VAIO Z Canvasのペン(デジタイザスタイラス)はN-trig製で、ペン側に単6形電池1本を必要とする。N-trig製のペンは近年、Windowsタブレットや2in1デバイスで採用例が多く、すでに他メーカーのPCで触ったことのある人も多いかもしれないが、過去記事にもあるようにVAIOでは独自のチューニングで描き味に磨きをかけているという。
実際に使ってみると、確かに絵が描きやすい。例えば、線をつなげて描きたいような時もペンの位置がズレにくいと感じた。視差が小さいことも、ズレを感じにくい理由の1つだろう。「Tablet PC設定」の「ディスプレイオプション」でペンの位置調整もできるので、自分に合った位置にポインタを調整することもできる。従来機に比べて、画面からペンを少し浮かせたホバー時のポインタ追従性もよくなった。
下に掲載した絵は、下書きを元にペン入れをしてみたものだが、顔のラインなど繊細に描きたいところもおおむねイメージ通りに線が引けた。グレア仕上げのディスプレイはペンが滑りやすく、そのせいで線がぶれてしまうことはあったが、この点は気にならない人も多いと思う(筆者は紙に近い摩擦を重視する派で、ツルツルが苦手である)。
これが気になる場合でも、ノングレアシート等で滑りにくくするという方法がある(VAIO Z Canvasの発売時には同社の他モデル同様、ノングレアで摩擦係数の高い液晶保護シートと、工場での貼り付けサービスが提供されると思われる)。筆者としては、摩擦係数の高いペン先を用意してもらえるとさらにありがたい。
ディスプレイ上に定規を置き、直線を引いてみるテストも行ったが、ゆがみも少なく満足のいく結果となった。ただし、線をあえて非常にゆっくり引いてみるとゆがみが大きくなり、きれいな直線にはならなかった。これはN-trig製のデジタイザスタイラスが苦手とする動きのようだ(今後のチューニングで、ある程度改善される可能性もある)。テンポよく絵を描いていれば気にならないが、ペンを“じっとり”を動かすと、挙動が気になってくる人が出てきそうだ。
筆圧レベルは、ソフトウェアによる1024段階の筆圧調整が可能で、ハードウェアとしては256段階に最適化して出力される。使ってみた印象としては、ペンの強弱の変化は十分に滑らかで、ストレスを感じることはなかった。
「VAIOの設定」ユーティリティでは、筆圧の効きを「標準」「硬い」「柔らかい」から選んだり、より細かく「筆圧」と「線の太さ」のカーブを2点の操作でカスタマイズしたりもできる。ペンが搭載する2つのボタンの機能も変更可能だ(初期設定では、下のボタンを押しながら描くと消しゴムになる)。物理的なペン先自体も、硬いもの(ブラック)と柔らかいもの(グレー)の2種類から好みの方を選べる。
試用している中では、画面に近づけたペン先のポインタが震えるといったイレギュラーな挙動にもたまに遭遇したが、あくまで開発中の試作機だ。最終的にはさらに洗練されたものになるだろう。VAIOはさまざまなクリエイターにこの試作機を使ってもらい、開発にフィードバックして改善しているそうなので、5月に予定されている発売までにどれくらいチューニングが進むのかにも期待したい。
現時点でも、全体としてはなかなかの描き心地であり、従来のWindowsタブレットの描き心地に不満を感じていた人も、VAIO Z Canvasであれば「おっ!」となる人も多いのではと思う。
ちなみに、VAIOの特設Webサイトでは、『聖☆おにいさん』などの作品で知られる漫画家の中村光さんが試作機で実際に絵を描いた際の感想を語っている。ここで描いた絵は2月21日に発売される『モーニング・ツー』の表紙を飾るという。
漫画界の第一線で活躍する中村さんも、「今までは、最初に描く輪郭線は絶対に紙でなくちゃ納得できなくて、着色はスキャンしてデジタルで彩色していたのですが、今回は全部この中で普通にできました」とコメントしており、描き味には一定の評価をしているようだ。
むしろ中村さんとしては、AppleのハイエンドデスクトップであるMac Proと比較した場合のマシンパワー不足が多少気になったようで、VAIO側の担当者はマシンパワーについて「まさに今、改良」しているところだと返している(さすがにMac Proクラスの性能は難しいが、15インチMacBook Proクラスのハードウェア性能をどこまで引き出せるか、放熱設計もさらに追い込んでいるという)。
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