Apple Watchアプリは「読ませたら負け」“ゼロハリ”竹村教授のつれづれスマートウォッチ(後編)(2/2 ページ)

» 2015年07月10日 11時21分 公開
[竹村譲ITmedia]
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第3世代腕コンが生き残るためにできることは

 このように、10年から15年に一度、驚異的に盛り上がり、その後の急速に盛り下がるのがスマートウォッチ市場だ。ICT界全体のパーツテクノロジーの進化や、ネットワークテクノロジーの進化と低価格化、クラウドコンセプトの拡大などによって、「腕コン」(現代のスマートウォッチ)も接続対象となる相手(パートナー)や主たる使い道(アプリ)は少しづつ、ひょっとすると、ダイナミックに変化している。

 過去から現在までの「腕コン」をひとくくりに言い切ることは難しいが、Timex Datalinkを除き、第一世代の腕コンは、当時の凝縮化テクノロジーの成果が産んだ“自分中心の極めて小さなPC”だった。これが、第二世代になると、Pager(ポケットベル)を利用するSwatch Spotを除いた腕コンは、すべて独自のOSを導入し、多様な無線技術を利用して、当時の親機であるPCと連携、経由することでより広い外界への接続を確保したコンパニオン・デバイスだった。

 そして、Android WearやApple Watchなどのスマートウォッチで盛り上がる第三世代の腕コンは、外部へのネットワーク機能を委ねていた親機であったPCから決別し自立したかに見えたが、実はその寄生先をスマートフォンに切り替えたコンパニオン・デバイスに過ぎない。

 しかし、腕コンも第三世代まで生き延びてきて、やっと、その“生息環境は熟してきた”と考えるのが妥当だろう。まず、巷にはグローバルな低価格ネットワークがあふれている。そして、いまや国民の多くが持っているスマートフォンの既契約ネットワーク機能を堂々とタダ乗りできる。

 そして、これまた多数のWebサービスや、データのリンク先や置き場所として、競争激化で低価格化とユーザの囲い込みに余念のないクラウドサービスがたくさんある。後は、ユーザーが泣いて喜ぶキラーアプリさえ用意さえすれば、第三世代腕コンは一過性のブームではなく、衰退することなく定着するかもしれない。

 そのためには、どうしても越えなければならない壁がある。Appleの文化的にいうなら「いままで誰も見たことも経験したこともない無限の可能性を感じさせる」アプリということになる。しかし、通知の時差伝言板として使うだけで、いまだPCやタブレット、スマートフォンの外部ディスプレイの域を出ていないスマートウォッチには解決しなければならない課題も多い。

 ただ、第一世代、第二世代の腕コンが、本体だけで何かを成し遂げようと考えたように、第三世代の腕コンにもその試みが始まっているようだ。しかし、それは正しい試みとはとは思えない。ネットワークインフラやクラウドサービスをはじめとして腕コンを支える周囲の環境はすでにそろっているのだから、腕コンは小さなことをコツコツと確実にこなすトリガーデバイスを目指すべきだろう。

 文字の伝達力や音声発声の潜在パワーは計り知れないが、現時点においてフィードバックデバイスとしてのスマートウォッチは、PCやタブレット、スマートフォンに比較して貧弱だ。まして、“時計”は、そのサイズ的制約から人の指先による操作が安全確実にできるデバイスでもない。

 ユーザーのシンプルなオーダーをシンプルな操作系で受け付け、必要最小限の答えをスマートフォンに返信するシステムだけでもユーザーが支持してくれるアプリはできそうだ。すでにライフログ系やスポーツ系に特化したスマートウォッチはそれなりに道を見つけている。

 私が考えるスマートウォッチの望むべきアプリの姿は「ユーザに画面を読ませたら負け」だ。そして、指先の操作は極めてシンプルで誤操作のないものがいい。タップ一発でクラウドサービスの英知とパワーで便利なアクションが起動し、実行、完結、報告するのが基本フローになる。

 すでに類似のアプリが登場しているが、スマートウォッチに「タクシー」と声をかければ、タクシーのアイコンを表示して、承認のボタンをタップしてしばらく待てばタクシーの到着時刻を表示し、あとはじっと待っていればタクシーが到着するというイメージだ。

 スマートウォッチに表示した大きなアイコンをタップさえすれば、現在の位置情報とともに、あらかじめ設定した短いメッセージを目的の人に自動でメールすることはDo button by IFTTTでも実現している。すべてのお膳立ては、事前にスマートフォンやPCでやっておくことは今ではごく普通のことだ。

 メーカーが想定するスマートウォッチのユーザーセグメントも私(竹村氏)には極めて疑問だ。不定形でゴールの見えない業務をビシバシこなし、ハックを使い、スマートなモバイルPCを操作してスタバでドヤ顔を決めるスーパービジネスマンは決してメインユーザではないはずだ。

 どちらかといえば、スマートウォッチのユーザーセグメントは、階層的な大組織で、進捗チェックを繰り返しながらタイムスタンプを離せない不特定多数のワーカーの必携アイテムになるはずだ。まだまだ多くの矛盾や問題を抱えるスマートウォッチだが、そこに大きな未来の可能性が潜んでいることも真実だ。AppleにもGoogleにも期待するところは大きい。

 しかし、ハードとしてのスマートウォッチそのものに関しては、ICT系ではない伝統的なスイスのマニュファクチュールに期待したい気持ちも強い。第三世代の腕コンはあくまでユーザーを豊富なクラウドサービスへ気持よく案内するコンシェルジュの達人として頑張ってほしいと思う。でないと、またしても第四世代の腕コンに期待するしかなくなりそうだ。

TUG HeuerはCARRERAシリーズでAndroid Wearに準拠したスマートウォッチを2015年に発表することを表明している

一方、ファーウェイがMobile World Congress 2015で発表したAndroid Wear準拠のスマートウォッチ「Huawei Watch」でも、“装飾品”としての時計を強く意識している

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