)×7.5 (奥行き)のサイズ感は、気軽に持ち歩くモバイルタブレットとしては魅力的な大きさだ。とりわけ電車移動の多い日本の都市部では、このサイズは重宝する。実際の利用シーンでも、電子書籍(とりわけ電子コミック)を楽しむには、iPad miniの大きさは“とてもしっくりくる”のである。
しかし、それでもなお、今回のiPad mini 3はラインアップの中での位置づけが微妙と言わざる得ない。
そのいちばんの理由は、iPad Air 2で最大の魅力となった「フルラミネーションディスプレイ」や「反射防止コーティング」を、今回のiPad mini 3では採用していないことだろう。その違いはiPad Air 2とiPad mini 3を並べて見れば一目瞭然である。iPad Air以上にモバイル環境での利用が想定されるiPad miniだからこそ、この新開発のディスプレイ技術には対応してほしかった。
さらにiPad mini 3は、カメラ性能が500万画素どまりであり、機能面でもスローモーション撮影に対応していない。CPUもA8XではなくA7プロセッサ搭載であり、Wi-Fiも802.11acに対応していない。先代のiPad miniとの数少ない違いは、指紋認証システムの「Touch ID」に対応したくらいだ。
むろん、筆者がこれまで何度か指摘したとおり、Apple流のモノ作りにおいて、スペックの数字は絶対ではない。製品の性能の違いが、ユーザー体験の決定的な差ではないことを証明し続けてきたのが、iPadやiPhoneだった。その観点でいえばiPad mini 3は先代譲りの完成度の高さはそのままであり、実用上の不満があるわけではない。問題は“iPad mini 3の位置づけの曖昧さ”なのだ。
iPad Air 2が薄く軽くなり、新開発のディスプレイによってモバイル環境での視認性においてはiPad mini 3を大きく上回った。他方で、iPad mini 3とほぼ同じ性能の先代モデルが、iPad mini 2の名称で値下げされて併売される。iPad mini 3を選ぶ理由は「Touch IDが使えること」と「ストレージ容量 128Gバイトモデルがあること」「本体色としてゴールドがあること」しかない。
今回、iPad Air 2とiPad mini 3を使ってみて改めて感じたのは、「iPadの基本であり主軸は、9.7型モデルのiPad Air」だということだ。小型のiPad miniシリーズの凝縮感や、どこにでも持ち出したくなる携行性の高さは確かに魅力だ。しかし、iPhone 6 Plusの登場で、iPhone側の画面サイズが拡大しつつある中で、iPadは初代からの基本サイズである9.7型に立ち返ってきている。
そういった背景まで考えると、今回の注目は断然「iPad Air 2」ということになるだろう。新型ディスプレイは屋内/屋外ともに見やすく美しく、サイズや重量の面でも十分に持ち歩けるものになっている。そしてモバイル用途まで鑑みれば、Wi-Fi+Cellularモデルを選んだ方がいいだろう。
iPad Air 2とiPad mini 3の発売は10月24日。まずは店頭で、その魅力にじっくり触れてみることをお勧めしたい。
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