「サティアCEOの考え」とは何か。もちろんMicrosoft全体の戦略とも関連する部分ではあるが、Office製品についてフォーカスするとそれはより明快だ。「Office Everywhere, For Everyone」という標語にほとんどが集約されていると言っていいだろう。
かつてのOfficeは、ソフトウェアをパッケージ化して販売していた。途中、物理的なパッケージからライセンス付与という形態に流通が合理化されたが、「道具としてのアプリケーションを販売する」ことは同じだった。
しかし時代は変化し、パッケージ販売では解決できない問題が起きている。人々が1台ずつのコンピュータを使って物事の解決に使う時代は過去となり、多様なコンピュータ機器を使うことが当たり前となり、また外部ネットワークサービスとの連動も必要になっている。
そこで、ソフトウェアパッケージの販売から、Officeを用いてユーザーが日々取り組んでいる仕事全体をサポートするサービス商品へと切り替えようとしているのだ。
別の言い方をすれば、時代が変化したことで、ビジネスパーソンの仕事術が変化してきている。誰もがモバイルのコンピュータデバイスを持ち、移動時に時間を惜しんでメールや書類のチェックをし、ちょっとした修正や指示メールなどを作成する。そうすることで効率が高まり、さまざまな時間短縮を生んでいく。
これはMicrosoftのように、情報を扱う仕事道具(Office)を提供している側からすると大きなチャンスでもある。「PC」の枠に利用者を縛り付けてOfficeを使わせるのではなく、いつでもどこでも仕事ができる環境を用意することで、利用者との接点を増やし、利用時間を長くできるからだ。そのために、Microsoftはパッケージ販売から脱却した。
いずれも米国での数字だが、ビジネスパーソンは平均4台のコンピュータデバイス(スマートフォン、タブレット、PCなど)を用いており、デバイスに向かい合う時間は毎日162分に及んでいる。そして、そのデバイスで何らかの生産的な作業を行う時間は、1年前よりも19%増えた。いずれも仕事術のモバイル化がもたらしたものだ。
そして世界中で10億の人がOfficeを使い(7人に1人がOfficeで仕事をしている計算になる)、Office for iPadは4000万ダウンロードを記録し、個人向けOffice 365サービスは700万ユーザーを集めた。Microsoftの新戦略は、複数のモバイルデバイスをクラウドで結びつけて利用する新たなワークスタイルの中で使われる「新たなプラットフォーム」にOfficeを押し上げた。
ここでは「Office」という1つのカテゴリにフォーカスしたが、CEOがサティア氏に変わかってからのMicrosoftは、次々に旧態依然としていたビジネス手法を変えてきている。
例えばエンターライズの世界では、Microsoftはオラクル、SAP、セールスフォース・ドットコムと相次いで提携し、クラウド・サービスのAzureやOffice 365などとの相互乗り入れメニューなどが提供されることになった。
またエンドユーザーの目に触れやすい部分では、先日のDropboxとの提携もあるが、それ以上に「Office 365ユーザー向けのOneDriveから容量制限を撤廃する」というニュースに驚いた人もいるかもしれない。
いずれも従来からのビジネスの枠組みにとらわれるのではなく、新たな事業環境の中で顧客中心主義で「どうあるべきか」を考えた結果と言える。Officeユーザーに対して仕事をする場と道具をサービスとして提供しているのに、馬鹿馬鹿しくもクラウドストレージの容量ごときで、仕事の進行に影響を与えるような制限を加えるべきではない……といったところだろうか。
今、Microsoftは新CEOの元であらゆることが変化し、考え方を変えて、今までの製品を、今までとは違う考え方で提供することにエネルギーを注いでいる。まだまだこの変化は続くだろう。
テクニカルプレビューが続けられているWindows 10も、そうした「サティア改革」の影響を受ける可能性は高い。現時点では操作性やOneDriveとの統合といった表面的な機能の変化、テストが評価の中心となっているが、Windowsのビジネスモデルに関しても大きな考え方の変化があるかもしれない。
Surfaceの戦略もSurface Pro 3の発売後に好転してきており、後じんを拝しているWindows Phoneを含め、かつてないほどビジネススタイルを柔軟に変えているMicrosoftが何をしようとしているのか。注目すべき状況になってきた。
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