そうなると一方で気になるのが、Microsoftの収益モデルだ。前CEOのスティーブ・バルマー氏はMicrosoftの黄金時代を支えた経営者だが、一方で「Windows+Office」という柱の次を作り出せず、ある意味で同社を停滞期へと誘導してしまった。
筆者の予想ではあるが、既存のOEM主体のビジネスモデルではコンシューマー向けの事業を維持するのはさらに難しくなると考えられ、これを回避して次の時代の事業構造を作りつつあるのがナデラ氏の一連の動きとみられる。
まず昨今のMicrosoftの特徴として、エンタープライズ事業が底堅い収益源となっていることが挙げられる。現在でもすでに、Microsoftのコンシューマーとエンタープライズの売上比率は「1:2」程度となっているが、今後もさらにエンタープライズからは「Microsoft Azure」と「ライセンス」の2つを中心に事業を構築していくことになるだろう。
一方で難しいのがコンシューマー事業だ。スマートデバイスでみればAppleやGoogleといったライバルはOSなどのソフトウェア収益を重視しておらず、OEMライセンスが収益源のMicrosoftには不利だ。そのため、競合製品となっているタブレットの小さい画面サイズのものを中心にWindows OSやOfficeの無償化で対抗している。
ライバル製品と直接競合しないハイエンドPCやエンタープライズ向けはProfessional版のOEMやライセンス収入である程度カバーできるため、「もともとOEM価格の引き下げ圧力が強まって収益の落ちていたミドルレンジ以下のコンシューマー製品はいっそ無償化してしまえ」という判断だったのだろう。Officeの無償提供は、Windowsタブレットの差別化戦略の一種だと考えられる。
だが、これではエンタープライズの収益でコンシューマー分野での焦土作戦を実行しているようなものだ。収益そのものにはつながらない。
そこで登場するのが「Office 365」だ。企業向けではなく、一般ユーザーが有料サブスクリプションのOffice 365を導入するメリットはいくつかある、まずフル機能の最新Office製品をPCに限らずどこでも利用できること、そして冒頭でも紹介した「容量無制限のOneDriveクラウドストレージ」の利用権だ。
Office for iPad/iPhoneアプリでは11月6日(米国時間)のアップデートで、従来Office 365契約ユーザーの特権だった「編集」機能の一部がサブスクリプションなしで利用可能になっており、Office利用の間口が広まった。
一方、実際に業務でOfficeを使おうと考えたとき、便利な機能の多くは依然Office 365専用で、ユーザーにサブスクリプション契約を促す形態となっている。例えば「Office 365 Solo」を契約した場合、年間で1人あたり1万2744円の収入がMicrosoftにもたらされるわけで(原稿執筆の2014年11月現在)、おそらくはWindowsやOfficeを売り切りモデルで個人ユーザーに提供するよりは効率がよい。
ユーザーにとっても、Office 365さえ契約すれば、PCでもタブレットでもスマートフォンでも、好きなデバイスでOfficeの機能や容量無制限のOneDriveが利用できるわけでメリットとなる。
筆者は以前に「(Microsoftの収益増大が理由で)Windowsもいずれサブスクリプションモデルに移行するのでは……」と予測していたが、実際には「Officeのサブスクリプション化」がその役割を担うことになりそうだ。
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