「Windows 10」が目指す世界とは?――Microsoftの反転攻勢シナリオ本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2015年01月23日 09時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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Windows 10で実現される世界観

 ヒントの1つは、Xbox部門トップのフィル・スペンサー氏がデモンストレーションした、XboxとWindows 10のコミュニティ統合だ。

 Microsoftの「Xbox One」は北米市場では健闘しているものの、欧州市場ではソニーの「プレイステーション 4」に大きく引き離されている。必然的にネットワークゲームのコミュニティは小さくなり、PS3が同様に欧州でまだ伸びていることも加え、その差は開く傾向にある。

 これに対し、Windows 10には「Xbox App」というアプリケーションが標準で搭載され、Windows用ゲームのプレイヤーがXbox Liveのコミュニティへと参加可能になる。こうすることでXbox Liveを活性化させ、PCでもコンソールでも、境目なく同じ「Windowsファミリー」のデバイスとして同じネットワークを共有可能になる。

 ほかにもXbox One用ゲームのWindows 10デバイスからのリモートプレイなども披露されたが、従来はまったく分離されていた2つの世界を結びつけることで、より大きなネットワークへと成長させる意図を感じさせる。

Windows 10は「Xbox App」アプリにより、Xbox Oneで利用できるXbox Liveの機能やプレイ映像の録画、Xbox Oneで実行されているゲームのストリーミングプレイなどを実現する

 いわば「Windowsユニバース」とも言うべき世界観だが、Surface HubとHoloLensも、境目なく多様な種類のデバイスが結び付く様子を表している。

 Surface Hubは、タッチ操作が可能な84型のデジタルホワイトボードとも言うべき製品だ。Surfaceシリーズは積極的にOEM先のメーカーが参入していない市場に新製品を投入し、新ジャンルの着火剤となることを狙っている。

 Surface Hubと対になる電子会議機能がWindows 10に組み込まれており、Windows 10デバイス(PC、タブレット、スマートフォン、おそらくXboxも)からSurface Hubに接続することで、Webページやプレゼンテーションスライド、各会議室の映像を使いこなした会議に簡単に参加可能となる。

84型のタッチ対応4Kディスプレイをデジタルホワイトボードやビデオ会議システムとして利用できるSurface Hub

 HoloLensは、Windows 10が新たに標準装備する“Windows Holographics API”という機能のコンセプト、可能性を見せるために作られたプロトタイプだが、Surfaceシリーズと同様に製品化を目指している。

 どのような製品なのかは、こちらのリンク先を見るほうが分かりやすいだろう。HoloLensは本体に備えた透過スクリーンに高精細な立体映像を映し出し、内蔵するステレオカメラを用いて周囲の情報を獲得。同社が“Holo Processing Unit(HPU)”と呼ぶ専用プロセッサで処理を行い、実映像に合成表示する仮想現実と現実空間の間をつなぐデバイスだ。

 HoloLensはスマートフォンなどの助けなしに動作が可能という。デモ映像を見る限り、日本のベンチャー「FOVE」がVRディスプレイに組み込んでいる視線入力に似た機能もあるようだ。

 MicrosoftはHoloLensによって、「Oculus Rift」やFOVEのようなベンチャーを蹴散らそうとしているわけではない。前述したようにWindows 10に標準装備されるHolographics APIを用いたデバイスと、そのアプリケーション市場を開拓することで、VRやARといった世界とWindows 10をつなげようとしているのだ。

HoloLensは、現実の空間に映像や情報を重ねて表示する拡張現実(AR)を実現したVRヘッドマウントディスプレイ。投影する情報はホログラフィック技術(Windows Holographic API)により3Dで表示され、ハンドジェスチャーや音声によってアプリケーションを操作したり、オブジェクトを操れる

クロスプラットフォーム対応をWindowsユニバースの呼び水とできるか?

 ネットワークの中で連動し、単体の機器、コンピュータだけでは実現できない価値を提供する。そのためには、そこに接続されたOSの支配力が必要になる。ネットワークの中でマジョリティとなれば、そこに価値を創造していける。そのことを実証してみせたのがAppleだった。

 Microsoftの悩みは、Windows 10を継続的に改良し、Windowsユニバースをより素晴らしいものへと磨き込んだとしても、果たして支配力が及んでいないタブレット(PC的タブレットではなく、純粋なタブレット端末)やスマートフォンなどの分野でWindows 10が使われなければ、その長所を生かせないことだろう。

 蛇足だが、本社も全員にWindows Phoneが配られ、社用スマートフォンがWindows Phoneに統一されていたが、この枠が最近外されたそうで、今月本社を訪問した際にはiPhoneユーザーが増えていた。Windows 10は優れたマルチデバイスをサポートするOSに仕上がっているかもしれないが、アプリやコンテンツなどを含めたエコシステムの循環という点で、まだまだ不安は大きいはずだ。

 ここでカギとなってくるのが、もう1つのクロス戦略。すなわち、iOSやAndroidも端末としてサポートする「クロスプラットフォーム戦略」だ。ご存じの通り、ナデラ氏がCEOになってからのMicrosoftは、クロスプラットフォーム(他社製OS、エコシステムに対してもアプリやサービスを提供する)戦略を推し進めてきた。例えばOfficeに関しては、iOSやAndroid版のアプリケーションも提供し、Officeは加入型のビジネスモデルへと移行させている。

 発表会では明言されていなかったが、ゲームの世界やホログラフィックスの世界、それにSurface Hubがサポートする電子会議機能に関しても、iOSやAndroidが作るコミュニティとの窓口は作る(具体的には対応アプリの提供)はずだ。それでは何がWindowsの価値になるのか。

 ナデラ氏は「我々は今後もクロスプラットフォームで製品の価値を提供していくが、その中で最も優れた体験が得られるのがWindows 10となる。世界中には15億台のWindows PCが稼働している。私たちはWindows 10を、これまでで最もユーザーから愛されるWindowsにしたい」と語り、発表会を結んだ。

 前述したようにMicrosoftが支配力を持つジャンルには、かなり極端な偏りがある。これはすぐさまどうにかなるものではないが、Windows 10が描き出す世界へ参加する窓をクロスプラットフォームで提供し、よりよい体験を得るために「Windowsファミリーを選びたい」と考えさせる。果たしてそんなにうまく行くのか。

 筆者は現在のMicrosoftがコンシューマー市場における存在感を高めるために、最も短い道のりを賢く選択したと感じた。未来へ向けて新たに踏み出す方向を示したという点で、今回の発表が「パーソナルコンピューティングの歴史」において、大きな意味を持つものになると思う。

Microsoftのクロスプラットフォーム戦略で中心となるWindows 10。スマートフォンからタブレット、PC、Xbox、さらには新発表のSurface HubやHoloLensまで幅広くサポートする

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